東漢直駒(群臣の一人)の話
ええ、聞きましたよ。この耳でしっかりと。俺はあのとき庭に控えておりましたから。
「この猪の頸を斬るように、あの憎い男を叩っ切ってやりたいものだ」と。
正直、肝が冷えましたよ。バレたのか、と。 え? 違いますよ、合意の上です。嘘じゃありませんよ。俺は河上娘のことをずっと慕っていたのですよ。それはもう、妃になる以前から。
父君の蘇我馬子どのも悪い顔はしていませんでした。はい、彼女の母親は出自が低いんですよ。今をときめく大臣の娘とはいえ、俺でも十分手の届く女でしたよ。むしろ憎んでいたのは河上娘を取られたこっちだというものですよ。
だから妃になった後も人目を忍んで逢っていたのです、河上娘と。警護の者たちには金品をばらまいていたから、漏れるはずはないと思っていたんですがね。
でも、陛下のあの言葉は、やはり俺のことですかね。
……まずいことになったな。