異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

 ディルガイドに戻り冒険者ギルドに足を運ぶと、三人は多くの冒険者から声を掛けられた。

「逃がしてくれてありがとう!」
「あなたたちのおかげで助かったわ!」
「生意気な口を利いてすまなかった! お前たち、すごいじゃないか!」

 声を掛けてくれたほとんどがラディナの森で薬草採集をしていた新人冒険者であり、三人に助けられたことへの感謝の言葉だ。
 冒険者たちからの声かけがいつまで続くのかと思っていたが、そこへディーの声が響いた。

「おーい、お前ら! 話したいのも分かるが、こいつらは相当疲れているんだ! 早く休ませたいから今度にしてくれー!」

 Bランク冒険者であるディーの言葉に新人たちは逆らえるわけもなく、さらに言えば彼らも太一たちを休ませてあげたいという思いは同じだった。

「今度一緒に依頼を受けようぜ!」
「今日はゆっくり休んでちょうだい!」
「本当にありがとう!」

 全く返事をすることができなかったが、ディーのおかげで冒険者の波が一気に引いてくれた。
 そんな中でも壁際から太一たちを見ている三人の冒険者の姿があった。

「あっ!」

 三人に太一は見覚えがあった。
 何を隠そう、彼らは森の奥へと足を踏み入れてデビルベアを呼び寄せてしまった三人だったからだ。

「君たちも無事だったんだね! よかったー!」

 だが太一はそんなこと気にしておらず、むしろ怒声を浴びせてしまい申し訳ないと思ってすらいた。

「あの時は俺も焦っちゃって、怒鳴ってごめんね」
「……えっ?」
「いや、その、私たちの方が謝らないといけないです!」
「みんなを巻き込んで、あなたたちに押し付けてしまって、すみませんでした!」

 金髪の冒険者の言葉を皮切りに、残り二人からも同時に頭を下げられると、太一たちは顔を見合わせてどうしたものかと思案する。
 しかし、太一たちは三人を罰したいなど思っておらず、むしろこれからも頑張ってほしいとすら考えていた。

「ミスをしない人なんていないし、これから今日のことを教訓にして冒険者活動を続けていったらいいんじゃないか?」
「そうだぜ! 俺たちも生きているわけだしな!」
「うんうん! みんなで頑張ろうね!」

 太一たちが笑顔でそう口にすると、三人は顔を上げてから真剣な面持ちで頷いた。

「俺はこのパーティ、ウルフヴァイドのリーダーをしているダスディだ。何ができるわけじゃないけど、俺たちにできることがあったら声を掛けてくれ。絶対に力になってみせる」
「あぁ、分かった。こちらこそよろしく頼むよ」

 それから太一たちはダスディ、そしてウルフヴァイドのメンバーであるカーリー、エディンとも握手を交わし、その場は分かれた。
 これでようやく落ち着ける、そう思っていたのだが、それはもう少し先の話だった。

「タイチ君! ユウト君! コウタ君!」
「「「クレアさん!!」」」

 冒険者たちがいなくなるのを待っていたのだろう、クレアは今にも泣きだしてしまいそうな表情で駆け寄ってきた。

「もう! 無茶はしないでって言ったでしょう!」
「「「うわあっ!?」」」

 クレアは駆け出した勢いで太一たちに抱き着き、そのまま強くギュッと抱きしめた。

「……本当に、本当によかった。心配したんだからね!」

 そう口にしたクレアの顔は見えなかったが、すすり泣く声が聞こえてきたことで太一たちは何も言えず、彼女が満足するまでそのままでいることにした。
 そもそも、無茶をしないと約束したにも関わらず無茶をしたのだから、心配されるよりも怒られることの方が多い気がする。
 だが、クレアは怒ることはせず、ただ抱きしめてくれている。その温かさが三人にはとても嬉しかった。

「……ごめんなさい、クレアさん」
「……こんな無茶はもうしません」
「……怖かったです。僕、怖かったです!」
「当然よ! デビルベアなんて魔獣、普通はDランクでもパーティを組んでやっと倒せるような魔獣なんだからね!」
「「「…………えっ?」」」

 しんみりとした雰囲気の中、まさかの事実を知ってしまい、三人は呆気に取られてしまう。
 そして、先ほどまで力強くも優しく抱きしめてくれていたクレアだったが、徐々にその力が強くなっていく。

「……あ、あの、クレアさん?」
「……く、苦しいん、ですけど?」
「……僕は大丈夫だよ?」
「君たち三人は明日、きつーくお説教ですからね! そのことはしっかりと覚えておいてちょうだい!!」
「「「ええええぇぇええぇぇっ!?」」」

 明日、というところは優しくもあるのだろうが、三人からすればお説教が待っていると分かってしまったので、ベッドに潜り込んでもなかなか寝付けない夜になってしまったのだった。