ふもとの町まで辿り着いた私たちは、パティに連れられ『魔石換金所』なる耳慣れない店へと入った。
パティは、私たちがかき集めた黒い石のかけらを天秤の片方の皿にあける。
「こいつぁ、鼠型魔獣だね」
もう片方の皿に分銅を乗せた店員は「2150カヘ」とぶっきらぼうに言った。
「あ~、やっぱ、そんくらいよなぁ」
パティは肩を落とし、深々とため息をつく。
店員から無造作に渡された紙幣二枚とコイン五枚を受け取ると、パティは店を後にした。
「何しとんねん、ついて来ぃ。ご飯にすんで」
手にした紙幣をヒラヒラとさせる彼女の背を、私たちは追った。
「無事に街に着けたことにカンパーイ!」
発泡酒の泡を口端につけ、パティは笑う。
『金の穂亭』という名のこの店は、RPGなどで見る酒場のイメージそのものだった。
カウンターの側には、
『鼠型魔獣退治 ユール平原 5000カヘ』
などの紙を貼り付けた掲示板が掲げられている。
木製ジョッキに口をつけると、フルーティーなスパークリングタイプの液体がのどを潤す。
お酒が飲めない私のために、パティが注文してくれたがこれだ。
ほんのりと甘い炭酸水のようで飲みやすい。
「ん~、どれ頼もか。アンタら、何食べたい?」
私は壁にかけられたメニューボードに目を向ける。
(なぜか文字は読めるけど……)
新鮮ゲグのロテム
大きめ野菜のフープット
厚切りアクテス
5種のウースムースプターサ
(わからーん! 野菜料理だろうなってことと、厚切りだろうなってことくらいしかわからーん! ゲグって何!?)
「アリス、どないしてん」
「メニュー見てもどんな料理か全然わからない。適当にあったかくてお腹に優しいものお願いします」
「あぁ、アンタの国にはない料理か。ほならウチと同じフープットでえぇか? そっちはどうすんの?」
「自分か? そうだな、肉を希望する」
「……まぁ、見たまんまやな」
パティが注文するとやや経って料理がテーブルに届く。
パティと私の前には野菜のスープ煮込みらしきもの、レオポルドの前にはスパイスをまぶした厚切りの肉が運ばれてきた。
「美味しい!」
フープットを口に運ぶと野菜の甘みと滋味が広がる。
(ハーブの風味が豊かな塩味のスープが、やわらかく煮込んだ野菜にしっかりとしみてる! 初めて食べるのにどこか懐かしい味。あっ、ポトフっぽい!)
レオポルドを見ると、口元を覆っていたネックゲイターを下げ、大きく切った肉をワイルドに嚙み千切っている。
その野性的な仕草に雄みを感じ、ドキドキしてしまった。
(『けもめん』でも食事シーンはあったけど、動かない立ち絵だったもんね。牙をむき出しにしているレオポルドの口元、セクシー)
ちなみにレオポルドは他の客に背を向ける形で座っているので、周囲に顔を見られずに済んでいる。
「しかし、料理の名前すら分からんようじゃ、アンタらこれから大変やなぁ」
「だよね」
この世界について右も左も分からない者一名、人型になりたてのもの一名。パティと別れたら、私たちは正直積むだろう。
今のうち、この世界の常識をある程度教えてもらっておいた方がいい。
「ねぇ、パティ。この国の名前って?」
「キハサカイ王国や」
「キハサカイ王国……」
「ちなみにここは西の街グランファな。王都の次に賑やかや言われてる」
「へー、活気があるんだ」
「ただ、ここは魔族の国と接してるのがちょいネックでな」
「魔族!?」
ファンタジックな存在が飛び出して来た。
この世界、獣人はいないのに、魔族は存在しているのか。解せぬ。
「あぁ。魔族の国ってのは通称や。正しくはラプロフロス帝国っちゅーねん」
「へぇ」
「自分はそこから来た」
「え?」
レオポルドが口の周りの脂をべろりと舐めとる。
「自分はラプロフロスで作られたので」
「作られた?」
「まぁ、この姿になる前は普通に魔獣やったし、そうなるわな」
「ちょっと待って? 魔獣はラプロフロスで作られるの? 作られるってどういうこと? 生まれたじゃなくて?」
「魔石あるやろ?」
「あのデカ鼠の額にあった?」
「デカ? ……まぁ、ええわ。魔族はウチらと違ごて魔力を持っとってな。ほんで、魔石に魔力を注ぐことで魔獣を作り出すんや」
「んん? 魔獣って生物じゃないの?」
「兵器やな」
(兵器……)
私はレアに焼いた肉にかぶりつくレオポルドに目をやる。
「アリス、自分が何か?」
「う、ううん……」
(魔獣って兵器なんだ)
鼠型魔獣を叩き落とした時の手ごたえ、豹型魔獣に組み付いた時の筋肉のうねり、そしてレオポルドに抱きあげられた時のぬくもりを思い出す。温かく、その獣毛の下からはしっかりとした生命が伝わってきた。
(どう見ても生物なんだけど)
「まぁ、そんなわけやから、核となる魔石さえ砕けば消滅すんねん」
「なるほど。あ、てことは!」
私は大変な事実に気付いてしまう。
「この国って、日常的に隣国から兵器で攻撃されてるってこと? え? 戦争中?」
パティは、私たちがかき集めた黒い石のかけらを天秤の片方の皿にあける。
「こいつぁ、鼠型魔獣だね」
もう片方の皿に分銅を乗せた店員は「2150カヘ」とぶっきらぼうに言った。
「あ~、やっぱ、そんくらいよなぁ」
パティは肩を落とし、深々とため息をつく。
店員から無造作に渡された紙幣二枚とコイン五枚を受け取ると、パティは店を後にした。
「何しとんねん、ついて来ぃ。ご飯にすんで」
手にした紙幣をヒラヒラとさせる彼女の背を、私たちは追った。
「無事に街に着けたことにカンパーイ!」
発泡酒の泡を口端につけ、パティは笑う。
『金の穂亭』という名のこの店は、RPGなどで見る酒場のイメージそのものだった。
カウンターの側には、
『鼠型魔獣退治 ユール平原 5000カヘ』
などの紙を貼り付けた掲示板が掲げられている。
木製ジョッキに口をつけると、フルーティーなスパークリングタイプの液体がのどを潤す。
お酒が飲めない私のために、パティが注文してくれたがこれだ。
ほんのりと甘い炭酸水のようで飲みやすい。
「ん~、どれ頼もか。アンタら、何食べたい?」
私は壁にかけられたメニューボードに目を向ける。
(なぜか文字は読めるけど……)
新鮮ゲグのロテム
大きめ野菜のフープット
厚切りアクテス
5種のウースムースプターサ
(わからーん! 野菜料理だろうなってことと、厚切りだろうなってことくらいしかわからーん! ゲグって何!?)
「アリス、どないしてん」
「メニュー見てもどんな料理か全然わからない。適当にあったかくてお腹に優しいものお願いします」
「あぁ、アンタの国にはない料理か。ほならウチと同じフープットでえぇか? そっちはどうすんの?」
「自分か? そうだな、肉を希望する」
「……まぁ、見たまんまやな」
パティが注文するとやや経って料理がテーブルに届く。
パティと私の前には野菜のスープ煮込みらしきもの、レオポルドの前にはスパイスをまぶした厚切りの肉が運ばれてきた。
「美味しい!」
フープットを口に運ぶと野菜の甘みと滋味が広がる。
(ハーブの風味が豊かな塩味のスープが、やわらかく煮込んだ野菜にしっかりとしみてる! 初めて食べるのにどこか懐かしい味。あっ、ポトフっぽい!)
レオポルドを見ると、口元を覆っていたネックゲイターを下げ、大きく切った肉をワイルドに嚙み千切っている。
その野性的な仕草に雄みを感じ、ドキドキしてしまった。
(『けもめん』でも食事シーンはあったけど、動かない立ち絵だったもんね。牙をむき出しにしているレオポルドの口元、セクシー)
ちなみにレオポルドは他の客に背を向ける形で座っているので、周囲に顔を見られずに済んでいる。
「しかし、料理の名前すら分からんようじゃ、アンタらこれから大変やなぁ」
「だよね」
この世界について右も左も分からない者一名、人型になりたてのもの一名。パティと別れたら、私たちは正直積むだろう。
今のうち、この世界の常識をある程度教えてもらっておいた方がいい。
「ねぇ、パティ。この国の名前って?」
「キハサカイ王国や」
「キハサカイ王国……」
「ちなみにここは西の街グランファな。王都の次に賑やかや言われてる」
「へー、活気があるんだ」
「ただ、ここは魔族の国と接してるのがちょいネックでな」
「魔族!?」
ファンタジックな存在が飛び出して来た。
この世界、獣人はいないのに、魔族は存在しているのか。解せぬ。
「あぁ。魔族の国ってのは通称や。正しくはラプロフロス帝国っちゅーねん」
「へぇ」
「自分はそこから来た」
「え?」
レオポルドが口の周りの脂をべろりと舐めとる。
「自分はラプロフロスで作られたので」
「作られた?」
「まぁ、この姿になる前は普通に魔獣やったし、そうなるわな」
「ちょっと待って? 魔獣はラプロフロスで作られるの? 作られるってどういうこと? 生まれたじゃなくて?」
「魔石あるやろ?」
「あのデカ鼠の額にあった?」
「デカ? ……まぁ、ええわ。魔族はウチらと違ごて魔力を持っとってな。ほんで、魔石に魔力を注ぐことで魔獣を作り出すんや」
「んん? 魔獣って生物じゃないの?」
「兵器やな」
(兵器……)
私はレアに焼いた肉にかぶりつくレオポルドに目をやる。
「アリス、自分が何か?」
「う、ううん……」
(魔獣って兵器なんだ)
鼠型魔獣を叩き落とした時の手ごたえ、豹型魔獣に組み付いた時の筋肉のうねり、そしてレオポルドに抱きあげられた時のぬくもりを思い出す。温かく、その獣毛の下からはしっかりとした生命が伝わってきた。
(どう見ても生物なんだけど)
「まぁ、そんなわけやから、核となる魔石さえ砕けば消滅すんねん」
「なるほど。あ、てことは!」
私は大変な事実に気付いてしまう。
「この国って、日常的に隣国から兵器で攻撃されてるってこと? え? 戦争中?」