異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

 これは詰んだ――その時である。

「うわああああああああっ!!」
『ガルガガアアアアッ!?』
「「こ、公太ああああっ!!」」

 大盾を前面に構えた公太が全速力でシールドバッシュを放った。
 完全に不意を突かれたのか、それとも右足に傷を負っていて踏ん張りが利かなかったのか、どちらにしてもデビルベアがたたらを踏んでよろめき、そのまま尻もちをついたのは間違いなかった。

「立って! 太一君、勇人君」
「「た、頼もしいいいいっ!!」」
「早く!」
「「は、はい!」」
『ガルルゥゥ……ガルアアアアァァアアァァッ!!』

 よろめきながら立ち上がったデビルベアが大咆哮を発する。
 太一たちは立ち上がると全速力で逃げ出すが、デビルベアも最後のあがきなのか、右足の傷も気にすることなく全力で追いかけてきた。
 勇人はまだしも、このままでは一番足の遅い公太が捕まってしまう――その時だった。

「とりゃああああっ!!」
『ガルアッ!?』
「「「か、カイナさん!?」」」
「そのまま走りなさい!」
「「「は、はい!」」」

 援軍として駆けつけてきたカイナが太一たちとデビルベアの間に飛び込み、そのままナイフで斬り掛かった。
 致命傷には至らなかったが、それでもヘイトをカイナに向けることには成功する。

「よく耐えたな」
「あとは任せてちょうだい!」
「褒めてあげよう、後輩君!」
「「「ディーさん! タニアさん! リッツさん!」」」

 続けてディー、タニア、リッツが三人の横を通り過ぎながら声を掛けてくれた。

「あぁ、よかった!」
「「「ミリーさん!!」」」
「ごめんなさい、三人とも! 私がもっと危険な場所だと伝えておけばよかったわ!」

 ミリーは太一たちが危険な目に遭ったのが自分のせいだと思っていた。
 実際はラディナの森に初めて連れてきたカイナが教えるべき内容なのだが、薬草採集講座をしたこともあり、ミリーはギルドで事情を聞いた時から今に至るまで、ずっと責任を感じていたのだ。

「ミリーさんのせいじゃありません!」
「そうだよ! 俺たちも逃げたらよかったんだから!」
「僕たちの責任です! 気にしないでください!」
「……ありがとう、三人とも。でも、この借りはデビルベアを片づけてからしっかり返させてちょうだいね」

 安堵の表情だったミリーの顔が、一瞬にして凛々しいものに変わる。
 手にしていた杖を突きあげると、先端にはめられていた青い宝玉が強烈な光を放った。

「水の精霊ウンディーネの加護をお借りし、我は魔法を行使する」

 ミリーが魔法を放つための詠唱を開始したのを確認したディーが大声で指示を飛ばしていく。

「カイナ! いったん下がれ!」
「はい!」
「タニアとリッツはタイミングを間違えるなよ!」
「誰に言ってんのよ!」
「ディーの方こそ間違えないでよねー」

 先にデビルベアと交戦していたカイナを先に下げると、ディーとタニアが正面に立ち、リッツがかく乱役を買って出る。

「水を操り、刃を作る。刃を作り、敵を滅する!」
「ぶっ放せ! ミリー!」
「ウォーターエッジ!」

 ディーの声に合わせてタニア、リッツも大きく飛び退く。
 直後にはデビルベアめがけて水の刃(ウォーターエッジ)が殺到した。

『ガルオオガガアアアアァァアアァァッ!?』

 デビルベアの固い剛毛が、皮が、肉が裂け、場所によっては骨まで届いている。
 全身から血がドバドバと溢れ出しているが、それでもデビルベアは立っており、目の前にいる人間たちを睨みつけていた。

「どらああああっ!!」

 そこへディーが背後から剣を振り抜き――デビルベアの首を刎ねた。
 絶命したデビルベアの残された肉体から力が抜けていくと、ぐらりと揺れてそのまま地面に倒れていった。