その晩、俺が自室でコーラを飲んでいると、夜中だというのにドアをノックする音が。
ドアを開くと、思い詰めた表情のハカセが立っていた。
「イチロー、夜遅くにごめんね。どうしても話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」
「俺は別にいいけど、とりあえず入りなよ」
俺はハカセを部屋に招き入れて、奥のテーブルに座らせた。
温かいココアを用意してハカセの前に置いた。
「ありがとう……温かくて美味しいね……」
「それで、話したいことって?」
「あのね……私、イチローに2つほどお願いがあるの……」
そう言い出したハカセだったが、すぐに黙り込んでしまった。
ハカセは言いたいことをハッキリ言うタイプなので、こういう状況は初めて見る気がする。
「ハカセのお願いだったら、喜んで聞くよ。今までだってそうだったじゃん?今日は一体どうしたんだ?」
俺がそう言うと、ハカセの表情が少し和らいだようだった。
そして、意を決したように話し始めた。
「イチロー、私と結婚してください!」
「え……今なんて?」
「何度も言わせないでよ……。私はイチローと結婚がしたいです。イチローの妻にしてほしい……」
俺は混乱していた。
ハカセが好意を寄せてくれていることは、サクラ氏に散々からかわれていたので多少は理解していたのだが……。
これはドッキリ企画なのかな?
「本気で言ってるの?っていうか、俺なんかでいいのか……?」
「私は本気。イチロー以外考えられないし、気持ちは未来永劫変わらないと断言できる」
「そうか……俺はね、もちろんハカセの事は大好きだよ。でもね、俺達は家族も同然だったし、妹のような気持ちで大事な存在だったんだ。正直なんて答えればいいのか……自分でもよく分からないんだ……」
「そうよね、急にこんな話をしてごめんなさい。私、まだ見た目が子供だし……色々難しいわよね」
「さすがに、子供のハカセと結婚するのは色々と問題があると思うんだ……嫌だとかじゃないんだよ」
「結婚は今じゃなくてもいいの。例えば私達の国では17歳で結婚できたから、5年間は婚約ということならどう?」
「いや、婚約だとしてもさ……色々マズイような気がするんだよ。なんか開けちゃいけない扉を開けちゃうような……」
「あのね、私はイチローと10年以上一緒に過ごしているんだよ。12歳の頃からだから、実年齢は22歳。イチローに初めて会ったときと同じくらいでしょ」
そう言われてみれば確かにそうだ。
外見は子供のままだけど、内面は色々成長しているはずで大人として正しい判断ができるようになっているはずだ。
「22歳と婚約なら問題ないはずよ。今の私は子供の体だけど、恐らく5年後にはその問題も解決される。どうかしら?まだ問題があれば言ってみて」
突然結婚を迫ってきた女性に論破されるという、なんとも不思議な状況だったが、彼女の言い分は筋が通っていると思えた。
俺はハカセを子供として見てきたけど、見ていたのは外見だけで内面は見ていなかったのかもしれない。
「そうだな、確かに問題は無さそうだ。でもさ、恋人として付き合った訳でもないのにいきなり婚約は唐突すぎるでしょ。サクラ氏と組んだドッキリ企画かと思ったよ」
「イチローは私じゃ嫌かな……?」
「嫌じゃないよ。むしろ……俺にはもったいないくらいだと思うけど、今まで恋愛対象として見てきていなかったんだ。だから、婚約者(仮)ってことでどうかな?正式な婚約は5年後に改めて行うこととして、それまではハカセの事を女性として好きになるように、俺も努力するからさ」
「つまり、結婚してくれるということでいいのね?」
「ああ、約束するよ。ハカセを大事にする」
「ありがとう……。今まで色々あったけど、私……生きてきて良かった……」
ハカセは大粒の涙を流しながら、俺に抱きついてきた。
俺は優しく頭を撫でながら、重い責任を感じていた。
自分が結婚するなんて、考えたこともなかったから……。
――
「それで、もう1つのお願いなんだけど……」
「なんだろう、もう何が来ても驚かない気がするよ」
「イチローは炭酸飲料を飲まないでほしいの……」
「えっ?」
「イチロー、驚いてる……驚かないって言ったのに……嘘つき」
「いや、さすがに驚くだろ……俺の大好物だぞ。一体どういうことだよ?」
「だって、イチローが炭酸を飲んだら……私との肉体年齢差がさらに開いちゃうじゃない!逆に飲まなければ縮まるのよ」
「それはハカセにとって重要なことなのか?」
「私、早く大人になりたい、イチローに追いつきたいってずっと思ってたから……これはそのチャンスじゃないかって気付いたの。でもね、このお願いだけだと重たすぎるから……私が妻になることで責任を取ろうかと思ったの」
「そっか……ハカセなりに俺の事を考えてくれていたんだね。未来の妻のお願いとなれば断れないじゃないか……。えっと、我慢するのは5年でいいのかな?」
「そうね、本当は10年と言いたいところだけど、イチローの貧乏舌が可哀想だから5年にしておいてあげる」
「アリガトウゴザイマス」
「じゃあ、このお願いも聞いてくれるということでいいのね?」
「ううう……明日から何を楽しみに生きていけばいいんだろう……」
「かわいい婚約者(仮)でも眺めればいいんじゃないかしら」
「どうやら、恐ろしい女と婚約してしまったようだ……」
「何か言ったかしら?」
俺達はお互いに顔を見合わせ、2人で爆笑した。
案外いい夫婦になれるのかもしれないな。
「じゃあ、私そろそろ行くね。おやすみなさい」
ハカセを見送ろうと部屋を出ると、そこにはサクラ氏が待っていた。
ハカセはサクラ氏に親指を立ててニッコリ微笑んだ。
その姿を見て、サクラ氏は号泣しながらハカセに駆け寄り、抱き合った。
「さくらああ……」
ハカセはサクラ氏の顔を見て緊張の糸が切れたのか、堰を切ったように泣き出した。
2人が抱きしめあって号泣する姿を見て、ハカセを大事にしなければという思いがより強まった。
「ハカセ、良かったね……本当に良かった……。イチロー、お前命拾いをしたな。もし断っていたら殺していたところだ。ハカセは私が責任を持って絶世の美女にしてやるから楽しみにしてろよな」
「サクラ氏がそう言ってくれるなら期待しちゃうな」
「その代わり、ハカセを泣かせたら……今度こそマジでぶっ殺すからな!」
俺、結婚まで生きていられるかな……。
ドアを開くと、思い詰めた表情のハカセが立っていた。
「イチロー、夜遅くにごめんね。どうしても話したいことがあるんだけど、今大丈夫?」
「俺は別にいいけど、とりあえず入りなよ」
俺はハカセを部屋に招き入れて、奥のテーブルに座らせた。
温かいココアを用意してハカセの前に置いた。
「ありがとう……温かくて美味しいね……」
「それで、話したいことって?」
「あのね……私、イチローに2つほどお願いがあるの……」
そう言い出したハカセだったが、すぐに黙り込んでしまった。
ハカセは言いたいことをハッキリ言うタイプなので、こういう状況は初めて見る気がする。
「ハカセのお願いだったら、喜んで聞くよ。今までだってそうだったじゃん?今日は一体どうしたんだ?」
俺がそう言うと、ハカセの表情が少し和らいだようだった。
そして、意を決したように話し始めた。
「イチロー、私と結婚してください!」
「え……今なんて?」
「何度も言わせないでよ……。私はイチローと結婚がしたいです。イチローの妻にしてほしい……」
俺は混乱していた。
ハカセが好意を寄せてくれていることは、サクラ氏に散々からかわれていたので多少は理解していたのだが……。
これはドッキリ企画なのかな?
「本気で言ってるの?っていうか、俺なんかでいいのか……?」
「私は本気。イチロー以外考えられないし、気持ちは未来永劫変わらないと断言できる」
「そうか……俺はね、もちろんハカセの事は大好きだよ。でもね、俺達は家族も同然だったし、妹のような気持ちで大事な存在だったんだ。正直なんて答えればいいのか……自分でもよく分からないんだ……」
「そうよね、急にこんな話をしてごめんなさい。私、まだ見た目が子供だし……色々難しいわよね」
「さすがに、子供のハカセと結婚するのは色々と問題があると思うんだ……嫌だとかじゃないんだよ」
「結婚は今じゃなくてもいいの。例えば私達の国では17歳で結婚できたから、5年間は婚約ということならどう?」
「いや、婚約だとしてもさ……色々マズイような気がするんだよ。なんか開けちゃいけない扉を開けちゃうような……」
「あのね、私はイチローと10年以上一緒に過ごしているんだよ。12歳の頃からだから、実年齢は22歳。イチローに初めて会ったときと同じくらいでしょ」
そう言われてみれば確かにそうだ。
外見は子供のままだけど、内面は色々成長しているはずで大人として正しい判断ができるようになっているはずだ。
「22歳と婚約なら問題ないはずよ。今の私は子供の体だけど、恐らく5年後にはその問題も解決される。どうかしら?まだ問題があれば言ってみて」
突然結婚を迫ってきた女性に論破されるという、なんとも不思議な状況だったが、彼女の言い分は筋が通っていると思えた。
俺はハカセを子供として見てきたけど、見ていたのは外見だけで内面は見ていなかったのかもしれない。
「そうだな、確かに問題は無さそうだ。でもさ、恋人として付き合った訳でもないのにいきなり婚約は唐突すぎるでしょ。サクラ氏と組んだドッキリ企画かと思ったよ」
「イチローは私じゃ嫌かな……?」
「嫌じゃないよ。むしろ……俺にはもったいないくらいだと思うけど、今まで恋愛対象として見てきていなかったんだ。だから、婚約者(仮)ってことでどうかな?正式な婚約は5年後に改めて行うこととして、それまではハカセの事を女性として好きになるように、俺も努力するからさ」
「つまり、結婚してくれるということでいいのね?」
「ああ、約束するよ。ハカセを大事にする」
「ありがとう……。今まで色々あったけど、私……生きてきて良かった……」
ハカセは大粒の涙を流しながら、俺に抱きついてきた。
俺は優しく頭を撫でながら、重い責任を感じていた。
自分が結婚するなんて、考えたこともなかったから……。
――
「それで、もう1つのお願いなんだけど……」
「なんだろう、もう何が来ても驚かない気がするよ」
「イチローは炭酸飲料を飲まないでほしいの……」
「えっ?」
「イチロー、驚いてる……驚かないって言ったのに……嘘つき」
「いや、さすがに驚くだろ……俺の大好物だぞ。一体どういうことだよ?」
「だって、イチローが炭酸を飲んだら……私との肉体年齢差がさらに開いちゃうじゃない!逆に飲まなければ縮まるのよ」
「それはハカセにとって重要なことなのか?」
「私、早く大人になりたい、イチローに追いつきたいってずっと思ってたから……これはそのチャンスじゃないかって気付いたの。でもね、このお願いだけだと重たすぎるから……私が妻になることで責任を取ろうかと思ったの」
「そっか……ハカセなりに俺の事を考えてくれていたんだね。未来の妻のお願いとなれば断れないじゃないか……。えっと、我慢するのは5年でいいのかな?」
「そうね、本当は10年と言いたいところだけど、イチローの貧乏舌が可哀想だから5年にしておいてあげる」
「アリガトウゴザイマス」
「じゃあ、このお願いも聞いてくれるということでいいのね?」
「ううう……明日から何を楽しみに生きていけばいいんだろう……」
「かわいい婚約者(仮)でも眺めればいいんじゃないかしら」
「どうやら、恐ろしい女と婚約してしまったようだ……」
「何か言ったかしら?」
俺達はお互いに顔を見合わせ、2人で爆笑した。
案外いい夫婦になれるのかもしれないな。
「じゃあ、私そろそろ行くね。おやすみなさい」
ハカセを見送ろうと部屋を出ると、そこにはサクラ氏が待っていた。
ハカセはサクラ氏に親指を立ててニッコリ微笑んだ。
その姿を見て、サクラ氏は号泣しながらハカセに駆け寄り、抱き合った。
「さくらああ……」
ハカセはサクラ氏の顔を見て緊張の糸が切れたのか、堰を切ったように泣き出した。
2人が抱きしめあって号泣する姿を見て、ハカセを大事にしなければという思いがより強まった。
「ハカセ、良かったね……本当に良かった……。イチロー、お前命拾いをしたな。もし断っていたら殺していたところだ。ハカセは私が責任を持って絶世の美女にしてやるから楽しみにしてろよな」
「サクラ氏がそう言ってくれるなら期待しちゃうな」
「その代わり、ハカセを泣かせたら……今度こそマジでぶっ殺すからな!」
俺、結婚まで生きていられるかな……。