「……さて、いったいこのがらくたを、どうしてくれようか。
とりあえず徹底的に分解して仕組みをしらべてから、不燃物として出してやろう」
「いや、ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 普通、実の父親からもらったプレゼントを、その五分後には捨てる算段を建てますか?!」

 開口一番の無慈悲な言葉に、私は慌ててつっこんだ。
 しかし、彼女は悪びれる様子もなく、不思議そうに私を見ると、首を傾げた。

「プレゼントというものは、与える側から与えられた側に渡った時点で、その所有権はすでに移行しているから、受け取った後で、受け取った側がどうこうしようと自由なはずだが」
「いや、ちょ……。理屈としてはあってるにはあってますが、人道的に言うと冷酷というか、道徳的に言うと非難を浴びかねないというか……。とにかく、人間としては残虐極まりない行為かと……」
「随分と人間臭いやつだな。ロボットで、尚且つ見た目はウサギのくせに」

 私は、ロボットだった。研究者である彼女の父親が、彼女の為だけに作り上げたロボット。
 両掌サイズの、ふわふわの毛のウサギの姿として、私は生み出された。
 そんな私をまじまじと見ると、彼女は再び、首を先ほどとは反対側に傾げた。

「……にしても、なぜウサギなんだ。普通、世の中の人々がロボットに求める嗜好を鑑みるならば、こういう時は犬か猫型にするべきだろう。なのに、なぜにあの男は、ウサギ型なのか、甚だ理解に苦しむ」
「……私は、あなたの父から、あなたは大変なウサギ好きだと聞いていたのですが……」
「それは私が七歳のころの話だ。一体あれから何年たっていると思っているんだ。人はお前たち機械とは違って、成長するし経験の積み重ねで嗜好だって変わるんだ。
いつまでも同じものが好きなわけがないだろう? ……まったく、あの男は」

 彼女は、はあとため息をつくと、部屋の窓から空を見上げた。
 その目は、どこか寂しげで、あきらめを含んだものだった。

 彼女がウサギ好きではない――聞いていた話とは違うということで、
 今すぐにでも分解されて捨てられてしまうのではないかという恐怖により、その頃の私は、その瞳が意味することに気づくことはなかった。