「ここは……布のお店ですか?」
「でもさっき洋服は買ったよな?」
「そうだよね?」

 案内された布のお店を前に、太一たちは首を傾げてしまう。
 だが、クレアが布のお店に案内した理由は洋服の購入ではなかった。

「確認なんだけど、タイチ君たちは今の洋服をどうするつもり?」
「今の洋服って……制服のことですか?」

 太一たちは学校帰りに異世界へ迷い込んでおり、身に着けているのは学校の制服だった。
 日本では当たり前の格好も、異世界で見れば完全に浮いた存在になってしまうため洋服を購入している。

「迷い人が着ていた洋服の素材は、私たちの世界で見れば未知のものが多いの。だから、専門のお店で売ることもできるのよ」
「なんか、そんな話のラノベも読んだことがあったような……」
「もちろん、今日買った洋服のお金に充てろなんて言わないわ。売ったお金はタイチ君たちが自由に使えるお金にしてもらって構わない」
「でも、いいのか? 冒険者ギルドに返さなくて?」
「そこは依頼をこなしてもらえれば全然いいの。それに、冒険者ギルドが保護するとはいえ、出せるお金にも限界はあるし、遊ぶお金には使えないわ。それなら、自由に使えるお金も少しはもっていた方がいいんじゃないかしら?」
「遊ぶことはないと思うけど、確かに自由に使えるお金はあった方がいいかもしれないよね」

 太一、勇人、公太がそれぞれ納得すると、三人は制服を売ってお金に変えることを決めた。

「「「売ります!」」」
「分かったわ。それじゃあ、中に入りましょうか」

 お店の中に入ると、そこには色とりどりの布が棚に並べられていた。
 奥の方には女性の店主もおり、クレアが声を掛けると魔法鞄から太一たちの制服を取り出して何やら交渉を始めている。

「……俺たち、クレアさんにおんぶにだっこだな」
「……マジで働いてギルドにお金を返さないと、申し訳が立たないな」
「……それに、クレアさん個人にも何か恩返しできるようになりたいね」
「「それな!」」

 公太の言葉に太一と勇人が同時に同意を示し、三人の中で小さな目標が出来上がる。

「冒険者ギルドにお金を返す」
「クレアさんに恩返しをする」
「頑張ろうね、太一君、勇人君!」

 そんな決意を固めていると、交渉を終えたクレアが太一たちのところに戻ってきた。

「お待たせー」
「どうでしたか?」
「うん、結構な金額になったよ。場所も場所だし、一度ギルドに戻ろうか」
「「「はい!」」」

 こうして太一たちは一度、冒険者ギルドに戻ることになった。

 冒険者ギルドには依頼を受けるカウンターや、依頼人が依頼を出すカウンターなど、用途分けされている。
 手軽に依頼を受けたり、出したりできるようになっているのだが、中には内密に依頼を出したり、受けた依頼の話し合いをしたいという時もある。
 そんな時のために個室が用意されており、太一たちはお金のやり取りをすることもあり、今回は個室へ移動することになった。

「ちなみになんだけど、この世界のお金については――」
「「「分かりません! 教えてください!」」」
「……だと思ったわ」

 クスリと笑いながらクレアがそう口にすると、最初に魔法鞄から制服の売却額が入った袋が取り出された。

「まず、これが今回の売却額よ」

 クレアがテーブルに置くと『ドンッ!』という音と共に袋の中から『ガシャン!』という、お金がぶつかる音が聞こえてきた。

「……これ、結構な金額が入っていませんか?」
「そうよ。お店でも言ったじゃない、結構な金額になったってね」

 ウインクしながらそう口にしたクレアに、太一たちはドキッとさせられてしまう。

「さて、それじゃあまずはお金について教えていきましょうか」

 太一たちの反応に気づいていないクレアはまず、袋の中から五枚の硬貨を取り出した。

「お金の種類なんだけど……って、三人とも、聞いているかしら?」
「「「あっ! す、すみません!」」」
「もう、一回しか言わないからちゃんと覚えるのよ!」
「「「分かりました!」」」

 まるで学校の先生と生徒のようなやり取りから、お金についての授業が始まった。