そんなこんなで建物が近づいてきた。
 三人が遠目に見ていたものは外壁であり、近づくにつれてその大きさが相当なものであることが分かってくる。
 元の世界でいえば五階建てのビルに相当する高さがあり、その上には警備兵だろうか、武器を持った者が巡回しており、当然ながら外壁の下にも警備兵は立っていた。

「……なあ、太一。人間はいるけどよ、俺たちって中に入れるのか?」
「……俺も思った。こういう時って身分証を見せたり、入場料を支払って中に入るのがテンプレだと思うけど」
「……僕たち、そのどっちも持ってないよね?」

 そこまで口にすると、三人は顔を見合わせ、すぐに大きなため息をついた。

「どうする? とりあえず行ってみるか?」
「それで捕まえられたりしたらどうするんだ?」
「言葉も伝わるか分からないし……僕たち、ここで死んじゃうのかな?」

 外壁まであと少しと迫ったところで足が止まってしまった三人だったが、そこに予想外の展開が訪れた。

「――おーい! お前たちー!」
「「「……こ、言葉が分かる!」」」

 三人が通ってきた道の方から理解できる言葉が聞こえてくると、嬉しそうな表情でそう口にする。
 そして勢いよく振り返ると、そこには武装した四人の人影が手を振りながら近づいてくる姿が見えた。

「よかった、無事だったみたいだな!」

 声を掛けてくれたのは先頭を歩く偉丈夫の男性だ。その後ろには小柄な少年が続き、さらに後方には長髪と短髪の女性が歩いている。
 言葉が通じると分かり嬉しくなっていた三人だが、四人がどういった人物なのかなど分かるはずもない。
 特に武装しているところを見て、三人は嬉しさを忘れて緊張感に包まれてしまった。

「あの、えっと、その……」
「あぁ、すまない。いきなり声を掛けて悪かったな」

 偉丈夫の男性が間近まで来ると、公太が怖がるように声を漏らす。
 その姿を見て男性は慌てて笑顔を作り、何もしないという意味か両手を上げるジェスチャーをしてくれた。

「もう! ディーの顔は怖いんだから子供たちを怖がらせないの!」
「いや、だってよぅ、こいつらも絶対に困ってるに決まってるからさぁ」
「だからって怖がらせちゃ意味がないでしょうよ!」

 ディーと呼ばれた男性に詰め寄っていくのは短髪で赤髪の女性だった。
 ややきつそうな表情で詰め寄られたからか、男性は苦笑いしながら後退っている。

「ごめんね、君たち」
「あっちの二人はあれが通常運転だから気にしないでねー」

 二人が言い争っている間、長髪で青髪の女性と小柄で茶髪の少年が太一たちに話し掛けてくれた。

「いえ、俺たちもその、怖がってしまってすみませんでした」
「ねえ、君たち。君たちってたぶんだけど、迷い人かな?」
「「「……迷い人?」」」

 迷い人かと問われた三人は、同時に首を傾げてしまう。

「おいおい、ミリー。まずは自己紹介からじゃないか?」
「あぁ、確かにそうでしたね」
「僕はリッツ! よろしくねー!」
「リッツは軽すぎ!」

 ディー、リッツ、ミリーと三人の名前は分かった太一たちは、その視線を赤髪の女性へ向けた。

「私の名前はタニアよ」
「えっと、ディーさんに、リッツさんに、ミリーさんに、タニアさん、ですか?」
「おっ! 物覚えがいいじゃないか!」
「あんたと違って優秀な子供たちってことねー」
「タニア、お前なぁ」
「はいはい、夫婦喧嘩はその辺にしておこうね?」
「「夫婦じゃないから!」」

 何かにつけて言い合っているディーとタニアに向けてリッツが夫婦喧嘩と言い放つと、二人はものすごい形相で否定してきた。

「本当にそのあたりにしておいてね? そうねぇ……先に君たちの名前も聞いていいかしら?」

 四人の中で一番冷静そうなミリーが太一たちに声を掛けてくれたこともあり、三人はそのまま自己紹介をした。

「弥生太一です」
「鈴木勇人です」
「榊、公太、です」
「そっか。君たちの世界では、あとの呼び方が名前になるんだったわよね?」

『君たちの世界』と言われたところで、太一たちはハッとした表情でミリーを見た。

「警戒しなくて大丈夫よ。君たちのように異世界からこっちに来た人のことを、私たちは迷い人と言っているの」
「そうそう! そんで、迷い人は保護対象になっていてな、そういうわけで声を掛けたってわけだ!」
「そういうわけって、どういうわけよ! あんたは説明を省き過ぎなのよ!」
「だから夫婦喧嘩は――」
「「夫婦じゃないから!」」

 何やら急に賑やかになってしまい、太一たちは顔を見合わせると、とりあえず悪い人たちではなさそうで安堵の息を吐き出した。