あの頃の私は鳥籠の中にいた。

「いぬきー、いぬきー」
 私は庭にしゃがみこんだまま仲の良い女の童の名前を呼んだ。
「姫さま、どうなさいました」
 犬君が縁側から庭に降りて、私の傍らにやってきた。犬君は私よりふたつ年上の十二歳だ。
「見て。またあの子だわ」
 私が指し示す指の先。朝の明るい光を浴びて、小さな雀がちょんちょんと米粒をつついている。
「同じ雀かどうかなんてわからないでしょう」
 犬君は呆れたように言う。私は頬を膨らませた。
「わかるわ。だって見て。体がぷっくりしているし、羽根の色がここだけ濃いの」
 自信満々にそう断言する私に、犬君は苦笑した。
 ここ数日、私は庭に出ては雀に餌をやっていた。
 私は北山の外れの小さな屋敷に暮らしていた。母は早くに亡くなったので、母方の祖母に育てられていた。父は兵部卿宮という立派な方だそうだが、あまり会ったことはない。母は兵部卿宮の本妻ではなかったから、ここで本妻の目から隠されるようにひっそりと暮らしていた。