学長室には学長が一人いるだけだった。皺のないシャツとスーツに身を包んだ痩身の男だ。

「そちらへどうぞ」

 スーは促されるままにソファに腰掛けた。

「手紙は読んで頂けましたかな?」
「ええ。それで不可解な事件と言うのは、羽の生えたオオトカゲのことですか?」
「おや。なぜそれを知っておいでで?」
「先ほど生徒から聞きました」
「うーむ。生徒には言わないようにとあれほど」
「どうしてですか? 表沙汰になってはいけないのですか?」
「いいえ、ただあまりそのようなことを言ってばかりいると騙言症(へんげんしょう)を疑われてしまうでしょう?」

 スーは視線を逸らして小さくため息を吐いた。

「居もしない架空の生物を居ると偽っていると、学長は御思いなのですね」
「かも知れないと思っておるのです。断言はできませんから。それにもし、本当にそんな生物が居るのだとすれば、虚構士のあなたを疑わずにはいられない。と言うより、王は既にあなたを御疑いになっておられる」
「なるほど。調査と言うより、取り調べをしたかったわけですね」
「取り調べとは人聞きの悪い。そのようなことをする気はありませんよ。ただ、やってないのであればそれに越したことはないとは思いますので、ついでと言うことで質問させて頂きます。レフォストさんのお弟子さんは、そう言うことをする人ではないですか?」

 する気はないと言っておきながら、さっそく取り調べ染みたことをしている。スーは首を振った。

「身内贔屓を差し引いても、彼女はそんなことをするような人間ではないですし、僕の下でそのようなことはさせませんよ。ところで……」

 学長は首を捻る。

「この調子だと、夢見子(ゆめみご)探しは、させて頂けないのでしょうね」

 学長は目をぱちくりさせてから、ゆったりと笑う。

「そんなことはありません。どうぞご自由に」 
「いえ、学長が子供たちに夢を見たことを言わないよう指導しているのなら、子供たちは言わないでしょうから意味がないと言っているのです」

 逸らされた視線は帰って来ない。

「それと、騙言症と言うのも差別意識を高める言い方ですから、せめて人の上に立つ学長はおやめになってください。夢見子たちは、自分は人とは違うと思って悩んでいるのです。病気ではなく個性なのですから、それを理解してあげてください」

 学長はその言葉を聞いてもなお、ゆったりと笑うだけだった。