8.先人の尊い教え

 みんなでお堂でお経を唱えていた時のことだ。隣の宗心がうっつらうっつらと船をこぎだした。
「こら! 寝ながら読経するとはなんたることだ!」
 師匠が宗心の頭を叩いた。宗心はがばりと顔を上げた。
「申し訳ありません! お経を唱えるのをやめて寝ます!」
「馬鹿者!」

 僕が兄上にそのことを告げると、兄上は眉を寄せた。
「うむ。その昔法然上人という方がおってな。その方に『念仏の最中に眠くなるのはどうしたらいいですか?』とある人が聞いたのだそうだ」
「どうしたら良いのですか?」
 僕は尋ねた。なぜなら僕も眠くなることが多くて困っていたからだ。兄上はうむと頷いた。
「法然上人は答えたそうだ。『寝ていない時に念仏しなさい』と。尊い! 実に尊い! 潔く寝た宗心は立派であるな!」
 翌日のお経の時間、僕は兄上の教えに従った。
 師匠から晩飯抜きを言い渡された。