私は雀の子を見つめた。
たくさんの雀がやってくることもあれば、一匹しか来ないこともあった。が、この雀の子だけは毎日私の元にやってきてくれていた。お友達になれた、そう思っていた。
「まあまあかわいい雀さんだこと」
「少納言」
年若い女房も庭に下りてくる。いつも優しい少納言はにこにことしていたかと思うと、はっと思いついたように手を叩いた。
「そうだ、姫さま。この雀、飼ってみてはいかがでしょう」
「え?」
私はきょとんとした。反対しなかったのを同意と受け取ったのか、少納言は下働きの男を数人呼び寄せた。
「ほら、あの雀を捕まえるのよ」
少納言が男たちにそう命じると、彼らはじりじりと籠や網を持って雀に近づいた。雀はそれに気付かず、懸命に米粒をつついている。
「やめましょうよ、少納言さん。かわいそうだわ」
犬君が眉を寄せて止めようとした。私ははっと我に返った。雀に目を移す。
その瞬間だ。雀はあっという間に網の中に捕らわれた。
ピーッと一回だけ、驚いたように雀は鳴いた。
「ほらほら、かわいそうよ、こんなに暴れて。やめましょうよ」
そう難じる犬君の声を聞きながら網の中を見つめていると、雀は突然のことに驚いたようにばたばたと飛び回っていた。そして、出してくれといわんばかりに網にぶつかっていた。
「かわいそうだわ」と私もそう言おうとしたが、雀はぴたりと動きを止めてしまった。
「大丈夫よ、犬君。もうおとなしくなったわ」
羽ばたき疲れたのか、雀は網の中で小さくうずくまった。
「うまそうな雀ですね。焼いて食うんですかい?」
男の一人が少納言にそう尋ねた。少納言は「もうよい。黙ってあっちへ行きなさい」と追い払った。
私がぼんやりしていると、少納言は雀の入った網を丸めて掴んで縁へと上がっていった。「さあ、姫さまも犬君も。この雀、伏籠の中に入れて飼いましょうね」
少納言は嬉しそうに笑っていたが、隣に佇む犬君は辛そうに顔を顰めていた。
私はとことこと少納言の後をついていった。少納言は雀を逃がさないようにそっと籠を被せた。
「良かったですね、姫さま。新しいお友達ですよ」
そう言われると私も嬉しくなってきた。
「雀さん」
声を掛けるが、雀は小さくなったまま動かない。
「雀さん?」
「さあさあ、朝餉にしましょう」
少納言に促されて、私は後ろ髪を引かれながら犬君と共に雀の入った伏籠を置いて部屋を出た。