すると、ラファエルはガッカリしたようにため息を吐いてくる。
 そして吐き捨てるように、

「もう……いい。君がこんな噓つきだとは失望した。行こう、アンジェリア」

 と言ってアンジェリアを連れて立ち去ろうとする。

「は~い」

 しかしアンジェリアは嬉しそうに返事をするが、振り向きざまにクスッと不敵な笑みをこぼす姿を萌は見てしまった。

(あ、あの女~やりやがったな!?)

 萌は心の底から怒りが込み上がってくる。
 嫌がらせをしたと噓を言われた事も腹が立つが、あの態度。ざまあみろと言わんばかりの憎たらしい笑い方だった。
 どう考えても喧嘩を売っている。あの女をぶん殴りたいと思うほどに。
 メラメラと怒りのオーラを燃やしていると、カルラとミレーナがオロオロしながら、萌に話しかけてきた。

「あ、あの……お役に立てなくてごめんなさい」

「その……ワザじゃないのよ? 本当に……思い出せなくて」

 必死に謝罪をしてくれたが、もう後の祭りだが。

(そうね。確かにワザとではないわね)

 それは原作を知っている自分が良く分かっていることだ。
 この世界には強制力が存在していることを。小説や漫画の世界でストーリーが変わってしまうところは、無かった事にされる。いや、無理やり捻じ曲げてしまうのだ。
 まるでご都合主義のように……バッサリと。
 今回の件もそうだろう。この世界の道理のようにエイミーを悪者扱いにされる。
 怒りで身体を震わせる。

「えぇ……分かっているわ。ワザとじゃないってことは」

 あえて強調させて言ったら、2人は悲鳴を上げる。

「だって仕方がないじゃない。この世界では私が悪役令嬢なのだから。ええっ……仕方がないことよ」
 
ブツブツと小声で呟きながら冷静になろうとする。
 だが、それが余計に怖かったらしく、友人や周りの生徒達はガタガタと全身を振るわせていた。

(売られた喧嘩は買う。いや、違うな。とにかく落ち着いて作戦を練り直そう)

 今後は彼らの証言だけだと当てにならないかもしれない。
 さっきのように捻じ曲げられるか、私の方が噓つき呼ばわりされてしまうだろう。
 せっかく慎重に行動をしていたのに全部無駄になった。確証のある証拠が必要だろう。誤魔化せれないように。
 必死に何か方法がないか考えていると、それを遠くから黙って見守っている人物が居た。それはルーカスだった。
 ルーカスは複雑な表情をしながらも拳をギュッと強く握り締めるのだった。