しかし早く進めたくて萌自身が先走って早めに来てしまったせいで、タイミングがズレてしまったようだ。

(よし、こうなったら……)

 萌は横を通り過ぎにハンカチをルーカスの前で落としてみる。彼がそれに気づいて声をかけてくれたら、それをきっかけに。
 しかし本に夢中になっているのか気づいてもいない。

(おい、いくら何でも気づけよ!?)

 萌は、すぐさまハンカチを拾いに行く。聞こえるように声を出しながら。

「あら、嫌だわ。ハンカチが落ちちゃったみたい」

 清楚な風に見えるように意識しながら屈むとハンカチを拾うふりをする。その際にチラッと彼を見ると、目が合ってしまう。
 まるで時間が止まったかのような感覚がしてドキッと心臓が大きく高鳴り、萌は頬を赤く染める。
 萌は慌てて立ち上がると頭を下げて、その場から逃げてしまった。思った以上に緊張してテンパってしまったようだ。
 だって……イケメンと目が合ってしまったから。
 厚い黒縁眼鏡と太陽の光りで顔は見えなかったけど、素顔は知っているから余計に意識をしてしまった。ああ、話しかけるチャンスだったのにと悔しがる。
 しかし、それがきっかけなのか、ルーカスは萌を見かけると目で追ってきて、その視線を感じるように。どうやら原作通りに一目惚れされたのだろう。
 エイミーもアンジェリアほどではないにしても可愛い方だから当然だろう。そうなると、これはまたとないチャンス。
 何とか彼に好意を抱いてもらえるように萌は毅然とした態度で過ごしながら距離を縮める方法を考えていた。
 そんな時に廊下で教師からたくさんの本を図書室まで持って行ってほしいと頼まれることに。量に嫌だなと思ったが、図書室はルーカスもよく出入りする。
 そこに手がかりを探すためでもあるが、読書好きもあるとかで。
 仕方がないと大量の本を持って行く。

(重い……どれだけの本を持たせるのよ!?)

 か弱い女性に対しての量ではない。分厚い歴史の本を7冊って。
 ブツブツと文句を言いながら持って行くと、長い廊下を歩いている途中でルーカスに出くわした。こんな時に発見するとは。