2.そうだ、石清水八幡宮行こう

「あれ? 行融僧都。どこ行くんですか?」
 僕は仁和寺の門を出ていく行融僧都を見つけて声をかけた。僧都はどや顔で答えた。
「石清水八幡宮だ! 今急に思い立った。わしとしたことがまだ参詣したことがなかったのだ!」
 そして、どすどすと徒歩で一人で寺を出ていった。

「ただいま戻ったぞ! 土産だ!」
 土産と聞き、僕は友達たちと一緒にわらわらと僧都のもとに集まった。わくわくと両手を出している僕たちを一瞥して、僧都は「よしよし、そんなに土産話が聞きたいか!」と満面の笑みを見せた。集まってしまった手前、僕たちは手をさりげなく引っ込めて円座になった。
「いや、想像以上に尊かった!」
 僧都は僕たちに極楽寺の荘厳さ、高良大明神の重々しさ等を滔々と語った。そして、思い出したように首をひねった。
「だが、参詣してた人たちが皆が皆、山に登っていたのはなんだったのだろう」
 僕も首をひねった。
「まあ、石清水八幡宮に参拝することが目的だったから、山の上までは行ってこなかったけどな!」
「そうなんですねー」
 僕は相づちを打った。が、僕の右隣にいた友達の宗心は、何かを堪えるようにぐっと顔に力を込めた。
 そして、左隣にいた友達の盛恵は真顔のまま僕にしか聞こえないような声で呟いた。
「いやそれ、山の上こそ石清水八幡宮だから」

 翌日。兄上が来たのでその話をした。兄上は難しい顔をしてこう呟いた。
「些細なことにも案内役はいて欲しいものよ……!」
 兄上は自分の台詞が気に入ったようで「些細なことにも案内役はいて欲しいものよ!」と再び呟いてうんうんと首を縦に振っていた。