「自己紹介がまだだったな。私は冒険者ギルドのギルドマスター、エレノアだ」
部屋に入って早々、エレノアから自己紹介が行われた。
「や、弥生太一です!」
「鈴木勇人です!」
「さ、榊、公太、です!」
「ふむ、元気があっていいじゃないか」
太一たちとしては、ただ座っているだけでも不思議な迫力を持っているエレノアに気圧され、知らず知らずのうちに大きな声で自己紹介をしてしまっていた。
これがエレノアに好印象を与えられたのでよかったではあるが、完全なる不本意だった。
「それで、君たちは迷い人であるということだが、私たちの保護を受けるつもりはあるかな?」
「えっと……その、保護対象であることはディーさんたちから聞いているんですが、それ以外は何も聞いていなくて」
「何? ……ディー、ちゃんと説明していないのか?」
エレノアの鋭い視線がディーに向けられると、彼は苦笑いしながら弁明する。
「いやいや、俺が説明したところでちゃんと説明できると思いますか?」
「思わんな」
「即答っすか。……でもまあ、そういうことですよ」
「ふむ、一理あるな」
(((ディーさん、どれだけ信用ないんだよ)))
三人が全く同じことを考えている間、エレノアは小さくため息をつきながら席を立つと、同じ内容が記された用紙を三枚持ってくると、太一たちに手渡した。
「迷い人は保護対象となっているが、どこの組織が保護するかによって対応が変わってくる。これはその主だった組織が記された書類だ」
淡々と説明される内容に耳を傾けながら、太一たちは書類に目を通していく。
冒険者ギルドを筆頭に、商業ギルド、職人ギルド、他にも様々なギルドや組織の名前が羅列されている。
とはいえ、こちらの世界に来たばかりの太一たちにとってはどこに保護してもらうのが正解なのか分かるはずもなく、三人は書類を睨みつけながら考え込んでしまう。
「このまま冒険者ギルドで保護してもいいんだぞ?」
「だけどギルマス、子供が冒険者になるのは好ましくないだろう?」
「あくまでも選択肢の一つだ。それに、冒険者だからと言って必ずしも魔獣と戦わなければならないわけでもないしな」
「……そうなんですか?」
ディーとエレノアのやり取りを聞いていた太一が思わず声を掛けた。
「冒険者と言っても、受ける仕事は多種多様だ。こいつらのように魔獣狩りをメインに行う者もいれば、都市の中でできる依頼をこなす者もいる。ようは、適材適所というわけだな」
「だが気をつけろよ? 都市の中でできる依頼ってのはそこまで報酬がよくないから、それだけで生活できるかって聞かれると、難しいってのが正直な答えだ」
「他のギルドや組織ではその仕事しかできないが、冒険者ギルドでは選び放題なんだぞ?」
「ギルドに過失のある失敗以外はほとんどが自己責任だから、依頼もしっかりと選んで受けなきゃならない。受付の嬢ちゃんとかがサポートはしてくれるだろうが、自己責任の部分は変わらないさ」
冒険者ギルドを勧める者と、勧めない者、二人の意見がぶつかり合うと、最終的にはエレノアがディーを本気で睨みつけた。
「……貴様、冒険者ギルドに人材を得たいと思わないのか?」
「そりゃ俺も思いますがね、ギルマス。だからといって不意打ちみたいな形で勧誘するのはダメでしょうよ」
「ふん、何も私だって悪い部分を隠そうとしているわけではない。まずは興味を持ってもらい、そのうえで悪い部分をだなぁ」
今日何度目かになるディーとエレノアのやり取りを見て、太一は近くにいたタニアに声を掛けた。
「あの、タニアさん。もしかして、皆さんのリーダーはディーさんなんですか?」
「そうよ。だからギルマスとのやり取りもディーがやっているの」
「……そうなんですね」
内心ではタニアやミリーがエレノアの相手をした方がいいのでは? と思わなくもないが、口に出すことはしなかった。
それは冒険者ギルドのルールなのか、それともディーたちの中でのルールなどがあるのではないかと思ったからだ。
「あの、エレノアさん……様?」
「エレノアで構わんぞ?」
「……エレノアさんでお願いします」
「まあ、よかろう」
「それじゃあ改めて……エレノアさん、この保護していただくギルドや組織は今日中に決めなければなりませんか?」
太一が質問をすると、勇人と公太も視線を書類からエレノアへ移す。
「今日でなくても構わん。だが、早い方が良いだろうな。そうでなければ支援ができん。お前たち、迷い人なのだからこの世界の金も持っていないだろう」
「「「……あー、確かにそうだ」」」
冒険者ギルド一押しのような感じで説明していたエレノアからの真っ当な意見を受け、太一たちは同時に声を漏らした。
「無理しなくていいぞ? 金なら俺たちが少しくらいは援助してやれる」
「甘やかすな、ディー。それに、お前たちが勝手をやってしまっては、他の冒険者たちが迷い人を保護した時に同じことをしないといけないのかと考えてしまうだろう」
「いや、そこは個人の考えとしてですねぇ」
「ルールはルールだ。ルールを破る者には相応の罰を与えなければならん。そこは理解しているんだろうなぁ?」
罰と聞いて、パーティを率いるリーダーとしてはすぐに反論するのは難しかった。
だが、太一としてはここまでのやり取りを聞いて、エレノアは信じるに足る人だと思うようになっていた。
「……あの、俺は冒険者ギルドで保護してもらってもいいと思っています」
「あっ、俺も同じことを考えてたわ」
「ぼ、僕も」
そして、太一が答えたのをきっかけに、勇人と公太も冒険者ギルドでの保護を口にした。
「おいおい、お前たち、本当にいいのか?」
「はい。ディーさんたちに助けられたのも事実ですし、エレノアさんが誰に対してもきちんと対応されているのを見て、信用できると思いました」
「ふふん。どうだ、ディー。私のおかげだぞ?」
「はいはい、そうですね。……だがまあ、そうと決まれば俺たちがしっかりとフォローしてやるよ。なあ、みんな?」
最後にディーがそう告げると、タニアたちも笑顔で頷いてくれた。
こうして太一たちは冒険者ギルドで保護されることとなり、冒険者として活動することになったのだった。
部屋に入って早々、エレノアから自己紹介が行われた。
「や、弥生太一です!」
「鈴木勇人です!」
「さ、榊、公太、です!」
「ふむ、元気があっていいじゃないか」
太一たちとしては、ただ座っているだけでも不思議な迫力を持っているエレノアに気圧され、知らず知らずのうちに大きな声で自己紹介をしてしまっていた。
これがエレノアに好印象を与えられたのでよかったではあるが、完全なる不本意だった。
「それで、君たちは迷い人であるということだが、私たちの保護を受けるつもりはあるかな?」
「えっと……その、保護対象であることはディーさんたちから聞いているんですが、それ以外は何も聞いていなくて」
「何? ……ディー、ちゃんと説明していないのか?」
エレノアの鋭い視線がディーに向けられると、彼は苦笑いしながら弁明する。
「いやいや、俺が説明したところでちゃんと説明できると思いますか?」
「思わんな」
「即答っすか。……でもまあ、そういうことですよ」
「ふむ、一理あるな」
(((ディーさん、どれだけ信用ないんだよ)))
三人が全く同じことを考えている間、エレノアは小さくため息をつきながら席を立つと、同じ内容が記された用紙を三枚持ってくると、太一たちに手渡した。
「迷い人は保護対象となっているが、どこの組織が保護するかによって対応が変わってくる。これはその主だった組織が記された書類だ」
淡々と説明される内容に耳を傾けながら、太一たちは書類に目を通していく。
冒険者ギルドを筆頭に、商業ギルド、職人ギルド、他にも様々なギルドや組織の名前が羅列されている。
とはいえ、こちらの世界に来たばかりの太一たちにとってはどこに保護してもらうのが正解なのか分かるはずもなく、三人は書類を睨みつけながら考え込んでしまう。
「このまま冒険者ギルドで保護してもいいんだぞ?」
「だけどギルマス、子供が冒険者になるのは好ましくないだろう?」
「あくまでも選択肢の一つだ。それに、冒険者だからと言って必ずしも魔獣と戦わなければならないわけでもないしな」
「……そうなんですか?」
ディーとエレノアのやり取りを聞いていた太一が思わず声を掛けた。
「冒険者と言っても、受ける仕事は多種多様だ。こいつらのように魔獣狩りをメインに行う者もいれば、都市の中でできる依頼をこなす者もいる。ようは、適材適所というわけだな」
「だが気をつけろよ? 都市の中でできる依頼ってのはそこまで報酬がよくないから、それだけで生活できるかって聞かれると、難しいってのが正直な答えだ」
「他のギルドや組織ではその仕事しかできないが、冒険者ギルドでは選び放題なんだぞ?」
「ギルドに過失のある失敗以外はほとんどが自己責任だから、依頼もしっかりと選んで受けなきゃならない。受付の嬢ちゃんとかがサポートはしてくれるだろうが、自己責任の部分は変わらないさ」
冒険者ギルドを勧める者と、勧めない者、二人の意見がぶつかり合うと、最終的にはエレノアがディーを本気で睨みつけた。
「……貴様、冒険者ギルドに人材を得たいと思わないのか?」
「そりゃ俺も思いますがね、ギルマス。だからといって不意打ちみたいな形で勧誘するのはダメでしょうよ」
「ふん、何も私だって悪い部分を隠そうとしているわけではない。まずは興味を持ってもらい、そのうえで悪い部分をだなぁ」
今日何度目かになるディーとエレノアのやり取りを見て、太一は近くにいたタニアに声を掛けた。
「あの、タニアさん。もしかして、皆さんのリーダーはディーさんなんですか?」
「そうよ。だからギルマスとのやり取りもディーがやっているの」
「……そうなんですね」
内心ではタニアやミリーがエレノアの相手をした方がいいのでは? と思わなくもないが、口に出すことはしなかった。
それは冒険者ギルドのルールなのか、それともディーたちの中でのルールなどがあるのではないかと思ったからだ。
「あの、エレノアさん……様?」
「エレノアで構わんぞ?」
「……エレノアさんでお願いします」
「まあ、よかろう」
「それじゃあ改めて……エレノアさん、この保護していただくギルドや組織は今日中に決めなければなりませんか?」
太一が質問をすると、勇人と公太も視線を書類からエレノアへ移す。
「今日でなくても構わん。だが、早い方が良いだろうな。そうでなければ支援ができん。お前たち、迷い人なのだからこの世界の金も持っていないだろう」
「「「……あー、確かにそうだ」」」
冒険者ギルド一押しのような感じで説明していたエレノアからの真っ当な意見を受け、太一たちは同時に声を漏らした。
「無理しなくていいぞ? 金なら俺たちが少しくらいは援助してやれる」
「甘やかすな、ディー。それに、お前たちが勝手をやってしまっては、他の冒険者たちが迷い人を保護した時に同じことをしないといけないのかと考えてしまうだろう」
「いや、そこは個人の考えとしてですねぇ」
「ルールはルールだ。ルールを破る者には相応の罰を与えなければならん。そこは理解しているんだろうなぁ?」
罰と聞いて、パーティを率いるリーダーとしてはすぐに反論するのは難しかった。
だが、太一としてはここまでのやり取りを聞いて、エレノアは信じるに足る人だと思うようになっていた。
「……あの、俺は冒険者ギルドで保護してもらってもいいと思っています」
「あっ、俺も同じことを考えてたわ」
「ぼ、僕も」
そして、太一が答えたのをきっかけに、勇人と公太も冒険者ギルドでの保護を口にした。
「おいおい、お前たち、本当にいいのか?」
「はい。ディーさんたちに助けられたのも事実ですし、エレノアさんが誰に対してもきちんと対応されているのを見て、信用できると思いました」
「ふふん。どうだ、ディー。私のおかげだぞ?」
「はいはい、そうですね。……だがまあ、そうと決まれば俺たちがしっかりとフォローしてやるよ。なあ、みんな?」
最後にディーがそう告げると、タニアたちも笑顔で頷いてくれた。
こうして太一たちは冒険者ギルドで保護されることとなり、冒険者として活動することになったのだった。