「残念ですが、今夜あたりかと……」
「そんな……」

 底冷えするある日の深夜、病室の中から、そんな声が聞こえてきた。
 少し外の空気を吸って、病室に戻ろうとしていた時だった。



 怪我から感染症をおこし、熱を出した柾。
 その頃から、容体がおかしくなってきていたのは、私にも分かっていた。だが、心のどこかで、柾が死ぬはずなんてないと思っていた。
 だが、医者が、もみ路さんを相手に、はっきりと事実を述べているのを聞いてしまった今、
 それはもう、紛れもない、恐ろしい事実なのだろう。


「……」

 私が呆然と立ちすくんでいると、もみ路さんが、廊下へと出てきた。その目は、涙で赤く潤んでいた。

「桜を、連れてくるわ」
 もみ路さんは、赤ん坊をギュッと抱きしめ、言った。

「ええ……」
 私は、何も言えず、ただ頷くことしかできなかった。