厩戸皇子(聖徳太子)の話

 はい。この耳ではっきりと聞きました。陛下はおっしゃいました。
「この猪の頸を斬るように、憎い奴を叩っ切ってやりたいものだ」と。
 驚きました。随分と迂闊なことをおっしゃるものだと。
 ただでさえ、陛下は近頃朝廷にたくさんの武器を集めていらっしゃる。筑紫への援軍か、蝦夷への偵察兵か、とは思っておりますが、それにしては一向に武器を送る気配がない。
 そうです。まるで戦の準備のようではないですか。
 先頃、物部との大乱があったばかりだと言うのに、本当にあのお言葉は軽率だったとしか言いようがありませんね。
 ああ、本当に、戦の前触れのようだ。