異世界に行ったら【いのちだいじに】な行動を心がけてみた

「それじゃあ薬草採集に向かいま――」
「「「まずは最善の準備を! ポーションを買いに行きましょう!」」」
「……へ?」

 今回の薬草採集は特定の薬草ではなく常時依頼の薬草採集なので、危険度は高くない。
 カイナからすればそこまで準備をする必要はないという見解だったのだが、太一たちから見れば初めての薬草採集であり、初めて都市の外に出て行う依頼でもある。
 先ほど決めたスローガン『いのちだいじに』に沿って行動するのであれば、最善の準備をするのは当然のことだった。

「ポーションならやっぱりリーザさんのお店がいいな!」
「いいねえ! 俺たちも行ってみたいと思ってたんだよ!」
「これから通うことになるかもしれないもんね!」
「ちょっと、ちょっとー! ねえ、タイチ君たち? 今回の依頼は簡単な薬草採集だよ? ポーションとか、特に必要ないと思うけどー?」
「「「絶対に必要です! 新人冒険者なんで!」」」

 早く依頼を終わらせて次の依頼にと考えていたカイナだが、太一たちの迫力に負けてしまい無言で何度も頷いた。

「それじゃあ行こうぜ!」
「おう!」
「うん!」
「……まあ、そうだよね。よーし、私も切り替えなくっちゃ!」

 太一たちの行動は新人冒険者として間違ってはいない。
 間違っているのは自分なのだと、カイナは自身の心持ちを反省し、太一たちをしっかりとサポートしなければと思い直した。

 その足でリーザのお店に向かうと、太一たちはそこでポーションを自分たちのお金で購入した。

「それじゃあ、下級ポーションをそれぞれ二本ずつだね」
「「「ありがとうございます!」」」
「ありがとね、おばちゃん!」
「カイナもしっかりとタイチたちを指導してやるんだよ」
「任せておいて!」

 勇人と公太はもっとリーザと話をしたいという思いもあったが、それは今度でいいだろうと考えた。
 それほど、リーザのお店は心地よい雰囲気を持っていたのだ。

「それじゃあリーザさん、いってきます」
「気をつけていっておいで」

 まるで実家のような心地よさを持ってお店を出た太一たちは、カイナと共に都市の外へ出発した。

 初めて都市の外に出た――というわけではないが、最初はいきなり森の中に迷い込んでしまい、訳も分からず魔獣と遭遇、着の身着のまま逃げ出したので周りの景色に目を向けることなどできなかった。
 だが、今回は違う。自分の意思で外に出て、カイナという先輩冒険者も一緒なのだ。

「……おぉっ!」
「……これが!」
「……異世界!」
「「「すっげええええぇぇっ!!」」」

 広大な大地、地平線まで見える風景は、都心で暮らしていた太一たちからすれば初めて目にする光景だ。
 それだけではなく、整備された街道から逸れた場所は自然豊かな草原で、裸足になって駆け回りたいという衝動に駆られてしまう。

「そんなにすごいかな?」
「すごいですよ!」
「俺たちが暮らしていた場所はこんなんじゃなかったもんな!」
「すぅー……はぁー……空気も美味しいね!」
「……空気が、美味しい?」

 太一たちとは感性が違うのだろう、カイナはいつも通っている街道で深呼吸をしてみたが、特に何も感じなかった。

「うおっ! あっちにでっかい木があるぞ!」
「あっちには動物が走ってるじゃねえか!」
「あれはなんだろうね? あれは……ま、魔獣!?」
「「えぇっ!?」」

 楽しい雰囲気だった太一たちだが、公太が草原の先で見つけたものに魔獣と口走ったことで、太一と勇人が驚きの声をあげる。

「んん~? あぁ、あれは違うわよ、コウタ」
「……えっ? ち、違うんですか?」
「なんだ、違うのかよ」
「公太の早とちりか。でも……確かに魔獣みたいな見た目だなぁ」

 ホッと胸を撫で下ろした公太と勇人だったが、太一は魔獣と勘違いしたものを見て疑問を口にする。

「あれはカウルって名前の動物よ」
「「「……カウル?」」」
「カウルから採れる乳は栄養価も高いし、そのお肉も柔らかくて人気があるのよ」
「へぇー、日本でいう牛みたいなものかな?」

 太一がそう呟くと、三人は遠目からまじまじとカウルを眺める。

「はいはーい! 今日の目的はカウルの観察じゃなくて、薬草採集だからねー!」

 しばらくそうしていた三人にしびれを切らし、カイナが手を叩きながら声を掛けた。

「あまり遅くなると魔獣も活発化してきちゃうし、安全に採集を終わらせるなら日が出ている時間の方がいいんだからねー」
「そうなんですね」
「やっべ、早くいこうぜ!」
「よろしくお願いします、カイナさん!」
「よろしい! それじゃあいこうか――ラディナの森へ!」

 ディルガイドから北にあるラディナの森。そこは太一たちが迷い込んだ、デビルベアと遭遇した森だった。