「あぁ、どうしよう。先輩まだいるかな」
耳を掠める風を切る音。今、私は職員室に向かうため校舎を走っている。
もちろん、廊下を走ってはいけないことくら小学生でもわかる。
むしろ、小学生の方がダメという認識が徹底されているかもしれない。
廊下を歩く生徒たちを器用に避けながら、1秒でも早く職員室へと向かう。
すれ違う同級生たちの不可解そうな目が私に向けられるも、今はそんなこと気にしている余裕なんてない。
大好きな先輩を図書室に待たせてしまっている罪悪感だけが、私の中で渦巻いていた。
初めから私が一日中ぼけっと過ごしていなければ、こうなることはなかったのだが...
放課後になる5分前に突如として、その知らせは私の耳に届いてきた。
「それじゃ、みんな気をつけて帰れよ〜」
担任の先生の挨拶で、今日1日が終わりを告げる。本来ならば、私もここで教室を出て図書室へと向かう予定だった。
しかし、その思惑は一瞬にして散ってしまう。
「えーっと今日の当番は・・・小野か。あとで学級日誌を届けに職員室までよろしくな」
直後、私の体には稲妻が走った。本当に雷が自分へと落ちたかのように、全身がビリビリと硬直を始める。
私の目を見て告げた先生は、すぐさま出席簿を片手に教室を出て行ってしまった。
帰る準備をしていたはずの手は止まり、椅子に崩れ落ちるように座る私。
机の中にしまっておいた学級日誌を広げてみると、ほぼまっさらな自分の名前しか書かれていないページ。
「あぁ〜。最悪だよ。すっかり忘れてた」
朝から放課後まで先輩のことを考えていた報いだろう。普段の私ならば、各授業が終わったタイミングでこまめに書いているのに、今日は微塵も頭には残っていなかったらしい。
今から書き始めるとすると、図書室に行くのは間違いなく遅れてしまう。
先輩に一言連絡しようとポケットから携帯を取り出す。
「え、嘘でしょ」
何度画面に触れてみても変化のない真っ暗な画面。傾けても、指でなぞってみても変わらない。
ふと、思い当たる節が頭をよぎる。昨日、私は寝る直前まで先輩からきたラインが嬉しすぎて、何度も見返していたんだ。
そして、そのまま寝落ちした。当然、携帯を充電器に接続することなく。
「あぁ〜! 私のばか!!」
バッテリーの切れた携帯なんて、今の私には必要がない。一刻も早く日誌を仕上げ、職員室へと届けなければ...
先輩が古典ノートに書いていた字とは、真反対に殴り書きと呼ばれるであろう文字を懸命に日誌へと綴る。
途中勢いが強すぎて、ノートが破れそうになるも、なんとか皺がつく程度ですんだ。
皺だらけの日誌に、誰がみても汚いと思う字。まるで、女子が書いたものではなく、雑な男子がめんどくさがった日誌のようだった。
「お、終わった〜」
壁にかけられた丸い時計に記された時刻を見て、椅子から飛び上がる。拍子に椅子が傾き、後ろの2本足だけでバランスが保たれ、ガタンっと音を立てて床に元通りに戻った。
一瞬ビクッとなったが、今はそれどころではない。机に広げられた日誌を閉じて、教室の後方から廊下へと飛び出た。
オレンジに輝き始めた夕日が、教室を出ていく私の背を照らし始めていた。
耳を掠める風を切る音。今、私は職員室に向かうため校舎を走っている。
もちろん、廊下を走ってはいけないことくら小学生でもわかる。
むしろ、小学生の方がダメという認識が徹底されているかもしれない。
廊下を歩く生徒たちを器用に避けながら、1秒でも早く職員室へと向かう。
すれ違う同級生たちの不可解そうな目が私に向けられるも、今はそんなこと気にしている余裕なんてない。
大好きな先輩を図書室に待たせてしまっている罪悪感だけが、私の中で渦巻いていた。
初めから私が一日中ぼけっと過ごしていなければ、こうなることはなかったのだが...
放課後になる5分前に突如として、その知らせは私の耳に届いてきた。
「それじゃ、みんな気をつけて帰れよ〜」
担任の先生の挨拶で、今日1日が終わりを告げる。本来ならば、私もここで教室を出て図書室へと向かう予定だった。
しかし、その思惑は一瞬にして散ってしまう。
「えーっと今日の当番は・・・小野か。あとで学級日誌を届けに職員室までよろしくな」
直後、私の体には稲妻が走った。本当に雷が自分へと落ちたかのように、全身がビリビリと硬直を始める。
私の目を見て告げた先生は、すぐさま出席簿を片手に教室を出て行ってしまった。
帰る準備をしていたはずの手は止まり、椅子に崩れ落ちるように座る私。
机の中にしまっておいた学級日誌を広げてみると、ほぼまっさらな自分の名前しか書かれていないページ。
「あぁ〜。最悪だよ。すっかり忘れてた」
朝から放課後まで先輩のことを考えていた報いだろう。普段の私ならば、各授業が終わったタイミングでこまめに書いているのに、今日は微塵も頭には残っていなかったらしい。
今から書き始めるとすると、図書室に行くのは間違いなく遅れてしまう。
先輩に一言連絡しようとポケットから携帯を取り出す。
「え、嘘でしょ」
何度画面に触れてみても変化のない真っ暗な画面。傾けても、指でなぞってみても変わらない。
ふと、思い当たる節が頭をよぎる。昨日、私は寝る直前まで先輩からきたラインが嬉しすぎて、何度も見返していたんだ。
そして、そのまま寝落ちした。当然、携帯を充電器に接続することなく。
「あぁ〜! 私のばか!!」
バッテリーの切れた携帯なんて、今の私には必要がない。一刻も早く日誌を仕上げ、職員室へと届けなければ...
先輩が古典ノートに書いていた字とは、真反対に殴り書きと呼ばれるであろう文字を懸命に日誌へと綴る。
途中勢いが強すぎて、ノートが破れそうになるも、なんとか皺がつく程度ですんだ。
皺だらけの日誌に、誰がみても汚いと思う字。まるで、女子が書いたものではなく、雑な男子がめんどくさがった日誌のようだった。
「お、終わった〜」
壁にかけられた丸い時計に記された時刻を見て、椅子から飛び上がる。拍子に椅子が傾き、後ろの2本足だけでバランスが保たれ、ガタンっと音を立てて床に元通りに戻った。
一瞬ビクッとなったが、今はそれどころではない。机に広げられた日誌を閉じて、教室の後方から廊下へと飛び出た。
オレンジに輝き始めた夕日が、教室を出ていく私の背を照らし始めていた。