エレノアの部屋を出た太一たちは、ディーの提案のこれからの方針を決めることにした。
 というのも、これまでにやってきた迷い人の多くが荒事に慣れていない者が多かったからだ。

「まさか本当に冒険者ギルドの保護を決めるとは思わなかったぞ」

 人が少ない壁際に移動してすぐ、自身が冒険者であるディーは驚きを隠せない様子で太一たちに問い掛け、タニアたちも大きく頷いている。

「でも、サポートは……してくれるんですよね?」

 ディーたちの反応を見て少し不安にいなってしまった太一が問い掛けると、その点については問題ないと胸を叩いた。

「もちろんだ! 男に二言はないぜ!」
「よかった。ここまで来て見放されるのかと思いましたよ」
「んなこたしないっての。だが、本当にいいのか? マジで申し訳ないが……お前たちも荒事は苦手なんじゃないか?」

 ディーが三人をまじまじと見つめたあとにそう口にすると、太一たちは当然ながら頷いた。

「まあ、ただの学生だったからなぁ」
「そうだよなぁ、ケンカとかもしたことねぇし」
「ぼ、僕も苦手だなぁ」
「だろう? たいていの場合は商業ギルドとか職人ギルドに保護してもらうのが多いんだよ」

 だからこそ、ディーは不思議でならなかった。
 自分たちの将来のことを考えれば、外壁の内側で仕事を探すことができるギルドや組織に保護してもらった方がいいに決まっている。
 選択の余地は大いにあったのだが、太一たちはディーたちやエレノアが信用できると思っただけで、冒険者ギルドの保護を選んだのだ。

「どんな世界でも、信頼関係っていうのは大事だと俺は思うんです。相手のことを信頼できなかったら、いくらいい仕事をしても身にならないことだってあると思いますし」
「確かになー。それに、怪しい奴のために仕事をするなんて、俺は絶対に嫌だね!」
「仕事をしないと生きていけないなら僕はやるかもしれないけど、それでもできることなら楽しく仕事をしたいかな」

 太一、勇人、公太がそれぞれの意見を口にすると、ディーは三人がどうして冒険者ギルドを選んだのか、なんとなく理解できるようになっていた。
 というのも、ディーも似たような理由から冒険者になろうと心に決めていたからだ。

「……まあ、お前たちが決めたことだ、これ以上は何も言わねぇよ」
「その方がいいわね」
「その代わり、冒険者としての心得はビシビシと教えていくわよ?」
「冒険者ギルドの保護を受けたせいでケガをした、最悪死んじゃったー、なんてことになったら嫌だからねー!」

 最後にリッツが笑いながら怖いことを口にした。
 もちろんリッツは冗談のつもりで口にしたのだが、太一たちからすると冗談には聞こえず、若干だが表情を引きつらせてしまった。

「ちょっと、リッツ!」
「えぇっ? 冗談だってば、じょーだん!」
「今は冗談を言っていいタイミングじゃないでしょう! しかも、死ぬだなんて!」
「そうかなー? でもまあ、その可能性もあるんだってことはしっかりと伝えておかないとじゃないかな? 事実、僕たちだって何度も死にかけているわけだしねー」
「そうだけど、それはしっかりと依頼を選べば防げたことでしょう?」
「なんだ? 俺が悪いって言いたのか?」

 リッツの言葉をきっかけに、何故かディーたちが言い合いを始めてしまう。
 彼らのやり取りを聞いていた三人は、なんとなくディーさんが依頼を受ける時に失敗したんだなと思いながらも、誰も口に出すことはしなかった。

「えっと、それなら俺たちは、都市の中でできる依頼を受けつつ、外に出る依頼も可能な限り安全なものを見つけて受けていけば、最低限の生活はできそうってことでいいんですかね?」

 そして、太一が自分なりにまとめた考えを口に出すと、ディーたちは言い合いをピタリと止め、そしてお互いに顔を見合わせたあと、同時に太一へ振り返った。

「「「「その通り!」」」」
「どわあっ!? ……えっ? あぁ、そうなんですね」

 あまりの迫力に驚いてしまったが、肯定されたのだと気づくと頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。

「タイチって頭がいいのね」
「そうですね。今のやり取りでそこまで思いつくだなんて」
「うんうん、タイチ君ならしっかりと安全を確保した依頼を受けてくれそうだ。……ディーとは違ってねー」
「てめぇはさっきから一言多いんだよ、リッツ!」

 結局はディーが悪者のようになってしまったが、今は太一たちの今後について考える場になっていることもあり、自分たちのいざこざは横に置いておくことにした。

「俺たちがいたらこっちに質問してくれてもいいが、一番はギルド職員に質問するのがいいだろうな」
「そうね。ギルド職員の方がアドバイスは的確にしてくれるはずよ」
「なんなら、私たちが声を掛けていたクレアさんはどうかしら?」
「いいねえ! クレアさんって確か、新人冒険者へのアドバイザーも兼任してたはずだよ!」

 こうして話が進んでいくと、今度はギルド職員のクレアに協力を仰ぐため、彼女が立つカウンターへ移動した。