墓守の話

 へえ。そうです。ここが泊瀬部天皇(崇峻天皇)を葬った場所です。
 なーんにもありゃしません。急に殺されちまったんじゃあ準備も何もできなかったんでしょうな。これからぼつぼつ山を盛り上げて墓を作り始めるところでして。
 はあ、そうですな。あの時は驚きました。まだ温かかったですよ、泊瀬部天皇は。
 殺されてすぐ群臣のどなたかがここに埋めちまいましたなあ。
 何か急いでご遺体を隠さなければならない理由でもあったんですかねえ。
 あ、それは存じてますよ。
 泊瀬部天皇が『猪の頸を斬るように、蘇我馬子を叩っ切ってやりたい』とうっかり漏らしてしまって、蘇我馬子が先に東漢直駒を使って殺し奉ったそうですね。
 へえ、それだけですよ。
 ああ、次の天皇はやはり額田部皇女さまでしたか。それは良かったですなあ。
 は? いやいや、何も。
 埋めていた者の顔がお前さんに似ていたとか、そんなことは何も知りませんから、安心してくだせえよ。