ある寒い冬の年。一生忘れられない年。
私と旦那の始まりの物語。これは私達の旅行記の最初のページ。
愛する姉の願いの為。もうここにはいない大好きなカイネお姉様の願いを叶える旅の始まり。全てはそこから始まったのだ。
闘病の末に亡くなった姉・カイネが亡くなってから半年後のことだった。
彼女が生前婚約していた若き公爵キース・テイラー様が我が家にやって来た。何の目的かはもう分かっている。
幾ら伯爵家とはいえ何もない。つまり私達家族は貧乏貴族。家を存続させる為の相談を公爵家に持ちかけていた。
お姉様はキース様と政略結婚する筈だったのだ。
けれど、お姉様が亡くなった以上、別の方法を考えなくてはならない。その目は妹である私に向けられる。
「許してくれアンナ…!!」
「大丈夫ですわ、お父様。もう覚悟はしてましたから」
お姉様の代わりになる花嫁になって家を救う結婚お互い何も知らないままの愛のない結婚。私に拒否権は最初からないに等しい。
けれど、この結婚はある目的は果たすには必要不可欠なモノ。断る理由なんてなかった。
「応えはもう決まっているな?"白雪"」
キース様は冷たい眼差しで私を白雪と呼ぶ。選択肢なんてもう一つしかないというのに追い詰めてくる。
彼が言った白雪の意味。それは。夜空のように黒く長い髪と、雪の様に白い肌、真っ赤な薔薇の様な唇。
幼い頃に亡くなったお母様みたいだとお父様は言っていた。私を一目見た人は御伽話の白雪姫そっくりで不気味だと囁いた。
お姉様は父親によく似ていて、あまりお母様には似つかなかった。私とは違って赤毛で太陽の様な笑顔が似合うとても素敵な人。明るい色がとてもにある人でもあった。
けれど、その素敵な人はもうこの世にいない。残ったのは冬の化身の様な私だけ。
「キース・テイラー様。貴方との結婚、お受けします。その代わりに…」
「分かっている。フルーネル家のことは心配するな。俺がちゃんと管理する」
「ありがとうございます。それと…」
「ん?」
「あ、いえ…なんでもありません」
「?」
私はある事を言いかけるが喉から出る寸前でやめた。彼に告げるにはまだ早い。無事に式を終えてからにしようと咄嗟にはぐらかした。
そんな私にキース様は怪訝な顔色を浮かべたがわざと見ないふりをしてやり過ごした。
隣にいるお父様は私とキース様の婚約が無事に決まり安堵した表情で見守っていた。
そこから式が行われるまで怒涛の日々だった。
各自の親族に挨拶周りや、ドレス選びやら落ち着く暇が無かった。
気付いた時はもう純白のウェディングドレスを着てお父様と共にバージンロードを歩いていた。
目の前には神父様と神妙な面持ちでこちらを見るキース様がいる。
「あの"白雪姫"がカイネ様の身代わりなんて」
「でも、これでフローネル家も安泰だ。カイネ様もこれで浮かばれるだろう」
「人形みたいで不気味だと思っていたが近くで見るとこんなに美しかったなんてな」
「カイネ様も十分お美しかったけれどアンナ様の方が断然ね。うちの息子の嫁にしたいぐらいよ」
先に参列する人達のヒソヒソ声は私の幸せよりもやはりフローネル家の安泰にしか興味がない。
私をずっと不気味がって避けてきたくせに、いざウェディングドレスと純白のベールに身を包むとコロッと掌返し。しかもお姉様と比べてくる。
(今すぐにでも反論してやりたいけど我慢我慢…)
「どうしたアンナ?気分でも悪いのか?」
「あ、いえ、少し緊張してて……私はお姉様のようにしっかり花嫁修行をしてこなかったから…。幾ら政略結婚とはいえ、ちゃんとキース様の花嫁として務まるか不安で…」
「大丈夫。私達がついてる。私もアイリーンと結婚する時お前と同じ様に不安に駆られた。でも、時間が解決してくれる。それに…こうさせてしまったのも私の不甲斐なさのせいだ。アンナが気に病むことではないよ。さぁ、キース様のところに行こう。」
「はい」
本当は来客者への苛立ちで沈んでいたのをお父様に心配されてしまった。慌ててこの結婚への不安であるからと誤魔化すがそれも原因の一つであるから嘘ではない。
私はお姉様の様に完璧ではないのだ。ただ、見た目が美しいというだけ。そんな私が公爵の妻として務まるなんて到底思えない。
どうしてキース様は私を選んだのだろう?お姉様が亡くなった時点でフルーネル家を見限ってもおかしくないというのに。
疑問と不安が私の頭の中を渦巻く。
そして、私はお父様から花婿であるキース様に受け渡される。
愛のない形だけの誓いの言葉を立て口付けを交わす。お姉様とだったらきっと意味をなしたであろうとつい考えてしまう。無心になって全てを終わらせる。まるで作業の様に思えてしまう。
けれど、この結婚もある目的の一つ。最初の試練と思えばどうって事はない。
キース様がフルーネル家を見限らなかったのが救いだ。もし、見限って他の人と婚約を交わしていたら私とお姉様の計画は全て水の泡と化す。
(お姉様の願い、最初の一つ目を叶えられたわ。本当はお姉様自身が着たかった筈なのに。ちゃんと替わりになれたかな?)
式は滞りなく無事に終えることができた。
皆の祝福は堕ちかけたフルーネル家に光を与え、ロジャー家の一員となった私には白い花びらが舞い落ちる。新郎新婦にお互いの気持ちがなくてもそれらは降り注ぐだろう。
そして、今日の夜。
本来、やるべき行為より、キース様に全てを話さなければ。婚約の話の時にはぐらかした話を。
お姉様を心の底から愛してくれた彼には全て打ち明けなくては。
私と旦那の始まりの物語。これは私達の旅行記の最初のページ。
愛する姉の願いの為。もうここにはいない大好きなカイネお姉様の願いを叶える旅の始まり。全てはそこから始まったのだ。
闘病の末に亡くなった姉・カイネが亡くなってから半年後のことだった。
彼女が生前婚約していた若き公爵キース・テイラー様が我が家にやって来た。何の目的かはもう分かっている。
幾ら伯爵家とはいえ何もない。つまり私達家族は貧乏貴族。家を存続させる為の相談を公爵家に持ちかけていた。
お姉様はキース様と政略結婚する筈だったのだ。
けれど、お姉様が亡くなった以上、別の方法を考えなくてはならない。その目は妹である私に向けられる。
「許してくれアンナ…!!」
「大丈夫ですわ、お父様。もう覚悟はしてましたから」
お姉様の代わりになる花嫁になって家を救う結婚お互い何も知らないままの愛のない結婚。私に拒否権は最初からないに等しい。
けれど、この結婚はある目的は果たすには必要不可欠なモノ。断る理由なんてなかった。
「応えはもう決まっているな?"白雪"」
キース様は冷たい眼差しで私を白雪と呼ぶ。選択肢なんてもう一つしかないというのに追い詰めてくる。
彼が言った白雪の意味。それは。夜空のように黒く長い髪と、雪の様に白い肌、真っ赤な薔薇の様な唇。
幼い頃に亡くなったお母様みたいだとお父様は言っていた。私を一目見た人は御伽話の白雪姫そっくりで不気味だと囁いた。
お姉様は父親によく似ていて、あまりお母様には似つかなかった。私とは違って赤毛で太陽の様な笑顔が似合うとても素敵な人。明るい色がとてもにある人でもあった。
けれど、その素敵な人はもうこの世にいない。残ったのは冬の化身の様な私だけ。
「キース・テイラー様。貴方との結婚、お受けします。その代わりに…」
「分かっている。フルーネル家のことは心配するな。俺がちゃんと管理する」
「ありがとうございます。それと…」
「ん?」
「あ、いえ…なんでもありません」
「?」
私はある事を言いかけるが喉から出る寸前でやめた。彼に告げるにはまだ早い。無事に式を終えてからにしようと咄嗟にはぐらかした。
そんな私にキース様は怪訝な顔色を浮かべたがわざと見ないふりをしてやり過ごした。
隣にいるお父様は私とキース様の婚約が無事に決まり安堵した表情で見守っていた。
そこから式が行われるまで怒涛の日々だった。
各自の親族に挨拶周りや、ドレス選びやら落ち着く暇が無かった。
気付いた時はもう純白のウェディングドレスを着てお父様と共にバージンロードを歩いていた。
目の前には神父様と神妙な面持ちでこちらを見るキース様がいる。
「あの"白雪姫"がカイネ様の身代わりなんて」
「でも、これでフローネル家も安泰だ。カイネ様もこれで浮かばれるだろう」
「人形みたいで不気味だと思っていたが近くで見るとこんなに美しかったなんてな」
「カイネ様も十分お美しかったけれどアンナ様の方が断然ね。うちの息子の嫁にしたいぐらいよ」
先に参列する人達のヒソヒソ声は私の幸せよりもやはりフローネル家の安泰にしか興味がない。
私をずっと不気味がって避けてきたくせに、いざウェディングドレスと純白のベールに身を包むとコロッと掌返し。しかもお姉様と比べてくる。
(今すぐにでも反論してやりたいけど我慢我慢…)
「どうしたアンナ?気分でも悪いのか?」
「あ、いえ、少し緊張してて……私はお姉様のようにしっかり花嫁修行をしてこなかったから…。幾ら政略結婚とはいえ、ちゃんとキース様の花嫁として務まるか不安で…」
「大丈夫。私達がついてる。私もアイリーンと結婚する時お前と同じ様に不安に駆られた。でも、時間が解決してくれる。それに…こうさせてしまったのも私の不甲斐なさのせいだ。アンナが気に病むことではないよ。さぁ、キース様のところに行こう。」
「はい」
本当は来客者への苛立ちで沈んでいたのをお父様に心配されてしまった。慌ててこの結婚への不安であるからと誤魔化すがそれも原因の一つであるから嘘ではない。
私はお姉様の様に完璧ではないのだ。ただ、見た目が美しいというだけ。そんな私が公爵の妻として務まるなんて到底思えない。
どうしてキース様は私を選んだのだろう?お姉様が亡くなった時点でフルーネル家を見限ってもおかしくないというのに。
疑問と不安が私の頭の中を渦巻く。
そして、私はお父様から花婿であるキース様に受け渡される。
愛のない形だけの誓いの言葉を立て口付けを交わす。お姉様とだったらきっと意味をなしたであろうとつい考えてしまう。無心になって全てを終わらせる。まるで作業の様に思えてしまう。
けれど、この結婚もある目的の一つ。最初の試練と思えばどうって事はない。
キース様がフルーネル家を見限らなかったのが救いだ。もし、見限って他の人と婚約を交わしていたら私とお姉様の計画は全て水の泡と化す。
(お姉様の願い、最初の一つ目を叶えられたわ。本当はお姉様自身が着たかった筈なのに。ちゃんと替わりになれたかな?)
式は滞りなく無事に終えることができた。
皆の祝福は堕ちかけたフルーネル家に光を与え、ロジャー家の一員となった私には白い花びらが舞い落ちる。新郎新婦にお互いの気持ちがなくてもそれらは降り注ぐだろう。
そして、今日の夜。
本来、やるべき行為より、キース様に全てを話さなければ。婚約の話の時にはぐらかした話を。
お姉様を心の底から愛してくれた彼には全て打ち明けなくては。