ペリドットの瞳に憂いが滲む。
「本当にそっくりなのだな、それは自分と」
「うん、だよね。私もレオポルドがその姿になった時、びっくりしちゃった」
「似姿に過ぎない自分だが、アリスに危険が及ばぬよう、今後も常に側に侍ろう」
(『似姿』……)
「本物が出来ぬことは、代わりに自分が全て担おう。アリスの悲しみを受けとめ、アリスの笑顔のために尽力しよう」
「レオポルド……」
「だから自分を頼れ。アリス、貴女を守るのは目の前にいるこのレオポルドだ。そして貴女の願いを叶えるのも。たとえ貴女の心にあるのが、そちらの『レオポルド』だとしても」
(本物……、代わり……)
私はレオポルドの肩へ頭をもたせかける。
「寂しいこと言わないでよ。最初から、私を魔獣から守ってくれたのはレオポルド、あなたでしょう?」
「アリス」
「このレオポルドのことは」
私は手の中のストラップを、彼に見せる。
「勿論好きだよ、最推しだし。今も心の支えで、元の世界と私を繋ぐ大切なお守り。だけど……」
ラバーストラップをポケットへ押し込む。
「私は、これまで自分を守ってくれたレオポルドがどちらのレオポルドか、ちゃんとわかってるよ」
「アリス」
レオポルドは愁いを帯びた視線を逸らした。
「……自分は、兵器だ。人間じゃない」
「そんなこと言ったら・・・・・・」
『けもめん』のレオポルドだって、JPEGやWABなんかのデータになってしまう。
「同じだよ、あっちのレオポルドも人間じゃなかった」
「そうなのか?」
「うん」
「人間じゃなくとも、良かったのか?」
「うん」
レオポルドの頬へそっと手を添え、やや強引にこちらを向かせる。
「似姿なんて、寂しいこと言わないでよ。私にとっては、あなたもかけがえのないレオポルドで、身代わりなんかじゃない。それにきっと今は……」
私はレオポルドの喉元をそっと指先でくすぐった。
「あなたの存在の方が、私の中では大きい」
「アリス……」
レオポルドの顔が迫る。額に暖かな吐息を感じると同時に、そこへ唇を落とされた。
(ふぁ、デコちゅー!?)
頬がカッと燃える。
「気を遣わせてしまった、すまない」
「イエ、ドウイタシマシテ」
激しく高鳴る心臓の音は、間違いなく彼の耳に届いているだろう。
レオポルドは優しく目を細め、続けて照れたように月へと視線を向ける。
うっすらと銀の斑紋の浮かぶ漆黒の横顔を、美しいと、愛しいと思った。
「あー、でもやっぱり、未練が全くないわけじゃないんだよね」
「ん?」
「エプロンを着たゲームのレオポルドと、カフェイベントを走るの、かなり楽しみにしてたから。そのために、今回は奮発して課金もしてたんだよね」
「カフェ……」
「こちらでは『金の穂亭』みたいな感じになるのかな。あ、そうだ。あの限定衣装にそっくりな服、パティが持ってないかな? 今なら懐もあったかいから買えるし、それをレオポルドに着てもらったら、この未練も断ち切れるかも! 白いシャツと茶色のエプロンに、黒いパンツ履いて……」
ちょっとした軽口のつもりだった。
だがレオポルドは、すっくと立ち上がる。私を両腕に抱いたまま、枝の上で。
「レオポルド?」
「それがアリスの望みなのだな」
「望み、って。うん」
レオポルドが。ひらりと闇の中へと身を躍らせた。
「~~~~っっ!?」
フリーフォールだ。
声も出せないまま、私はレオポルドの腕に抱かれ降下した。
「おかえ……生きとるか、アリス?」
意識を取り戻した時、私は宿の一室にいた。
「……かろうじて」
どうやらレオポルドの腕に抱かれたまま、気絶していたようだ。
「何があったんや。死人みたいになっとんで」
「アリス、顔色まっ白なの! ベッドに寝かせるなの!」
ふわりとした浮遊感に続き、背に柔らかい布団が触れる。
「……足が、ついた。地面だ……、良かった……」
「ほんま、何やねん。さっきみたいにジメッとはしとらんけど、カッサカサやな」
「パティ」
レオポルドが、ずいと彼女に迫る。
「なんや、怖い顔して」
「この体に合う、白いシャツと茶色のエプロンを持っていないか」
「……あるけど?」
「売ってくれ」
「て、言うてるけど。アリス、払ろてくれるん?」
パティが、まだ呆然自失となったままの私を見る。私がコクリと頷くと、彼女は荷物から指定の品を取り出した。
「今、手元にあるんはこれだけや。デザインが気に入らんかったらまた後日仕入れ……」
「感謝する」
言ったかと思うと、レオポルドは躊躇なくパーカーを脱ぎ捨てた。
「本当にそっくりなのだな、それは自分と」
「うん、だよね。私もレオポルドがその姿になった時、びっくりしちゃった」
「似姿に過ぎない自分だが、アリスに危険が及ばぬよう、今後も常に側に侍ろう」
(『似姿』……)
「本物が出来ぬことは、代わりに自分が全て担おう。アリスの悲しみを受けとめ、アリスの笑顔のために尽力しよう」
「レオポルド……」
「だから自分を頼れ。アリス、貴女を守るのは目の前にいるこのレオポルドだ。そして貴女の願いを叶えるのも。たとえ貴女の心にあるのが、そちらの『レオポルド』だとしても」
(本物……、代わり……)
私はレオポルドの肩へ頭をもたせかける。
「寂しいこと言わないでよ。最初から、私を魔獣から守ってくれたのはレオポルド、あなたでしょう?」
「アリス」
「このレオポルドのことは」
私は手の中のストラップを、彼に見せる。
「勿論好きだよ、最推しだし。今も心の支えで、元の世界と私を繋ぐ大切なお守り。だけど……」
ラバーストラップをポケットへ押し込む。
「私は、これまで自分を守ってくれたレオポルドがどちらのレオポルドか、ちゃんとわかってるよ」
「アリス」
レオポルドは愁いを帯びた視線を逸らした。
「……自分は、兵器だ。人間じゃない」
「そんなこと言ったら・・・・・・」
『けもめん』のレオポルドだって、JPEGやWABなんかのデータになってしまう。
「同じだよ、あっちのレオポルドも人間じゃなかった」
「そうなのか?」
「うん」
「人間じゃなくとも、良かったのか?」
「うん」
レオポルドの頬へそっと手を添え、やや強引にこちらを向かせる。
「似姿なんて、寂しいこと言わないでよ。私にとっては、あなたもかけがえのないレオポルドで、身代わりなんかじゃない。それにきっと今は……」
私はレオポルドの喉元をそっと指先でくすぐった。
「あなたの存在の方が、私の中では大きい」
「アリス……」
レオポルドの顔が迫る。額に暖かな吐息を感じると同時に、そこへ唇を落とされた。
(ふぁ、デコちゅー!?)
頬がカッと燃える。
「気を遣わせてしまった、すまない」
「イエ、ドウイタシマシテ」
激しく高鳴る心臓の音は、間違いなく彼の耳に届いているだろう。
レオポルドは優しく目を細め、続けて照れたように月へと視線を向ける。
うっすらと銀の斑紋の浮かぶ漆黒の横顔を、美しいと、愛しいと思った。
「あー、でもやっぱり、未練が全くないわけじゃないんだよね」
「ん?」
「エプロンを着たゲームのレオポルドと、カフェイベントを走るの、かなり楽しみにしてたから。そのために、今回は奮発して課金もしてたんだよね」
「カフェ……」
「こちらでは『金の穂亭』みたいな感じになるのかな。あ、そうだ。あの限定衣装にそっくりな服、パティが持ってないかな? 今なら懐もあったかいから買えるし、それをレオポルドに着てもらったら、この未練も断ち切れるかも! 白いシャツと茶色のエプロンに、黒いパンツ履いて……」
ちょっとした軽口のつもりだった。
だがレオポルドは、すっくと立ち上がる。私を両腕に抱いたまま、枝の上で。
「レオポルド?」
「それがアリスの望みなのだな」
「望み、って。うん」
レオポルドが。ひらりと闇の中へと身を躍らせた。
「~~~~っっ!?」
フリーフォールだ。
声も出せないまま、私はレオポルドの腕に抱かれ降下した。
「おかえ……生きとるか、アリス?」
意識を取り戻した時、私は宿の一室にいた。
「……かろうじて」
どうやらレオポルドの腕に抱かれたまま、気絶していたようだ。
「何があったんや。死人みたいになっとんで」
「アリス、顔色まっ白なの! ベッドに寝かせるなの!」
ふわりとした浮遊感に続き、背に柔らかい布団が触れる。
「……足が、ついた。地面だ……、良かった……」
「ほんま、何やねん。さっきみたいにジメッとはしとらんけど、カッサカサやな」
「パティ」
レオポルドが、ずいと彼女に迫る。
「なんや、怖い顔して」
「この体に合う、白いシャツと茶色のエプロンを持っていないか」
「……あるけど?」
「売ってくれ」
「て、言うてるけど。アリス、払ろてくれるん?」
パティが、まだ呆然自失となったままの私を見る。私がコクリと頷くと、彼女は荷物から指定の品を取り出した。
「今、手元にあるんはこれだけや。デザインが気に入らんかったらまた後日仕入れ……」
「感謝する」
言ったかと思うと、レオポルドは躊躇なくパーカーを脱ぎ捨てた。