「う、う~ん……」
コリンのおねだりはとても可愛い。正直断りにくい。
確かに二人だけなら、ベッドの広さや重さ的には問題ないと思われる。
が、一人を選ぶと、もう一人が機嫌を損ねるのは火を見るより明らかだ。
彼らは公平に扱わなくてはならない。メンバーが増えてから、私はこの点に割と気を配っていた。
ついでに言えば私自身、今夜はゆっくりと体を休めたかった。
「ね? アリスぅ、お願いなの」
「え~っと……」
ぐぁ~っ、可愛い!!
こんなに期待に満ちたキラキラした目でおねだりされると、断りづらい!!
それに私だって、モフモフを抱っこしながら眠ることはやぶさかでないのだ。
(仕方ない、ここは……)
「終わったぞ」
(え?)
耳に届いたビターボイス。
私とコリンは同時に声の主であるレオポルドを見る。
レオポルドが、クイとコリンの背後を指した。
「そこにいた鼠型魔獣の群れは全部倒した。あとは魔石を拾うだけだ」
言われてその方向に目をこらす。
確かに先ほどまで見えていた鼠型魔獣は、一匹たりともいなかった。
「え、早っ! レオポルド、すごい!」
「なっ……」
コリンがわなわなと口元を震わせる。
「ずるいなの! ずるいなの! まだ、勝負を始めてなかったの!」
「多く倒した方が、アリスとベッドを共にできるのだったか?」
不敵に笑うレオポルドに、コリンはプッと頬を膨らませる。
「知らないの! ナシなの! だってまだアリスからOKもらってないのなの!」
「そうか。なら今夜は皆それぞれのベッドで休むことになるな」
ぷんぷんとおかんむりなコリンを一瞥した後に、レオポルドが私を見てフッと目を細めた。
(あ……)
胸の奥が甘く疼く。
(多分、助けてくれたんだろうな。私がちょっと困ってるの察して)
「魔石を拾ってくる」
すたすたと歩き去るレオポルドの広い背中。
「待って、私も拾う!」
飛びつきたい気持ちを抑え、私は彼の後を追った。
「さて、魔石も拾い終えたし。そろそろこの辺りで作ろっか」
私たちは手ごろな大きさの石を探して組み上げ、簡単なかまどを作る。
「レオポルド、火を起こして。コリン、切るの手伝って」
「分かった」
「はいなの!」
実はこの場所へ来た一番の目的は、このキャンプ飯だった。
魔獣退治はそのついでと言ってもいい。
あの木賃宿と違い、グランファには自由に調理できる場所がない。
まさか、営業中の『金の穂亭』厨房を間借りするわけにもいかない。
となれば、屋外でキャンプ飯としゃれこむしか方法が思いつかなかったのだ。
(それにここなら、二人が他のお客さんから顔を隠しつつ食べる必要ないしね)
魔獣人二人が満足するだけの食事を『金の穂亭』で与えると、結構な出費になる。けれどここで私が手作りすることで、食費が抑えられると言うのも大きかった。
私の人件費は?なんてことも少しは考えたけど、ケモ達も手伝ってくれているから、そこはお互い様だろう。
鍋に水と昆布を入れ、だしをとる。沸騰したら昆布を取り出し、キノコ類と鶏肉を投入。
ちなみにこの世界で昆布はプレック、鶏肉はニキーチェというらしいが、ややこしいので以降は私が認識している言葉で語ることにする。
キノコ類と鶏肉のエキスがしっかりと加わったタイミングで塩を加え、野菜類を投入。この世界の白菜的なものは、まるで広辞苑や日めくりカレンダーの様な形だった。一枚ずつページを破るようにして葉を毟るのは、新鮮で面白かった。
「はい、シンプル鶏塩鍋の完成!」
この世界には鶏ガラスープの顆粒も、調整された鍋つゆもない。
ゆえに水炊きに塩を足したような簡単鍋だけど。
「うん、うまい……」
「はわぁあ! やっぱりアリスのご飯は最高なの!」
「あぁ、本当にそうだな」
幸せそうに微笑みながら食事をする二人を見ると、私の心がほかほかしてくる。
「アリス、無理を言ってすまなかった」
「え? 無理って?」
「本当は、『金の穂亭』で食事をしたかったのではないか?」
「あはは、少しね。でも、節約になるし二人が喜んでくれるなら私も嬉しいかな」
「そうか。……ありがとう」
(きゃあぁあ~っ!)
レオポルドの柔らかな微笑みに、胸の奥は甘く弾む。
(精悍で逞しい旦那様に、可愛い息子がいるみたい! 私にとっての理想的な家族像!)
幸せに満たされながら、私も料理を口に運ぶ。
(うん、美味しい!)
シンプルではあるが、懐かしい日本の味がした。
(鶏肉、噛むたびに肉汁がじゅわじゅわとにじみ出てくる!)
(そろそろ具材も少なくなってきたな)
〆の雑炊に入るため、別に作っておいたご飯を鍋へ投入した時だった。
「あれ? もしかしてあんたら……」
(えっ?)
コリンのおねだりはとても可愛い。正直断りにくい。
確かに二人だけなら、ベッドの広さや重さ的には問題ないと思われる。
が、一人を選ぶと、もう一人が機嫌を損ねるのは火を見るより明らかだ。
彼らは公平に扱わなくてはならない。メンバーが増えてから、私はこの点に割と気を配っていた。
ついでに言えば私自身、今夜はゆっくりと体を休めたかった。
「ね? アリスぅ、お願いなの」
「え~っと……」
ぐぁ~っ、可愛い!!
こんなに期待に満ちたキラキラした目でおねだりされると、断りづらい!!
それに私だって、モフモフを抱っこしながら眠ることはやぶさかでないのだ。
(仕方ない、ここは……)
「終わったぞ」
(え?)
耳に届いたビターボイス。
私とコリンは同時に声の主であるレオポルドを見る。
レオポルドが、クイとコリンの背後を指した。
「そこにいた鼠型魔獣の群れは全部倒した。あとは魔石を拾うだけだ」
言われてその方向に目をこらす。
確かに先ほどまで見えていた鼠型魔獣は、一匹たりともいなかった。
「え、早っ! レオポルド、すごい!」
「なっ……」
コリンがわなわなと口元を震わせる。
「ずるいなの! ずるいなの! まだ、勝負を始めてなかったの!」
「多く倒した方が、アリスとベッドを共にできるのだったか?」
不敵に笑うレオポルドに、コリンはプッと頬を膨らませる。
「知らないの! ナシなの! だってまだアリスからOKもらってないのなの!」
「そうか。なら今夜は皆それぞれのベッドで休むことになるな」
ぷんぷんとおかんむりなコリンを一瞥した後に、レオポルドが私を見てフッと目を細めた。
(あ……)
胸の奥が甘く疼く。
(多分、助けてくれたんだろうな。私がちょっと困ってるの察して)
「魔石を拾ってくる」
すたすたと歩き去るレオポルドの広い背中。
「待って、私も拾う!」
飛びつきたい気持ちを抑え、私は彼の後を追った。
「さて、魔石も拾い終えたし。そろそろこの辺りで作ろっか」
私たちは手ごろな大きさの石を探して組み上げ、簡単なかまどを作る。
「レオポルド、火を起こして。コリン、切るの手伝って」
「分かった」
「はいなの!」
実はこの場所へ来た一番の目的は、このキャンプ飯だった。
魔獣退治はそのついでと言ってもいい。
あの木賃宿と違い、グランファには自由に調理できる場所がない。
まさか、営業中の『金の穂亭』厨房を間借りするわけにもいかない。
となれば、屋外でキャンプ飯としゃれこむしか方法が思いつかなかったのだ。
(それにここなら、二人が他のお客さんから顔を隠しつつ食べる必要ないしね)
魔獣人二人が満足するだけの食事を『金の穂亭』で与えると、結構な出費になる。けれどここで私が手作りすることで、食費が抑えられると言うのも大きかった。
私の人件費は?なんてことも少しは考えたけど、ケモ達も手伝ってくれているから、そこはお互い様だろう。
鍋に水と昆布を入れ、だしをとる。沸騰したら昆布を取り出し、キノコ類と鶏肉を投入。
ちなみにこの世界で昆布はプレック、鶏肉はニキーチェというらしいが、ややこしいので以降は私が認識している言葉で語ることにする。
キノコ類と鶏肉のエキスがしっかりと加わったタイミングで塩を加え、野菜類を投入。この世界の白菜的なものは、まるで広辞苑や日めくりカレンダーの様な形だった。一枚ずつページを破るようにして葉を毟るのは、新鮮で面白かった。
「はい、シンプル鶏塩鍋の完成!」
この世界には鶏ガラスープの顆粒も、調整された鍋つゆもない。
ゆえに水炊きに塩を足したような簡単鍋だけど。
「うん、うまい……」
「はわぁあ! やっぱりアリスのご飯は最高なの!」
「あぁ、本当にそうだな」
幸せそうに微笑みながら食事をする二人を見ると、私の心がほかほかしてくる。
「アリス、無理を言ってすまなかった」
「え? 無理って?」
「本当は、『金の穂亭』で食事をしたかったのではないか?」
「あはは、少しね。でも、節約になるし二人が喜んでくれるなら私も嬉しいかな」
「そうか。……ありがとう」
(きゃあぁあ~っ!)
レオポルドの柔らかな微笑みに、胸の奥は甘く弾む。
(精悍で逞しい旦那様に、可愛い息子がいるみたい! 私にとっての理想的な家族像!)
幸せに満たされながら、私も料理を口に運ぶ。
(うん、美味しい!)
シンプルではあるが、懐かしい日本の味がした。
(鶏肉、噛むたびに肉汁がじゅわじゅわとにじみ出てくる!)
(そろそろ具材も少なくなってきたな)
〆の雑炊に入るため、別に作っておいたご飯を鍋へ投入した時だった。
「あれ? もしかしてあんたら……」
(えっ?)