異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

「それじゃあ、何があったのか三人の口から詳しく聞かせてくれるかしら~?」
「「「……は、はい」」」

 翌日、冒険者ギルドについて早々に個室へ移動した太一たちとクレアは、彼女から事情聴取を受けていた。
 太一たちがEランク以上の冒険者であれば、新人ではなくなるので後輩を守ってくれた、もしその過程で死んでしまったとしても自己責任で片づけられただろう。薄情だと思う者もいるかもしれないが、それが冒険者という職業である。
 しかし、Fランク冒険者は話が変わってくる。彼らは新人冒険者であり、ギルドが守り、育てなければならない、いわば冒険者の卵のような存在なのだ。

「いったい何があってデビルベアと相対することになったの?」
「えっと、別の冒険者パーティが森の奥に行っていたみたいで、彼らが逃げてきたあと、その後ろからデビルベアが現れました」
「それからどうして三人が戦うことになったの?」
「みんな、奥から逃げてきたパーティを責めるばかりで逃げなかったんです。だから俺が声を掛けて逃がしたんですけど、そのパーティだけは動けなくて、その間にデビルベアの咆哮が近くから聞こえてきたんです」
「それで?」
「大きな声で彼らを怒鳴って、なんとか逃がしたんですけど……その時にはもう、デビルベアが奥から姿を見せていました」

 太一の説明にクレアはメモを取りながら、小さく息を吐いた。

「……そのパーティって、ウルフヴァイドの三人よね?」
「そうです。……あれ? 話を聞いていたんですか?」
「今回関わっている冒険者には、全員話を聞いているわ」
「それって、相当な数になるんじゃねぇか?」
「そうだよね。僕たちが見ただけでも、結構いたと思うけど」

 それからクレアは過去の証言をまとめたメモを見ながら、太一の説明に齟齬がないかを確認していく。

「……うん、みんなと同じ内容ね」

 そう呟いたクレアは再び顔を上げて三人を見る。

「それで、どうしてすぐに逃げなかったの?」
「えっと、デビルベアって俺たちの世界では熊って動物にそっくりで、そいつは足が速いから、勇人だけなら逃げられるけど、俺と公太は無理だなって」
「それで、太一が作戦を思いついたってことで足止めくらいならと思ったんだ」
「先に逃げてくれた人たちが援軍を呼んでくれると思っていたからです!」
「本当は三人が真っ先に逃げるべきなんだけどなぁ」
「「「……す、すみませんでした」」」

 思わず口に出たクレアの言葉に三人が謝ると、彼女はすぐに首を横に振った。

「ううん、責めているわけじゃないのよ。三人のおかげで犠牲者が出なかったことも事実だから。それに、今回のことは私にも責任があるからね」
「えっと、どうしてクレアさんに責任が?」

 太一の言葉に勇人と公太も首を傾げている。

「……私の判断ミスのせいで三人を危険な目に遭わせてしまいました、誠に申し訳ございませんでした!」

 するとクレアは謝罪を口にしながら、申し訳なさそうに頭を下げた。

「く、クレアさんのせいじゃないですよ!」
「そうです! 俺たちが悪かったんだ!」
「いのちだいじにとか言っていたのに、僕たち、自分たちで危ないことをしちゃってたんですよ!」
「ううん、それでも三人の安全を第一に考えて依頼を選ぶべきだったわ。せめてEランク以上の冒険者をつけるべきだった」

 クレアは三人のスローガンである『いのちだいじに』という言葉を信じて送り出していた。
 だが、アドバイザーとしてはもっと疑うべきだったと反省している。
 結局は三人の判断によるものなのでクレアが悪いわけではないのだが、だとしても反省の念は絶えなかった。
 もちろん、そのことを口に出すほどクレアは子供ではない。自分を擁護したい気持ちはあるだろうが、それを当人たちに伝える必要はどこにもないのだ。

「それで一つ、ライフキーパーズに依頼を出したところなの」
「「「……ディーさんたちに?」」」
「えぇ。彼らにタイチ君、ユウト君、コウタ君の三人の指導を正式にお願いしようと思います」
「「「…………ええええぇぇええぇぇっ!?」」」

 まさかの展開に三人は驚きの声をあげた。

「ちょっと待っていてくれるかな」
「いや、あの、クレアさん?」

 太一が呼び止めようとしたがクレアはそのまま椅子を立ち、一度個室を出て行ってしまう。

「……な、何がどうなっているんだ?」
「……ディーさんたちからの指導って、Bランク冒険者から?」
「……僕たち、Fランク冒険者なんだよね?」

 困惑が解けないまま時間だけが過ぎていくと、しばらくしてクレアが戻ってきた。
 だが、その時は一人ではなく、後ろから見知った人物が顔を見せると笑顔で手を振ってきた。

「「「ら、ライフキーパーズの皆さん!?」」」
「よっ! これからよろしくな、三人とも!」

 気さくに声を掛けてくれたディーをはじめ、タニアとリッツとミリーも笑顔を浮かべていた。