海ちゃんとお別れした後、すすむくんと帰った。いつもの公園を通ったときに
「ねぇ、これ。」
とすすむくんがランドセルから何かを出してきた。
「箱?」
少し小振りの木箱みたいだ。すすむくんの両手に収まっているそれを受け取る。
「お姉ちゃんと僕から。」
箱を開けると音が鳴り始めた。
「オルゴール?」
「そう。」
とだけ、すすむくんは言った。
「ありがとう。元気でな。」
「僕、お姉ちゃんと真白くんと過ごせて楽しかった。」
なんとなく地面を見ると海ちゃんに持って行った花が咲いていた。2本だけ摘んで、1本をすすむくんに渡した。
「僕に?」
すすむくんが不思議そうな顔をしながら受け取る。
「思い出になるかなって。」
そういうと、すすむくんは花から俺に目線を移した。そして、初めて会った時のようにお辞儀をして
「ありがとう。」
と言った。すすむくんを見送った後、俺は大切に花とオルゴールを持って帰った。花は春を告げるような甘い匂いだった。

そして俺はお父さんのいる国に行った。
お父さんとお母さんと過ごす新しい家で、俺は自分の部屋をもらった。屋根裏部屋みたいな雰囲気が落ち着く。ベッドの傍の机に布をひいてオルゴールを置いて少し開けた。オルゴールの音を聞きながら、ベッドに寝転がる。
俺は音楽には詳しくないから何の曲かは分からなかったけど、オルゴールはポロンポロンと心地良い音を立てた。ふとオルゴールを見ると蓋の内側に絵が描いてある。蓋を少し開けたら音が鳴る仕組みだったせいで、絵に気づいてなかった。
「海の絵だ。」
綺麗な絵が気になってオルゴールを持ち上げる。蓋が海の絵だから外側の木彫りも貝殻なのか、とまじまじと見ていたら、底にも蓋があることに気づいた。
「何これ。」
蓋を取ってみる。すると薄い紙が1枚出てきた。綺麗な水色の紙に濃い青で字が書いてある。
「手紙…?」

『真白くんへ
手紙、読んでますか?
直接言うのも、手紙を渡すのも勇気が出なくて、オルゴールに手紙を隠しました。
毎日来てくれてありがとう。
1年間、すごく楽しかったです。
どの1年より真白くんとすすむと3人で過ごす1年が楽しくて、色んなことしたのに一瞬のようでした。
私とすすむは、もうすぐ遠くに引っ越す予定です。近くには海があるみたい。初めて見る海で真白くんを思い出すんだろうな。
引越しのこと言えなくてごめんなさい。
いっぱい思い出をくれて、ありがとう。
さようなら。身体に気をつけて過ごしてね。
海より』

「これ…」
手紙を持つ手が、少し震える。
わざわざ気づくか分からない場所に手紙を隠すくらいだから、もう会えないのだろう。この手紙に気づかなければ、もう会えないなんて知らずにいられたのに。海ちゃんは、この手紙に気づかないことを望んでいたのかもしれない。気持ちを知りたくても、もう聞くことはできない。目を思いっきり擦り、窓を開けると、近くの海が見えた。潮の香りがする。鼻がツンと痛くなるくらい息を吸う。俺は、海を見るたびに大切な1年間を思い出すのだろう。