異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

 装備の購入は思いのほか時間を使っており、ダジールのお店の前でディーとも別れた。
 今日一日は完全休養となっており、すでに日も地平線に隠れ始めていたこともあり、そのまま宿へ戻ることにした。
 夜の街を散策してもよかったが、新しい装備に慣れておらず、周りからの視線が気になって仕方がなかったのだ。

「だぁ~、やっと宿に着いた~」
「あはは、僕なんて太ってるから、豚に真珠みたいになってるよね」

 勇人が装備を外してベッドに飛び込むと、公太は苦笑いしながらベッドの端に腰掛けた。

「この装備に恥じない冒険者にならないといけないな」

 太一は外した装備を撫でながら、そんな決意を口にする。その姿を見た勇人と公太も力強く頷いた。

「……それにしても、今日の俺たちは命を大事にできてなかったなー」

 話題を変えようと勇人がそう口にすると、太一も顔を上げて反応する。

「確かに! 特に公太だよな!」
「ぼ、僕なの!?」
「そりゃそうだろ! デビルベアの攻撃を真正面から受け止めるなんて、一番危ない役目なんだからな!」
「それはそうだけど、あの時は仕方なかったというか、なんというか……」

 公太が慌てて反論していると、太一と勇人は一度顔を見合わせ、すぐに笑いだした。

「あはは! 冗談だよ、じょーだん!」
「そうだよ、公太」
「……そ、そうなの?」
「そうさ。それに、公太にタンクの役割を指示したのは俺なわけだし、なんなら俺が非難を浴びるべきだろうな」

 太一が肩を竦めながらそう口にすると、公太はさらに慌てて弁明する。

「それは違うよ! 太一君は何も悪くない! 僕も納得してタンク役を請け負ったんだから!」
「それは太一も分かってるって。ただ、俺たちのスローガンからはかけ離れてたなって確認だろ?」
「そういうこと。まあ、避難されてもいいんだけどね」
「だからそれは違うってば!」
「分かったから落ち着いてくれ、公太」
「うぅぅ」

 自分のせいで太一が悪く言われるのが嫌な公太は必至だ。
 そんな優しい公太の性格を知っているからこそ、太一は苦笑しながら言葉を続けた。

「しっかし、確かに今回は仕方なかったよなー」
「うん、あまりに突然過ぎてスローガン通りにできなかった」
「そ、そうだね」
「だから、今後はイレギュラーにも備えて【いのちだいじに】を実践できるようにしなきゃいけないかなって思ったんだ」

 太一の言葉に勇人と公太も大きく頷いた。

「幸か不幸か、俺たちは今回のことで魔獣との戦闘経験を得たわけで、そこから想定できるパターンをいろいろと考えておくのはありかなって」
「確かに。たまたまデビルベア一匹だけだったから罠にかけることもできたけど、そうじゃないパターンの方が多そうだしなー」
「数が多かったら僕、本当に危なかったかも」

 そう口にした公太の顔色が徐々に青くなっていく。

「まあ、今回で数が多かったら公太をタンク役にすることはなかったから安心してくれ」
「うぅぅ、ありがとう、太一君」
「もしそうだったら、俺が快速スキルで引きつける的な感じか?」
「そうなると思うけど、一人だと追いつかれた時にアウトだから、公太と連携しながらになったかな」
「でも、引きつけるのが難しくなりそうだな。魔獣全部を引きつけないといけないだろう?」

 そこからは自然と今後の魔獣対策の話し合いとなり、そうしているうちに月が完全に姿を見せる時間になっていた。

 ――ぐううぅぅぅぅ~。

「あっ! ……ご、ごめん、太一君、勇人君」

 お腹が鳴る音が聞こえたかと思うと、即座に公太が謝罪してきた。

「いや、俺もお腹が空いたからちょうどよかったかも」
「ってかもうこんな時間かよ! 早く食事しに行こうぜ!」
「うん! 行こう、行こう!」

 勇人がベッドから勢いよく下りると、合わせて公太が満面の笑みで返事をする。
 その姿が普段の二人だなと思った太一は自然と笑みを浮かべ、大きく伸びをしてから立ち上がった。

「そうだな、行こうか!」

 魔獣との戦闘を想定した話し合いは一時中断となった。
 まずは腹ごしらえから、腹が減っては戦はできない。
 命のやり取りをする話し合いも、戦の一つに相違ない。
 とはいえ、三人はお腹いっぱいになれば睡魔に襲われることだろう。
 彼らが話し合いを行うのは明日か、明後日か、それともライフキーパーズを交えてのことになるのか。
 とにもかくにも、彼らにとって初めての冒険(・・)を乗り越えたのは間違いなかった。