「いらっしゃいませなの! 何名様で……」
「持ち帰りだ。オコノミヤキ5つ頼む!」
「かしこまりましたなのっ」
「全部で2500カヘや。アリス、5人前追加な!」
「わかった!」

 お祭り屋台の「はしまき」の要領で、私は固めに焼いたお好み焼きをくるくるとロール状にまとめる。
 ご存じない方のために説明すると、「はしまき」とは割りばしを軸にお好み焼きを巻きつけ、歩き食いをしやすくしたものだ。
 私は割りばしを使わない代わり、ロールしたお好み焼きを竹の皮に似た葉っぱで包んだ。

「レオポルド、7番のお客様にこの6人前持ってって!」
「うむ、わかった。6つで注文した7番はどこだ?」
「おー、(クバル)豹型魔獣(・フェテラン)(あん)ちゃん、こっちだこっち!」
「待たせた。熱いから気を付けろ」
「うっはぁ、これが噂のオコノミヤキかぁ!」
「まいどー! おおきに、また来てやー!」



「思っていたのと違うー!!」
 一日中厨房でお好み焼きを作り続けた私は、閉店後にテーブルに突っ伏す。
 ちなみにテーブルには、全く出番のなかった食材で作った塩牛丼とすまし汁、浅漬けが並んでいた。
「なんで!? どうして注文は持ち帰りのお好み焼きだけなの!? 私がやりたかったのはイケモフカフェだよ! 獣人ホストクラブだよ!! でも食事内容が内容だから、妥協して食事処にしたのに、これじゃ食事処ですらないー! 完全にお好み焼き屋だよー!」
 嘆く私に、パティはしれっと答える。
「あぁ。確かにこの店、オコノミヤキ屋さんって呼ばれとんなぁ」
「呼ばれてるし!! だいたいパティのその口調が、ハマり過ぎなのが悪い!」
「何言うとんねん」
 私は塩牛丼をかきこんでいるレオポルドに目を向ける。
「レオポルドのおしゃれ系の茶色エプロンも、だんだんそれっぽく見えて来たし~」
「えっ、自分がどうかしたのか?」
「頭にタオル巻いて、両手にコテを持った姿、めちゃくちゃ似合いそう~っ!」
「頭にタオルと、両手にコテ……」
 レオポルドは食事の手を止めると立ち上がり、厨房へと入って行く。
 そしてタオルを素早く頭に巻き付けると、フライ返しを両手に持った。
「アリス、こうだろうか?」
「あ゛ーっ! ヤバいくらい似合ってる!! もう! 最高!! レオポルドがモフケモお好み焼き屋店長だったら、毎日通い詰める!」
「いや、店長はアリスでなくては」
「レオ~。アリスの言うこと、いちいち真に受けんでえぇんやで~。戻ってきてごはん食べやぁ」
 レオポルドはこちらをちらりと見る。
 私が頷いて手招きすると、フライ返しを置き、タオルをはずしながらテーブルへと戻ってきた。

「でも、本当になんでぇ? ビックリするくらい、テイクアウトのお好み焼きの注文しか入らないんだけど」
サンドイッチ(ニシュドカ)にちょい飽きてた人らが、案外多かったんかもな」
「アリスのお好み焼きが売れるのは当然なの! 最高に美味しいから、ボクもいくらでも食べられちゃうの!」
「コリン~、ありがと~」
「まぁ、何でも売れ行きがえぇのは歓迎すべきことちゃう?」
「それはそうなんだけどぉ~」
 何かが物足りないのだ。情緒的なものが。

「ところでアリス。いいニュースと悪いニュースがあんねんけど、どっち聞きたい?」
「いいニュース」
「オコノミヤキの売り上げで、二階のベッド全部、新しい寝具をセットし終えた」
「えっ、本当に!?」
 お好み焼きの売り上げだけで、ベッド4台分のマットと布団と枕、全部買い揃えられたのか。
 ここ数日間で、どれだけお好み焼きを焼き続けたのかがよく分かる。
「じゃあ、悪いニュースは?」
「プレックが尽きた」
「プレ? ……ってなんだっけ」
「アリス、昆布のことなの!」
 コリンがすかさず翻訳をしてくれる。
 コリンのおかげで、ここの言葉を覚える必要性がないため、いつまでも学習できない。
 そんなことより。
「え? 昆布が、尽きた?」
「せや」
「じゃあ、明日は一日店を閉めて買い出しかな。そろそろ休日ほしかったし、ちょうどいいタイミングかもね」
 私の言葉に、コリンがふるふると首を横に振る。
「違うなの、アリス。昆布、この辺りでは売ってないなの」
「……ん? 売ってない?」
「アレ、海のモンやろ? この国、海に面してへんやん? せやからここらでは手に入りにくいんよな」
「……え? でも、前は普通に買えたよね? ここでも、マドカでも」
 コリンは少し得意げに胸を張る。
「マドカでは、海の方から来た行商人さんから買ったなの」
「そうだったっけ」
「そうなの、ボク覚えてるの。それでね、これまでグランファ(ここ)でも買えてたのは、他の人は誰も昆布買わなくて、店の奥に眠ってたからなの」
「え? 他の人は昆布買わないの? 売ってるのに?」
「なの。見た目が黒くてベロンとしてるから、みんな欲しがらないって、お店の人言ってたなの」
 あ、なんか元の世界でも似たようなことを聞いたことある。
 あれは海苔だったっけ?
 黒い紙みたいで食べる気にならない、って感じる海外の人もいるって。
「でね、あれを買ったのはボクたちだけなの。お店の人、売れないからもう仕入れてないって言ってたなの。あるのは在庫分だけだって言ってたなの」
「……本当に?」
「なの」
「……え? ちょっと待って?」