3ヶ月ほどで、月夜は大きく育っていった。綺麗な絹髪を肩の下まで伸ばし、不思議な誕生で三造もおばあさんも心配したため学校へは行かせていなかった。義務教育なのに。それはさておき、彼女が美しいのは町から町へと広がり、単なる平屋の一軒家だった三造の家にもたくさんの求婚者が現れた。今どきマッチングアプリなどで出会いを求めるだろうに。多くの人々が寝る間も惜しんで三造の家に押しかけた。だが、月夜の姿は誰ひとり見れなかった。
やがて月日が流れ、多くの人がこんなに見れないならいないのではないか、などと考えるようになった。そしてあまり家に来なくなった。ただ、5人だけはそれでもまだ家にやってくるのでとうとう三造も結婚を提案してみたのだ。
「月夜よ。お前のことを思っている人が5人もおる。どなたかと結ばれるのもよいではないか。顔を隠して配信や歌い手をやっているのもつまらないだろう。」
配信はやっていたんだ。さすが現代。
「おじいさま。確かに、情に厚い方たちだとは思います。ですが私は結婚などはできません。どうしてもです。配信などで、インターネットでの繋がりで十分。それに強いて言えばマッチングアプリの方が興味はあります。」
「あ、すごいびっくりしたのぉ。マジか。会うだけも駄目か?」
「会うだけならまだ…ですが…そうですね、はい。」
「では会うだけ会ってくれ。」
どれほど三造は結婚してほしいと思っているのか。月夜は完全に躊躇しているのにもかかわらず、5人の求婚者を家に入れ会わせることになってしまった。
1人目は、石作 尊(いしつくり みこと)
だいぶ古風な名前だ。ちなみに、あの物語の中の1人目の名前は石作皇子(いしつくりのみこ)。まぁ、どうでもいい。
2人目は、倉持 皇子丸(くらもち みこまる)。だいぶ小動物系の名前だ。草食男子だろうか。ちなみにちなみに、あれの2人目は、車持皇子(くらもちのみこ)。一応。
3人目は、右頭 主人(うとう しゅじん)
もうすでに主人。あれの3人目は、右大臣阿部御主人(あべのみうし)。これも一応。
4人目は、小豆 御行助(あずき みゆきすけ)。変わったお名前で。あれの4人目は、大納言大伴御行(だいなごんおほとものみゆき)
5人目は、真中 磯足(しんちゅう いそあし)。なんかすごい。あれの5人目は、中納言石上麻呂足(ちゅうなごんいそのかみのまろたり)
「倉持…皇子丸さん。どこかで…お会いしました…?」
「月夜。何を言っておる。この方たちは全員、今日初めてお会いになったではないか。」
「そうですよね。勘違いかもしれません。」
「それより月夜。今後、一緒に家庭を築いていきたい方はいらっしゃるか。」
「私は…家庭を築け…ません。」
「そんな事を言うな。どなたかと考えてみてはどうじゃ。」
「では…私の欲しいものを、持ってこられた方と結婚いたしましょう。」
「それは誠か!?」
5人の求婚者は声を上げ、立ち上がった。
「ではお題を出します。
石作 尊さんは、ツチノコのしっぽを。
倉持 皇子丸さんは、何でも治る医療機器を。
右頭 主人さんは、中目黒にマンションを一頭買って所有権をお譲りください。
小豆 御行助さんは、千葉県のテーマパークを買い取り、同じく所有権をお譲りください。
真中 磯足さんは、スマホのSIMカードとSDカードをご自分で製作し、持ってきてください。
みなさん、よろしいですか。1番最初に持ってこられた方と結婚いたします。」
「ちょっと自分勝手すぎないか!?」
と、声をあげたのは中目黒のマンションを買わなければならない右頭 主人。
「辞退なさいますか。」
「別に、そういうことではないが。」
月夜はどういうつもりか、面白そうに、口角を上げた。
「ではここからレースをスタート致します。私は結婚できませんけど…。まあ良いです。」
こうして結婚を巡るレースが始まった。