14.恐怖! 猫又の怪異!

「おい、怖い話してやろうか」
 ある夜、宗心が僕に話しかけてきた。
「いいよ、いらないよ」
 僕は遠慮した。昨日の「宗心鼎踊り事件」で怖い思いをしたばかりだ。
「まあまあそう言うなって」
 昨日鼻血を吹いていたばかりだというのに復活するのが早い。宗心は僕の肩に手を乗せた。
「猫又って知ってるか?」
 僕は少しほっとした。その話なら既に知っている。
「うん、知ってるよ。山奥にいる、人を食べちゃう化け物だよね」
 すると宗心はちっちっちっと指を左右に振った。
「山じゃなくてもな、普通の猫が年をとって猫又になっちゃうことがあるんだよ」
「ま、まさか」
 仁和寺にはかわいい猫ちゃんがたまに入ってくることがある。あの猫ちゃんたちが化け物になるなんて考えられない。
「まさかと思うだろ? そいつもそう思ってたんだよ」
「そいつって?」
「連歌法師だよ」
 僕はごくりと喉を鳴らした。
「ある夜、そいつが連歌会の帰りに川のほとりを歩いてたんだ。手には連歌会の景品をたくさんかかえてな」
 夜、川のほとり。僕は想像をたくましくして震えてしまった。こういうとき、想像力豊かだと困る。
「そしたらな、急に猫又が飛び付いてきて、足にかぶりつこうとしたんだ!」
「うわああ!」
 僕は耳をふさいだ。
「連歌法師は大慌てで川に飛び込んだ! 猫又だ! 助けてくれ! って叫びながら!」
 暗い川の上から猫又が鋭い目で見つめているのだろうか。それとも川の中にまで猫又が……。
「そしたらな、ご近所さんたちがたくさん、どうしたどうしたって松明持って出てきてくれたんだよ」
「ああ、じゃあ猫又は退治できたんだね!」
 しかし宗心は首を横に振った。
「退治は……できなかったんだ」
 僕は絶望した。
 人々が束になって戦ってもかなわないほど強いのか、猫又は……!
「だってな、千切れんばかりだったんだよ」
「ちぎれる……」
 僕の脳内には、ズタズタに引き裂かれた法師が。
「わん! わん! わふぅ、ってな、尻尾を千切れんばかりにブンブン振ってな、ご主人様が帰ってきたのを喜んでくれてたんだよ。……いやあ、犬ってかわいいよな!」
「うん!」
 僕の脳内はかわいいワンちゃん一色になった。