「あら? どうしたんですか?」

 ディーたちの姿を見つけたクレアが声を掛けると、太一たちのアドバイザーになってくれないかとディーがお願いを口にする。

「私がアドバイザーですか?」
「あぁ。クレアは仕事もできるし、タイチたちと歳も近いだろう? こいつらもそこまで気負いなく頼れると思うんだが、どうだ?」

 ディーが言い終わると、クレアは太一たちに視線を向ける。

「「「お、お願いします!」」」

 緊張の面持ちでそう願い出ると、三人は同時に頭を下げた。

「……ふふ、分かりました。というか、アドバイザーも仕事の一環ですから、そこまで緊張することはないですよ」
「そうか? ならありがたい!」
「それに、ディーさんに任せるとみんなが悪い方に染まっちゃいそうで怖いですしね」
「それ、どういう意味だ?」
「うふふ、冗談ですよ」

 最後の発言にはジト目を向けたディーだったが、クレアは冗談だと口にしたあと、すぐに太一たちへ声を掛けた。

「それじゃあ、自己紹介がまだだったよね。私は冒険者ギルドで受付兼アドバイザーをしているクレアよ、よろしくね」

 太一たちも自己紹介を行ったが、今までよりも肩の力を抜いた自己紹介をすることができた。これもクレアが持つ優しい雰囲気のおかげかもしれない。

「ディーさんたちは依頼を受けていかれますか?」
「そのつもりだったが、タイチたちに冒険者の心得を――」
「それなら、そこは私がお引き受けいたしますので、依頼を受けてきてください」
「……それ、俺には任せられないって言っているわけじゃないよな?」
「まさか、そんなわけないですよ」

 再びのジト目を向けられたクレアだったが、ディーの視線をものともせず営業スマイルを浮かべると、すぐにまた太一たちに視線を向けた。

「それじゃあまずは冒険者の心得からですね。こちらの冊子をお渡ししておきます」
「……ったく、これは敵わないな。タイチ、ユウト、コウタ、俺たちは行くからクレアの言うことをちゃんと聞いておくんだぞ」
「困ったことがあったらいつでも頼ってちょうだいね!」
「先輩冒険者としてきちんと導いてあげるよ!」
「何度も言っているけれど、私たちもサポートしてあげるからね」
「「「ありがとうございます!」」」

 ディー、タニア、リッツ、ミリーが順番に声を掛けてくれると、太一たちは元気よくお礼を口にして頭を下げた。
 その姿にディーたちは笑顔を浮かべ、そのまま依頼板の方へ歩いていった。

「うふふ、元気があって何よりだわ」
「あっ! す、すみません、うるさかったですよね」
「そんなことないわ。むしろ、元気な方がやる気も感じられて嬉しいもの」

 慌てて太一が謝ると、クレアは微笑みながら気にしないでと口にしてくれたこともあり、そのまま冊子に目を通していく。

「おっ! 最初はランクシステムについてだ」
「ディーさんたちはBランクって言ってたな」
「……本当だ、真ん中よりも一つ上だね」
「彼らは若手のホープでして、若い冒険者からは憧れの存在として見られているんですよ」

 クレアが嬉しそうにそう口にすると、太一たちは本当に運が良かったなと思えてならない。

「本当に、ディーさんたちに助けられてよかったよ」
「だな。デビルベアなんて、あんなでかい熊……じゃなかった、魔獣を倒しちまうんだもんな」
「僕たちも助けてもらった分、できることを頑張らないとね!」
「その意気よ、頑張ってね」

 太一たちは一番下のFランクからのスタートとなる。
 そこから依頼をこなしていき、Eランク、Dランクと一つずつ上げていくのが通例だ。

「そういえばタイチ君たちはスキルの確認は終わったのかな?」
「「「……す、スキルがあるんですか!?」」」
「……え、えぇ、そうよ。この反応を見るとギルマス、忘れていたみたいね」

 目をキラキラさせながらカウンターに前のめりになった三人を見て、クレアはクスクスと笑う。
 彼女の姿を見て恥ずかしくなったのか、三人はすぐに姿勢を正して視線を逸らしたが、その頬は若干だか赤く染まっていた。

「男の子だもの、気になっちゃうわよね」
「「「……はい、気になります」」」
「ここでもちゃんと確認は取れるから、冒険者登録と一緒にやっちゃいましょうか、ちょっと待っていてね」

 そう口にして一度カウンターの奥に下がっていったクレアを見送ると、太一たちは顔を見合わせてからグッと拳を握った。

「スキルだってさ、スキル!」
「マジかよ! これってもしかして、チートとかあるんじゃないか!」
「もしそうだったらどうする? たくさん冒険とかしちゃう?」
「「いいなあ!」」

 思わず表情が緩んでしまう太一たちは、クレアが戻ってくるのを今か今かと待ちわびていた。