11.真乗院の尊い僧侶 その2

「ほう、そうかそうか。盛親僧都に会ったのか。実はわしも親しくさせてもらっているのだ。彼は仁和寺界隈ではかなりの尊い人であるぞ」
 兄上が仁和寺にまた遊びに来たので、僕は昨日のことを話した。
「兄上とお親しいのですね! 兄上はどんなところが尊いと思われたのですか?」
「そうだな。彼はまず、芋頭を非常に好む」
 いもがしら?
 僕はごくりと息を飲んだ。
「いもがしら、とはなんでしょ……いえ! やっぱりいいです!」 
 またもや、門外不出のなんかすごいなんかかもしれない。そう思ったのだが「里芋のことだ」と言われ、僕はがっかりした。
 は! 僕は今なんてことを。
 僕は動揺した。盛親僧都に勝手な期待をかけ、勝手にがっかりするなんて。
 僕が気を引き締めていると、兄上は続けた。
「そして、芋頭を非常によく食べる。大きな鉢に高々と盛って、くちゃくちゃ食べながら講義をするのが彼だ」
 僕は「それ、お行儀悪くね?」と思ったが、兄上の次の言葉を待った。
「そして、病気にかかった時は療養だと言って自室に閉じこもり、選びに選んだ最高級芋頭を思う存分食べていた」
 僕は「お腹壊すんじゃね?」と思ったが、さらに次の言葉を待った。
「そうして、ありとあらゆるすべての病気を治したのである!」
「ーーすごい!」
 やはりすごい。僕の師匠だけある。
 兄上は満足そうに頷いた。
「うむ。ある時、わしが病で寝込んだことがあった。彼は見舞いに来てくれてな」
 優しい! 素敵!
「その手には、たくさんの芋頭が入ったカゴを持っていた」
 あ。もしかして。
 僕は期待に胸を膨らませた。
「彼は言った。『早く元気になるのだぞ』。そう言って、わしの看病をしながら、芋頭をたらふく食っていた。そして、持参した芋頭を食べ終わると『では!』と言って帰って行ったのだ! なんとも芋頭を愛する男であることよ!」
 僕は、独りよがりな期待を勝手に人にかけることはいけないことだと学んだ。