17.すごろくと兄上

「わー、また負けちゃったー」
 仁和寺にまた兄上が遊びに来てくれた。
「兄上、すごろく強いですね!」
 僕はがっかり半分、尊敬の眼差し半分で兄上を見つめた。兄上はニヤリと笑った。
「実は先日、すごろく名人に必勝法を尋ねたのだ」
「えっ! すごい! ぜひ、僕にも教えてください!」
 僕は前のめりになった。兄上は「他でもない兼友の頼みなら仕方あるまい」と一人言を言ってから僕に教えてくれた。
「勝つぜと思って打つな。負けねえと思って打て。どの手がすぐ負けてしまうかよーく考えて、その手を使わないようにしろよ、と!」
「なるほど!」
 よくわかったようでよくわからなかったが僕は心にメモした。
「こういうその道の達人の言うことは、国を平穏に保つことにも役に立つ! まこと尊いことであるよ!」
「はい!」
 僕が感動していると、外から盛恵がひょっこり顔を出した。
「今、師匠のとこに尊い僧侶が来てるって」
 兄上はいそいそと立ち上がった。
「ふむ、それは是非ともお話をうかがいたい!」
 僕と兄上は盛恵についていった。
 師匠の部屋の前で立ち止まる。中には師匠と見たことのないお坊さんがいた。そのお坊さんは師匠と話し込んでいた。
「……あと、囲碁やすごろくが好きでよくやってる人と言うのは」
 僕はどきっとした。今の今まで兄上とやっていた。
「殺し、盗み、痴漢、嘘、等々よりすさまじく悪いことだと思うのです!」
 兄上はそっと後ろ歩きで部屋の前から離れた。僕もそれにならった。
 部屋に戻ってから兄上は小さく呟いた。
「あの方の言うことが耳から離れなすぎてヤバい」