道中で注目を集めつつ、俺達3人がやってきたのは秋葉原にある焼肉店【牛肉天国】である。
「いらっしゃいませ~。3名様ですか~」
「はい、予約していたイチローです」
「イチロー様、お待ちしておりました。奥の座席へどうぞ」
奥の予約席に通されたので席に着く。
サクラ氏の言葉遣いは乱暴なのだが、所作は本当に美しい。
座り方から姿勢まで気品が漂っている。
サクラ氏とハカセは焼肉店が初めてなので、俺が適当に注文をとることにした。
サクラ氏は……酒と肉があれば大丈夫だろう。
「すみませーん。飲み物はコーラ(俺)、ビール(サクラ氏)、烏龍茶(ハカセ)で。牛上カルビをタレで2人前、牛上タン塩2人前、牛上ハラミをタレで2人前、お願いします」
「イチロー、あんたずいぶんと地球に慣れているわね。正直ちょっと引いたわよ」
「それほどでも……。あまり褒められると照れるな……」
「褒めてねえよ!あまりに手際がいいから、何度も来ているのかと思ってさ」
「ここは初めてだよ?焼肉屋は他の店に何度か行ったことあるくらいかな」
「ああ、普段はメイド喫茶だもんな?」
茶化すようにサクラ氏が言う。
「その節は……お見苦しいものをお見せしました……」
メイド喫茶の件は、小型偵察機で見られていたんだよな。
カトー氏なんて、ありえないほどはしゃいでいたもんな……改めて考えると恥ずかしいな。
「あまりカトーを変な道に誘わないようにな。あいつ、ああ見えて純情だからね……のめり込んでしまったら困るからな」
あれっ?思ってたのと違う反応だな。
さっきまでカトー氏をボコボコにしていたのに……意外にも気にかけていたとは。
もしかしたら、さっきの訓練も何か理由があったとか?
「前から聞き方かったんだけど、サクラ氏はなんでそんなに強いの?」
「私ね、昔モデルをやっていたのよ。でもね、大食いだから体型維持に苦労していてね……痩せるために格闘技の道場にちょっと通ってたのよ。その後、不老不死になった時にね、体が軽くなって思い通りに体が動かせるようになった感じ」
「えっ?それだけ?」
「それだけよ。すみませ~ん、牛上ハラミをタレで2人前追加おねがいしま~す」
サクラ氏が大食いで肉好きというのは知っていたが、すごい勢いで食べて追加注文をしている。
「戦闘訓練とかトレーニングとかはしていたの?」
「それっぽいことはしていないわね~。道場で軽く汗を流すくらいかしら。ダイエット目的だしね」
衝撃の事実だった。
これまで何度かサクラ氏の戦闘を見たことがあったが、鬼神のような強さだったのだから。
それが特に努力をして身につけた訳では無いというのだから……。
「なんかカトー氏が気の毒になってきたな……」
「でもね、筋力だけで言えばカトーの方が強いわよ。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌味で3人前追加おねがいしま~す」
「筋力の差が戦力の絶対的な差ではないと?」
「全く関係ないわね。重い物を持ち上げようとしたら、カトーの方が私の倍くらい持てるしね。みんなが思っているより私はか弱い女の子なのよ」
【か弱い】の定義とは?と思ったが、殴られそうなので黙っておいた。
「なるほど……。サクラ氏から見て、戦力差の原因は何だと思う?」
「スパーリングをするとね、こういう攻撃をしようとしているとか、ここが隙だらけだとかなぜか分かるのよ。相手の攻撃方法やタイミングが分かるなら当たらないし、隙が分かればこちらの攻撃は当たるじゃない?簡単に言えばそんな感じかしら」
「カトー氏も例外じゃないってことか……。なんかすごいな……達人の域だろ、それ」
「カトーは流石に他の人に比べれば隙はほとんどないし、攻撃のタイミングも分かりにくいわよ。イチローにも稽古をつけてあげたことはあったけど、イチローなんて全部隙だからね」
「うわあ、それは聞きたくなかった……。まあ、予想はしてたけどね……。えっと、ちょっと飲みすぎ(※ コーラ)たのでトイレ行ってくる……」
一気飲みで3杯も飲んだせいか、トイレが近くなったようだ。
ということでトイレに来たら、既に3人並んでいた。ゆっくり待つとするか。
――
私、ハカセはイチローがトイレに向かったのを見て、サクラの方に身を乗り出した。
「ところで、サクラはカトーの事、どう思ってるの?」
「どうって、恋愛的な意味で?」
「そう。恋愛的な意味で」
これはずっと聞きたかったこと。
大人の世界はよく分からないけど、美男美女のコンビとなれば何か聞けそうな気がしていたから。
「カトーに興味は無いわよ。私より弱い人と付き合うとか考えられないかな~。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌ニンニクで4人前追加おねがいしま~す」
サクラは色気より食い気という感じで追加注文を繰り返していた。
本当にカトーに興味が無いのかな?弱いとダメなの?
本当に興味がないなら、メイド喫茶の件で激怒したりしないんじゃないかな……。
もう、色々と分からないことばかり。
「ねえ、サクラ。自分より強くなきゃダメだとか、そういう尺度で人の良さを測ったら一生幸せになれないような気がするんだけど?」
「ハカセはなんでそう思うの?」
「今までいろんな惑星を巡ってきて分かったんだけど、多分カトーは宇宙一強い男だよね。でも、サクラは宇宙一強い男より圧倒的に強い。ということは、一生幸せになれない可能性が高いということでしょ?」
「ハカセはさ、自分より頭のいい人じゃなきゃ嫌とかそう思うことはない?」
「そういうのはないかな。人の善し悪しは能力だけで判断するものじゃないでしょ」
「そっか~、そういえばイチローはバカだもんな」
「な、なんでそこでイチローが出てくるのよ!」
「さ~て、なんででしょう。まあ……でも、ハカセの言う通りかもね。もっと内面を見るようにした方がいいのかも……」
「そうよ、きっとそう。私、サクラはカトーの良いところをいっぱい知っていると思ってるの」
「まあね、同じ戦闘担当だから……。誰よりも一緒に時間を共有してるからね」
「それなら良かった。少し安心したよ」
「ああ、でもさ…………ハカセはちょっと誤解してるかもな……」
「えっ?どういうこと?」
「私さ、カトーが私を超えられないなんて一言も言ってないよ。だから、今日の訓練もハンデは付けたけど本気でやってるんだよね……。周りから見たら私が一方的にボコってるように見えるかもだけどさ」
「サクラ……」
「現時点で興味がないのは間違いないんだけどさ、チャンスの門はいつもオープンなのですよ。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌ニンニクで5人前追加おねがいしま~す」
「私……。サクラの事、誤解してた……。ごめんなさい」
「そんなことよりさ、ハカセはどうなのよ?イチローの事、好きなんでしょ?」
形勢逆転とばかりにサクラが身を乗り出してきた。
「私、そういうのまだよく分からなくて……。あの病院でイチローに助けられたとき、歳の離れた兄のことを思い出したの……。イチローは兄のように優しくて、一緒にいるだけで安らぎを感じる存在……そんな感じかな」
「もしイチローが目の前からいなくなったとしたらどう思う?」
「とても悲しくて耐えられないかもしれない。私のせいでイチローが倒れたとき、気が狂いそうだった……」
「そうか、そうだよな……。やっぱり私はハカセにはイチローが必要だと思うよ」
「そうかもしれないけど、私はその前にこの体を治したいと思ってるの。不老不死を直して大人になって、全てはその後の事だと思うから」
「そうだな、その通りだ。ハカセを知的美人に育てる約束だったよね」
「それなのにイチローときたら、調査担当なのに……変わった食べ物ばかり食べて、遊び回ってるんだから……頭にきちゃう!」
「そうだよな。カトーは調査任務担当じゃないけど、イチローと一緒に遊んでばかりだしね……。これだから男は……!」
ちょうどイチローが戻ってきたが、不穏な空気を察知したようだ。
「え?何?もしかして悪口言われてる感じ?」
「さあどうでしょう~?」
「ちょっ、何か怖いんですけど……」
そんなイチローの顔を見て、大爆笑する私とサクラ。
なお、この日の会計は合計25万円となった……食べ過ぎだよ、サクラ!
そしてサクラは、この日を境に【ハラミバカ】という残念なあだ名が付いたのだった。
「いらっしゃいませ~。3名様ですか~」
「はい、予約していたイチローです」
「イチロー様、お待ちしておりました。奥の座席へどうぞ」
奥の予約席に通されたので席に着く。
サクラ氏の言葉遣いは乱暴なのだが、所作は本当に美しい。
座り方から姿勢まで気品が漂っている。
サクラ氏とハカセは焼肉店が初めてなので、俺が適当に注文をとることにした。
サクラ氏は……酒と肉があれば大丈夫だろう。
「すみませーん。飲み物はコーラ(俺)、ビール(サクラ氏)、烏龍茶(ハカセ)で。牛上カルビをタレで2人前、牛上タン塩2人前、牛上ハラミをタレで2人前、お願いします」
「イチロー、あんたずいぶんと地球に慣れているわね。正直ちょっと引いたわよ」
「それほどでも……。あまり褒められると照れるな……」
「褒めてねえよ!あまりに手際がいいから、何度も来ているのかと思ってさ」
「ここは初めてだよ?焼肉屋は他の店に何度か行ったことあるくらいかな」
「ああ、普段はメイド喫茶だもんな?」
茶化すようにサクラ氏が言う。
「その節は……お見苦しいものをお見せしました……」
メイド喫茶の件は、小型偵察機で見られていたんだよな。
カトー氏なんて、ありえないほどはしゃいでいたもんな……改めて考えると恥ずかしいな。
「あまりカトーを変な道に誘わないようにな。あいつ、ああ見えて純情だからね……のめり込んでしまったら困るからな」
あれっ?思ってたのと違う反応だな。
さっきまでカトー氏をボコボコにしていたのに……意外にも気にかけていたとは。
もしかしたら、さっきの訓練も何か理由があったとか?
「前から聞き方かったんだけど、サクラ氏はなんでそんなに強いの?」
「私ね、昔モデルをやっていたのよ。でもね、大食いだから体型維持に苦労していてね……痩せるために格闘技の道場にちょっと通ってたのよ。その後、不老不死になった時にね、体が軽くなって思い通りに体が動かせるようになった感じ」
「えっ?それだけ?」
「それだけよ。すみませ~ん、牛上ハラミをタレで2人前追加おねがいしま~す」
サクラ氏が大食いで肉好きというのは知っていたが、すごい勢いで食べて追加注文をしている。
「戦闘訓練とかトレーニングとかはしていたの?」
「それっぽいことはしていないわね~。道場で軽く汗を流すくらいかしら。ダイエット目的だしね」
衝撃の事実だった。
これまで何度かサクラ氏の戦闘を見たことがあったが、鬼神のような強さだったのだから。
それが特に努力をして身につけた訳では無いというのだから……。
「なんかカトー氏が気の毒になってきたな……」
「でもね、筋力だけで言えばカトーの方が強いわよ。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌味で3人前追加おねがいしま~す」
「筋力の差が戦力の絶対的な差ではないと?」
「全く関係ないわね。重い物を持ち上げようとしたら、カトーの方が私の倍くらい持てるしね。みんなが思っているより私はか弱い女の子なのよ」
【か弱い】の定義とは?と思ったが、殴られそうなので黙っておいた。
「なるほど……。サクラ氏から見て、戦力差の原因は何だと思う?」
「スパーリングをするとね、こういう攻撃をしようとしているとか、ここが隙だらけだとかなぜか分かるのよ。相手の攻撃方法やタイミングが分かるなら当たらないし、隙が分かればこちらの攻撃は当たるじゃない?簡単に言えばそんな感じかしら」
「カトー氏も例外じゃないってことか……。なんかすごいな……達人の域だろ、それ」
「カトーは流石に他の人に比べれば隙はほとんどないし、攻撃のタイミングも分かりにくいわよ。イチローにも稽古をつけてあげたことはあったけど、イチローなんて全部隙だからね」
「うわあ、それは聞きたくなかった……。まあ、予想はしてたけどね……。えっと、ちょっと飲みすぎ(※ コーラ)たのでトイレ行ってくる……」
一気飲みで3杯も飲んだせいか、トイレが近くなったようだ。
ということでトイレに来たら、既に3人並んでいた。ゆっくり待つとするか。
――
私、ハカセはイチローがトイレに向かったのを見て、サクラの方に身を乗り出した。
「ところで、サクラはカトーの事、どう思ってるの?」
「どうって、恋愛的な意味で?」
「そう。恋愛的な意味で」
これはずっと聞きたかったこと。
大人の世界はよく分からないけど、美男美女のコンビとなれば何か聞けそうな気がしていたから。
「カトーに興味は無いわよ。私より弱い人と付き合うとか考えられないかな~。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌ニンニクで4人前追加おねがいしま~す」
サクラは色気より食い気という感じで追加注文を繰り返していた。
本当にカトーに興味が無いのかな?弱いとダメなの?
本当に興味がないなら、メイド喫茶の件で激怒したりしないんじゃないかな……。
もう、色々と分からないことばかり。
「ねえ、サクラ。自分より強くなきゃダメだとか、そういう尺度で人の良さを測ったら一生幸せになれないような気がするんだけど?」
「ハカセはなんでそう思うの?」
「今までいろんな惑星を巡ってきて分かったんだけど、多分カトーは宇宙一強い男だよね。でも、サクラは宇宙一強い男より圧倒的に強い。ということは、一生幸せになれない可能性が高いということでしょ?」
「ハカセはさ、自分より頭のいい人じゃなきゃ嫌とかそう思うことはない?」
「そういうのはないかな。人の善し悪しは能力だけで判断するものじゃないでしょ」
「そっか~、そういえばイチローはバカだもんな」
「な、なんでそこでイチローが出てくるのよ!」
「さ~て、なんででしょう。まあ……でも、ハカセの言う通りかもね。もっと内面を見るようにした方がいいのかも……」
「そうよ、きっとそう。私、サクラはカトーの良いところをいっぱい知っていると思ってるの」
「まあね、同じ戦闘担当だから……。誰よりも一緒に時間を共有してるからね」
「それなら良かった。少し安心したよ」
「ああ、でもさ…………ハカセはちょっと誤解してるかもな……」
「えっ?どういうこと?」
「私さ、カトーが私を超えられないなんて一言も言ってないよ。だから、今日の訓練もハンデは付けたけど本気でやってるんだよね……。周りから見たら私が一方的にボコってるように見えるかもだけどさ」
「サクラ……」
「現時点で興味がないのは間違いないんだけどさ、チャンスの門はいつもオープンなのですよ。すみませ~ん、牛上ハラミを味噌ニンニクで5人前追加おねがいしま~す」
「私……。サクラの事、誤解してた……。ごめんなさい」
「そんなことよりさ、ハカセはどうなのよ?イチローの事、好きなんでしょ?」
形勢逆転とばかりにサクラが身を乗り出してきた。
「私、そういうのまだよく分からなくて……。あの病院でイチローに助けられたとき、歳の離れた兄のことを思い出したの……。イチローは兄のように優しくて、一緒にいるだけで安らぎを感じる存在……そんな感じかな」
「もしイチローが目の前からいなくなったとしたらどう思う?」
「とても悲しくて耐えられないかもしれない。私のせいでイチローが倒れたとき、気が狂いそうだった……」
「そうか、そうだよな……。やっぱり私はハカセにはイチローが必要だと思うよ」
「そうかもしれないけど、私はその前にこの体を治したいと思ってるの。不老不死を直して大人になって、全てはその後の事だと思うから」
「そうだな、その通りだ。ハカセを知的美人に育てる約束だったよね」
「それなのにイチローときたら、調査担当なのに……変わった食べ物ばかり食べて、遊び回ってるんだから……頭にきちゃう!」
「そうだよな。カトーは調査任務担当じゃないけど、イチローと一緒に遊んでばかりだしね……。これだから男は……!」
ちょうどイチローが戻ってきたが、不穏な空気を察知したようだ。
「え?何?もしかして悪口言われてる感じ?」
「さあどうでしょう~?」
「ちょっ、何か怖いんですけど……」
そんなイチローの顔を見て、大爆笑する私とサクラ。
なお、この日の会計は合計25万円となった……食べ過ぎだよ、サクラ!
そしてサクラは、この日を境に【ハラミバカ】という残念なあだ名が付いたのだった。