6.生活で大切なこと

 兄上の前でまた正座する僕。
「いいか、兼友。生活では大切なことがある。スッキリ暮らす、それだ」
「断捨離ってやつですね!」
 僕は瞳を輝かせた。兄上は続けた。
「うむ。世の中、ものが多いと下品に感じてしまうものだ。例えば自分の手の届く範囲に何でも置いてないか?」
 僕はドキッとした。仁和寺に来る前の僕はいつもそうだった。文机で書き物をする時、必ずおやつをそばに置いておく。飽きた時の為に絵巻物も置いておく。暗くなってきたときのために灯りも用意しておく。眠くなったらすぐ横になれるように枕とかけものの準備もバッチリだ。ゴミが出たら机のはしっこに置いておく。
 そして「今日は一歩も動かずに過ごせた!」と喜んでいたものだ。
「あとな、硯にやたら筆が置きっぱなしになってないか?」
 兄上に見られていた! 僕はドキドキした。
 兄上は他にも色々と多いことで見苦しくなるものの例を挙げた。
「だがな、多くても見苦しくないものがあるんだ。わかるか?」
 僕は考えた。
「ええと、知識、とかでしょうか?」
 兄上は「さすが、わしの兼友だ!」と僕の頭をいいこいいこした。
「そう、本棚に本が多いこと、それを言おうと思っていた。そして、あとひとつある」
 僕は前のめりになった。兄上は厳かに告げた。
「ゴミ捨て場にゴミがたくさんあることだ!」
「えっ、なんでやねん」
 僕が思わず突っ込むと兄上は「ゴミ捨て場って言うのはな、ゴミを捨てる場所だからだ」と諭した。
 よく意味がわからなかった。