ミリーの説明によると、こちらの世界には異世界から迷い込む人間――迷い人の存在が当たり前のように確認されていると教えてくれた。
 言葉が通じることに関してはいまだに解明されていないが、迷い人が持つ知識はとても有用であり、この世界の発展に大いに貢献してくれたのだとか。

「でも俺たち、そんな有用な知識なんて持っていないですよ?」
「だよなぁ」
「まあ僕たちは子供だもんね」

 迷い人が全員有用な知識を持っているわけではない。
 太一たちのような子供であれば知識も少なく、むしろ与えられるものが何一つとしてないということだってあるだろう。
 だが、その点に関してもこの世界のルールは明確化されているようだ。

「そりゃそうだろう。むしろ、子供でものすげー知識を持っている奴だったら、逆に怪しくなると思うぜ!」
「私たちは過去の迷い人の恩恵を十分に授かっております。ですので、どのような迷い人であっても保護し、自立できるよう支援をしましょうというルールが決められたのですよ」
「そうそう! だから心配しなくてもいいってこと!」
「森の中であなたたちを見かけた時は本当に驚いたのよ? しかも、デビルベアに襲われていたんだもの」

 森から離れてから時間が経っていたこともあり忘れていたが、太一たちは熊に似た生物――デビルベアに襲われていた。
 その方向からディーたちが来たということは、四人もデビルベアに遭遇していた可能性が浮上してきた。

「あ、あの! あの熊みたいな奴はどうしたんですか!」
「デビルベアのことか? それならぶった切ったぞ?」
「「「……えっ?」」」
「だから、ぶった切った。俺たちは冒険者だからな! あははははっ!」

 そう口にしたディーが大きく笑うと、タニアたちも続けて頷く。
 しかし、そうなると一つ気になることが出てきてしまう。

「でも、その……ぶ、ぶった切ったデビルベアはどこにあるんですか?」
「確かに、あれだけでかい熊を捨ててきたのか?」
「冒険者ってことは、素材とか、そういうのをお金に変えるんですよね?」

 太一、勇人、公太が続けて口を開くと、ディーは快活な笑みを浮かべながら腰に提げている小さな鞄をポンと叩いた。

「こいつに入ってる」
「こいつって……その小さな鞄にですか?」
「んなわけないだろう。こんな小さい鞄に――」
「待って、勇人君! ……ディーさん、これってもしかして、見た目の大きさ以上に容量があるっていう、魔法の鞄ですか!」

 勇人があり得ないと決めつけようとした直後、やや興奮したように公太が声をあげた。

「おっ! コータはよく分かっているじゃないか」
「こっちではなんて呼ばれているんでしょうか!」
「魔法鞄《まほうかばん》だ、まあそのままだな」
「それでもすごいです! そんな鞄を持っているなんて、もしかしてディーさんたちは、とても強い冒険者さんなんでしょうか!」

 目をキラキラさせている公太だったが、ディーはやや申し訳なさそうにしながら答えた。

「うーん、そうでもない、かな?」
「Bランクだし、真ん中より一つ上って感じかしら?」
「僕たちもまだまだ発展途上だからねー」
「ですが、これでも若手のホープと呼ばれるくらいの実力はあるんですよ」
「「「わ、若手のホープ! かっこいい!」」」

 言葉の響きに魅了されたのか、今度は公太だけでなく太一や勇人、全員が目をキラキラさせてディーたちを見た。

「あー……だが、冒険者を仕事にするのは最後の手段程度に考えておけよ?」
「えっ? どうしてですか?」
「どうしても何も、お前たち、さっきデビルベアに襲われたのを忘れたのか?」

 ディーに言われ、またしてもデビルベアに襲われていたことを忘れていた三人はサーッと顔色を青くさせていく。

「まあ、そのあたりの説明はギルマスがやってくれるだろう」
「もしも冒険者になることがあったら、声を掛けてちょうだいね」
「その時は僕たちが冒険者の心得を教えてあげよう!」
「リッツは調子に乗らないの。でも、先輩として一肌脱ぐのは構いませんよ」
「「「あ、ありがとうございます!」」」

 三人で何も分からないまま外壁を目指していた時とは打って変わり、太一たちの足取りはとても軽かった。
 だからだろうか、気づけば門の前に到着しており、ディーが笑みを浮かべながら口を開いた。

「それじゃあ入るか! 我らが大都市――ディルガイドへ!」

 ディーたちが門番に話をつけてくれたこともあり、彼らも太一たちを笑顔で迎え入れてくれた。
 突如として森の中に迷い込み、デビルベアに襲われた太一たちは、ようやくディルガイドという人が暮らす都市に足を踏み入れたのだった。