今日も公園で花を摘んでいたら声をかけられた。
「すすむくん、こんにちは。」
花を摘んでいた顔をあげる。昨日、僕を助けてくれた真白くんだ。
「俺もお見舞いに行っていい?」
その言葉にうなずくと、真白くんが僕の隣にしゃがんで一緒に花を摘み始めた。
「…お姉ちゃんさ、花はいっぱいもらうけど、たんぽぽとか…そういう花は花屋さんの花では見ないから喜ぶ。」
「へぇ〜」
お父さんとお母さんと病院に行けなかった日に花屋さんで買う花の代わりに公園で摘んだ花をあげたらお姉ちゃんはとても喜んでいた。僕が普通に見れるものをお姉ちゃんはなかなか見ることが出来ないから。
チラリと真白くんを見る。
今は春を少し過ぎた頃なのにまるで真夏のような褐色の元気そうな肌。濃いところと淡いところがあるキラキラの青色の目。お姉ちゃんが行ったことのない海みたいだ。僕はお父さんとお母さんに何回か連れて行ってもらったけど、お姉ちゃんに貝殻しかお土産に持ち帰ることは出来なかった。写真を撮ったりしたけど、本物の海を見せてあげることは出来ない。
「そろそろ行こ。」
真白くんを案内するように前を歩く。真白くんは僕と同じように大切そうに摘んだ花を持っていた。

病室に着いたらいつも通りにお姉ちゃんが迎えてくれた。後ろにいる真白くんに少し驚いた顔をした後、ふにゃりと嬉しそうに笑った。
「こんにちは。真白くん、すすむ。今日ね、桜餅いただいたのよ。少し季節外れだけど。一緒に食べよう?」
「海ちゃん、こんにちは。これ俺とすすむくんから。」
僕に並んで真白くんが花を渡す。花をお姉ちゃんに渡した後、僕はお姉ちゃんが集めている小さい瓶に水を入れた。お姉ちゃんが嬉しそうにひとつひとつを順番に見ながら、瓶に飾る。真白くんは初めてきたときのように少しぽわぽわしながらお姉ちゃんを見ていた。3人で桜餅を食べて、お姉ちゃんの部屋にあるぬいぐるみやお見舞いにもらったものの話をした。
「でもね、私、すすむが持ってきてくれる花が特に好きなの!お外の季節が私の部屋に来てくれたみたいで!」
お姉ちゃんは満面の笑みでそう言った。
「俺も毎日来るよ。すすむくんと。花を持って。」
真白くんが緊張したように言う。お姉ちゃんは少し顔が赤くなりながらも嬉しそうに頷いた。

真白くんは、本当に毎日僕と一緒にお姉ちゃんの病室に行った。3人で色んなことをした。夏はスイカを食べて、みんなでペットボトルで風鈴を作った。秋は花と一緒に紅葉も持って行ってお揃いの栞を作った。冬にはサンタさんからもらったクリスマスプレゼントを見せ合って、雪が降った日は雪うさぎを作って病室に持って行って看護師さんに怒られた。お姉ちゃんは笑いながら、お皿の上に雪うさぎを置いて冷凍庫にしまっていた。

色んなことをしたけど、お姉ちゃんが特に喜んだのは真白くんが持ってきた絵葉書だった。見たこともない異国の風景は色鮮やかだ。真白くんは、外国に住んでるお父さんから送られてきた絵葉書だから自分も知らない景色だ、いつか行ってみたいって言っていた。

いっぱいいっぱい楽しいことをした。1年があっという間で、でもただ一瞬なだけじゃなくて、沢山の思い出ができた。

お姉ちゃんと真白くんを見た。楽しそうに話している。僕がいじめられてるのを助けてくれた優しい真白くん。おだやかな海を想像するような真白くんとお姉ちゃんを見て、僕はお似合いだと思った。