異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

 太一たちが冒険者を続けると決めてから、三日が経った。
 ミリーやカイナに冒険者を続けると決めたことを報告したかったのだが、冒険者ギルドで顔を合わせることはなかった。

「みんな忙しいのかな?」
「そうじゃね? カイナさんのDランク依頼は依頼板にたくさん貼られてるし、ライフキーパーズはBランクパーティだろ?」
「ランク上位の冒険者やパーティは引っ張りだこなのかもしれないね」

 事実、Dランク冒険者がディルガイドの中では最も多く依頼数も多い。そして、Bランク冒険者は数えるほどしかいない、というのが現状だ。
 さらに言えば現時点でディルガイドに残っているBランク冒険者はライフキーパーズしかおらず、上位の依頼をこなすため走り回っていた。

「今日はどうしようか?」
「ずっと都市内の依頼だったからなぁ、久しぶりに外に出てみたい気もするけど」
「僕たちだけじゃ危ないよね?」
「「そうなんだよなぁ」」

 街の人たちからの評判も良く、時には本気で勧誘までされている三人である。
 このまま都市内の依頼を受け続けるのもありではあるが、正直なところ飽きてしまっていた。

「……こういう時は」
「報連相!」
「クレアさんに相談しよう!」

 というわけで、三人はクレアに相談することにした。

「あら、おはよう、三人とも」
「おはようございます。実は、折り入ってご相談がありまして」
「どうしたのかしら?」

 そこで太一から外の依頼を受けてもいいかという相談を口にした。

「外の依頼って、三人だけで?」
「うっ!? ……や、やっぱり、ダメですよね~」

 驚きの声をあげたクレアを見て、太一は苦笑いを浮かべながら諦めるかと考えた。

「……無茶はしないって約束してくれるかしら?」
「「「ぜ、絶対にしません!」」」

 だが、予想外の反応をクレアが見せたことで、三人は元気よく返事をした。

「それなら条件として、まずは武器を持っているのかしら?」
「「「……武器?」」」
「あー、この反応は持っていないわね」
「「「……はい」」」

 今まで受けた依頼は都市内の依頼と、カイナやミリーと共に行った薬草採集の依頼だけで、武器が必要になる依頼は一度も受けたことがなかった。
 そのため持っていないのだが、それは外に行く冒険者として大問題だとクレアは語る。

「それじゃあまずは武器を選びに行きましょうか」
「えっ!? 一緒に行ってくれるですか!」
「もちろんよ。なんて言ったって私はタイチ君たちのアドバイザーだからね」
「やったぜ!」
「よろしくお願いします!」

 クレアは別の職員に事情を説明してカウンターを変わってもらうと、そのまま太一たちと共に冒険者ギルドをあとにする。
 その道中、太一はカイナやミリーがどうしているのかをクレアに聞いてみた。

「あの、クレアさん。カイナさんやミリーさん、ライフキーパーズのみんなはどうしていますか?」
「カイナちゃんは南の森に行っているわ。なんだか魔獣の数が多くなっているみたいでね、その調査に向かってもらっているの」
「魔獣の数が多くって、それ大丈夫なのか?」
「斥候としてカイナちゃんは優秀なの」
「でも、やっぱり心配だね。北にあるラディナの森だったら、まだ少しは安心できると思うんだけど」

 最後は公太が苦笑しながら口にする。
 自分たちも足を運んだことのある場所ならいざ知らず、全く知らない場所へ知り合いが向かった、それも魔獣の調査のためなのだから心配になってしまう。
 クレアからすればカイナの実力も加味しての依頼なので心配は杞憂だと思っているが、太一たちからすればそうはいかなかった。

「三人は自分のことだけを心配した方がいいわよ」
「……そうですね」
「だな」
「僕たちってまだ、Fランクだもんね」

 人の心配よりもまずは自分の心配をするべきだとクレアが告げると、三人も納得したのか考えるのを止めることにした。

「ここが私のオススメする武具店よ」

 そうこうしていると、太一たちはクレアがオススメする武具店に到着した。

「さあ、いろいろ買っちゃうわよー!」
「ちょっと待った、クレアさん!」
「……どうしたの?」

 何故か買い物前に腕をぐるぐると回していたクレアを見て太一が制止する。

「お、俺たち、自分で稼いだお金で買います!」
「だからギルドから借りるのはなしで!」
「予算内で買えるものを用意するつもりです!」
「えぇー? 遠慮しなくていいのよ?」
「「「大丈夫です!」」」

 いつまでもギルドに甘え続けていては、借金が増えていく一方である。
 ギルドやクレアはそんな風に思っていない、あくまでも太一たちの気持ちの問題なのだ。

「うーん……ちゃんと満足いく装備が買えるなら、それもよし! でも、そうじゃないと私が判断したら、少しだけでも援助させてちょうだいね」
「……分かりました」

 クレアの判断に間違いはないと太一たちも分かっている。
 だからこそ、ここで意地を張るわけにはいかないと判断した。

「それじゃあ改めて、中に入りましょうか」
「「「はい!」」」

 こうして太一たちは初めて異世界の武具店に足を踏み入れた。