20.尊い狛犬と獅子

「わー、すごいー!」
 僕ははしゃいだ。
「うむ。なかなかに立派な社であるな」
 兄上も感激しきりなようだった。
「さあさあ、ごゆっくりご覧ください」
 しだなんとかさん(名前忘れた)がにこにこしながら僕たちを案内する。
 今日は、しだなんとかさん(下の名前聞いてないのかも)に誘われて、みんなと丹波国の出雲大神宮に来ている。かの有名な出雲大社から神様の分身をお招きしたらしい。とても立派な神社で、僕は感動していた。
「ああ! めでたい! 実にめでたい!!」
 突然大きな声が聞こえた。びっくりして振り向くと、そこには兄上の友達の聖海上人(しょうかいしょうにん)が立ち尽くしていた。
「この獅子の立ち方! とてつもなく珍しい!」
 僕たちはわらわらと聖海上人の周りに集まった。
 そこには、狛犬と獅子が背中合わせに立っていた。
「ほんとだ。初めて見ましたね、兄上」
 普通は狛犬と獅子は向かい合って立っているものだ。兄上も、うむ、と眉を寄せた。
「素晴らしい! これは何か深いいわれが「素晴らしい!!!! きっと何か深いいわれがあるに違いない!!!!」
 聖海上人は叫んだ。兄上の言葉は途中でかき消された。兄上も感動しやすいタイプだが、この人はその上をゆく。しかも上人は涙ぐんでいた。僕は少し引いた。
 上人は僕らを振り返った。
「いやいや、皆さん! こんな素晴らしいことをスルーしていいものか! いやあ、あり得ませんぞ!!」
 人間失格、みたいなことを言われて僕らはさらに引いたが、狛犬と獅子を見比べて「珍しいね、帰ったらみんなに教えてあげよう」とかなんとか話し合った。
「おお! あそこの神官どのに聞いてみよう!」
 上人が走り出した先には、物知りっぽい顔をした神官さんが立っていた。
「神官どの! この狛犬と獅子が背中合わせに立っているのは、きっと絶対何か尊い何かいわれか何かなのでしょう! ちょっと教えてくだされ!」
 神官さんは「それな」と言って続けた。
「悪ガキどもがやらかしました」
 よっこらしょ、と言って神官さんは狛犬と獅子の向きを変えて立ち去った。
 上人は僕らを振り返ることもなく立ちすくんだ。僕らはリアクションに困った。
「これはこれは。上人の感涙が無駄になってしまったな!」
 兄上が余計な一言を言ったおかげで、場の空気は凍った。