「「「…………す、すっげええええぇぇ~!!」」」

 ディルガイドに足を踏み入れた直後、太一たちからはそんな歓喜の声が自然とこぼれていた。
 日本ではお目に掛かれない西洋風の建物が左右に並んでおり、通りには多くの人が行き交っている。
 身に着けている衣服もゲームやマンガで見るようなものばかりということもあり、太一たちは興奮を隠せずにいた。

「この程度で驚いているのか?」
「だって、異世界の都市ですよ! しかも大都市!」
「俺たち、いきなり森の中だったもんなぁ」
「うん、うん! 生きてここまで来れるだなんて、あの時は思えなかったもんねぇ」

 最初こそ驚くなと言いたかったディーも、太一たちの言葉を聞かされてはこれ以上何も言えなかった。

「確かに、いきなり森の中だったら人が恋しくなっちゃうわよねー」
「そうですね、タニアさん」
「僕だったら自由だー! とか言って森の中を駆け回るかも!」
「そりゃお前だからな」

 太一たちの反応に同意を示してくれたタニアとミリーを見て、リッツは冗談半分でおどけて見せてくれる。
 それが太一たちを和ませるものだと分かるとディーもすかさずツッコミを入れ、三人は思わず笑みを浮かべてしまう。

「よーし! それじゃあ最初は冒険者ギルドに行くとするか!」
「「「はーい!」」」

 すっかり元気を取り戻した三人を連れ、ディーたちは冒険者ギルドへ案内してくれる。
 石造りの頑丈な二階建ての建物、そこが冒険者ギルドだ。
 両開きの扉には盾、剣、杖を模したデザインが施されており、これが冒険者ギルドの意匠なのだと理解する。
 そのまま扉を開いてディーたちが中に入ると、続けて太一たちも、恐る恐るといった感じで足を踏み入れた。

「――臨時パーティを募集中だ! 誰か盾を使える奴はいないか!」
「――もう少しだけ高く買い取ってくれねぇか? なあ、いいだろう?」
「――何よあんた! この依頼は私が受けるんだから、手を放しなさいよ!」
「――てめえこそ放しやがれ! これは俺が受けるんだよ!」

 外にいる時は気づかなかったが、冒険者ギルドに一歩足を踏み入れると、あちらこちらから怒声にも似た声が響いてきている。
 その勢いに気圧されてしまったのか、太一たちはいつの間にか一塊になってディーたちの後ろをついて歩いていた。

「心配すんなって! こんな場所だが、みんないい奴ばっかだからよ!」
「あら! ディーさん、この子たちはどうしたんですか?」

 いつの間にか目的のカウンターに到着していたのか、受付嬢がディーに声を掛けていた。

「迷い人だ! ギルマスに面談を頼みたい!」
「そうなんですね! かしこまりました、少々お待ちください!」

 受付嬢はすぐにカウンター奥に引っ込んでいくと、しばらくして一人の女性と共に帰ってきた。

「待たせたな、ディー」
「いやいや、待ってませんから」
「その子たちが迷い人なのか?」
「はい。まあ、衣服からしてそうでしょう?」
「ふむ……まあ、確かにそうだな」

 話が淡々と進んでいき、太一たちはどうしたらいいのか分からなくなってしまう。
 すると、ギルマスがグイッと顔を寄せ、鼻と鼻が触れてしまうんじゃないかという距離でまじまじとと見てきた。

「……あ、あのー?」
「んっ? あぁ、すまない、近すぎたな。まずは面談と行こうか、私の部屋に案内しろ。それと、ディーたちも一緒だ、いいな?」
「分かりました」

 ここでもギルマスとディーで話が進み、面談にも同行してくれることになった。

「ディーさんたちも一緒でいいんですか?」
「仕事があるんじゃないのか?」
「ご迷惑では?」
「あははっ! 子供がそんなこと考えてんじゃないっての!」

 太一たちは仕事の心配を口にすると、ディーは豪快に笑いながら三人の頭を乱暴に撫でていく。

「ちょっと、ディー! やり過ぎよ!」
「ごめんなさいね、タイチ君たち」
「迷惑だと思ったら、顔面に一発グーパンしてやってもいいんだからな?」
「俺がリッツにグーパンしてやろうか?」
「おっと、失敬。僕は先にギルマスの部屋に行ってるねー!」

 おどけた様子でリッツがそう口にすると、太一たちに一度ウインクをしてからさっさと離れて行ってしまった。
 彼が四人の中ではムードメーカーなのだろうと思った太一は、クスリと笑いながらディーへ振り返った。

「よろしくお願いします、皆さん」
「おう! それじゃあいこうぜ!」

 受付嬢も笑顔で迎えてくれ、太一たちはギルマスの部屋へと案内された。