――翌朝。
「今日の仕事や」
パティは掲示板に貼ってあった依頼の紙を、こちらへ差し出す。
「これまででこの辺の地理は大体把握できたやろ。今日は二人で行ってき」
「パティは?」
「広場で自分の仕事してくるわ。アンタらに付き合って歩き回っても、1カヘにもならんからな。頑張って、早よ借金返しや」
「……」
私たちが逃げると思わないのだろうか?
それとも、一緒にいてもマイナスになるばかりだから、手放したほうがいいと考え始めたのだろうか。
「アリス、行くぞ」
心なしか、いつもより少し柔らかいレオポルドの声。
「うんっ」
目的は、魔獣の討伐だけど。
(二人きり!)
心が弾み、足取りは自然と軽くなった。
(借金を減らすためには、収入を増やすか、支出を減らすか……)
依頼の場所へ向かいながら、私は手元の依頼書に目を落とす。
(4000に3000に5000、合計1万2000カヘ……。全部クリアしても普段より少ないな。これでいつも通りご飯を食べれば、また借金が増える)
「アリス、標的を見つけたぞ」
レオポルドの声に我に返る。背の高い草の間から、鼠型魔獣の茶色い毛がチラチラと見えていた。
「レオポルド、お願い」
「承知した」
レオポルドは地を蹴り、瞬時にターゲットへ距離を詰める。
鼠型魔獣が彼に気付き、警戒するような声を上げた時には、その爪が相手に届いていた。
(レオポルドは魔獣退治の要だから、弱体化させるわけにはいかない。彼にはちゃんと食べさせなきゃ)
となれば削るのは自分の食事になるが、それでも限度はある。この世界、水もそこそこいい値段がするので削るのが難しいのだ。
(腰回り、ちょっと緩くなったな)
食事の内容のためか量を控えたせいか、明らかにウエストサイズが落ちている。
(こんな形でダイエットに成功して、嬉しいやら悲しいやら)
「アリス、全て潰したぞ」
レオポルドが草むらの中で手を挙げている。
「お疲れ様!」
私は魔石回収のため、彼の元へ駆け寄った。
「早く終わったね」
「そうだな」
ムーンストーンにも似た、鴉型魔獣の魔石を拾い集め終え、私たちは立ち上がる。
今日請負った三つの依頼を完了させたものの、まだ日は高い。
「宿までゆっくり歩いて帰っても、ちょっと早いよね」
「なら、少し足を延ばしてみないか?」
(え?)
「天気はいい、風も心地いい。たまには目的もなく歩いてみるのも楽しいと思う」
それって……、デート!?
待って待って、今、私デートに誘われた!?
レオポルドにデートに誘われた!?
「アリスが気乗りしないなら、無理にとは……」
「行く! 行きます! 行かせてください!!」
「アリス?」
私はレオポルドの前に回り込み、彼を見上げる。
人目を避けるための大きめフードは彼の額の辺りまで覆い、そこにあるペリドット色の石は見えない。そのため「けもめん」のレオポルドそのままの姿に見えた。
ゲームのレオポルドには大勢のファンがいるけれど、目の前にいる彼は、私のためだけに出現したレオポルド。私だけを見てくれるレオポルドなのだ。
そう思うと、私の胸は喜びにざわめく。
「レオポルドとお散歩、嬉しい!」
「アリス……」
レオポルドはネックゲイターに指をかけると引き下ろす。その口元はやわらかに微笑んでいた。
「自分も、アリスと共に過ごせる時間を、大切に思っている」
オァーーーッ!!!
微笑むレオポルドのご尊顔の周りに、キラキラと光が飛んでいるのが見える!
なんだこれ、恋愛イベント発生か!?
確実に心の臓を止めに来やがりましたよ、ワッショーイ!
世界の全てにありがとう!!
サクサクと下草を踏みしめながら、私たちは森の中を進む。
「木漏れ日がきれいだね」
「そうだな」
「レオポルドと出会ったのも、こんな風に樹の生い茂ってる場所だったね」
「あぁ」
レオポルドは上を見上げ、眩しそうに目を細める。
そして、ふいに私の手を取った。
「へっ、何?」
「ここは獣道だ、足場が悪い。アリスが転ばぬようにな」
「転ばないよ、とぅわっ!?」
言った先から、石と石の間のくぼみに足を取られ躓く。レオポルドは私の手をぐいと引くと、吊り上げるようにして平らな場所へと下ろしてくれた。
「あ、ありがとう」
「構わない」
レオポルドは私の手を優しく握り直す。
「あはは、恥ずかしいな。転ばないって言ったばかりなのに」
「恥じる必要はない。自分が見てきた限り、人とはそう言うものだ」
(人……)
「今日の仕事や」
パティは掲示板に貼ってあった依頼の紙を、こちらへ差し出す。
「これまででこの辺の地理は大体把握できたやろ。今日は二人で行ってき」
「パティは?」
「広場で自分の仕事してくるわ。アンタらに付き合って歩き回っても、1カヘにもならんからな。頑張って、早よ借金返しや」
「……」
私たちが逃げると思わないのだろうか?
それとも、一緒にいてもマイナスになるばかりだから、手放したほうがいいと考え始めたのだろうか。
「アリス、行くぞ」
心なしか、いつもより少し柔らかいレオポルドの声。
「うんっ」
目的は、魔獣の討伐だけど。
(二人きり!)
心が弾み、足取りは自然と軽くなった。
(借金を減らすためには、収入を増やすか、支出を減らすか……)
依頼の場所へ向かいながら、私は手元の依頼書に目を落とす。
(4000に3000に5000、合計1万2000カヘ……。全部クリアしても普段より少ないな。これでいつも通りご飯を食べれば、また借金が増える)
「アリス、標的を見つけたぞ」
レオポルドの声に我に返る。背の高い草の間から、鼠型魔獣の茶色い毛がチラチラと見えていた。
「レオポルド、お願い」
「承知した」
レオポルドは地を蹴り、瞬時にターゲットへ距離を詰める。
鼠型魔獣が彼に気付き、警戒するような声を上げた時には、その爪が相手に届いていた。
(レオポルドは魔獣退治の要だから、弱体化させるわけにはいかない。彼にはちゃんと食べさせなきゃ)
となれば削るのは自分の食事になるが、それでも限度はある。この世界、水もそこそこいい値段がするので削るのが難しいのだ。
(腰回り、ちょっと緩くなったな)
食事の内容のためか量を控えたせいか、明らかにウエストサイズが落ちている。
(こんな形でダイエットに成功して、嬉しいやら悲しいやら)
「アリス、全て潰したぞ」
レオポルドが草むらの中で手を挙げている。
「お疲れ様!」
私は魔石回収のため、彼の元へ駆け寄った。
「早く終わったね」
「そうだな」
ムーンストーンにも似た、鴉型魔獣の魔石を拾い集め終え、私たちは立ち上がる。
今日請負った三つの依頼を完了させたものの、まだ日は高い。
「宿までゆっくり歩いて帰っても、ちょっと早いよね」
「なら、少し足を延ばしてみないか?」
(え?)
「天気はいい、風も心地いい。たまには目的もなく歩いてみるのも楽しいと思う」
それって……、デート!?
待って待って、今、私デートに誘われた!?
レオポルドにデートに誘われた!?
「アリスが気乗りしないなら、無理にとは……」
「行く! 行きます! 行かせてください!!」
「アリス?」
私はレオポルドの前に回り込み、彼を見上げる。
人目を避けるための大きめフードは彼の額の辺りまで覆い、そこにあるペリドット色の石は見えない。そのため「けもめん」のレオポルドそのままの姿に見えた。
ゲームのレオポルドには大勢のファンがいるけれど、目の前にいる彼は、私のためだけに出現したレオポルド。私だけを見てくれるレオポルドなのだ。
そう思うと、私の胸は喜びにざわめく。
「レオポルドとお散歩、嬉しい!」
「アリス……」
レオポルドはネックゲイターに指をかけると引き下ろす。その口元はやわらかに微笑んでいた。
「自分も、アリスと共に過ごせる時間を、大切に思っている」
オァーーーッ!!!
微笑むレオポルドのご尊顔の周りに、キラキラと光が飛んでいるのが見える!
なんだこれ、恋愛イベント発生か!?
確実に心の臓を止めに来やがりましたよ、ワッショーイ!
世界の全てにありがとう!!
サクサクと下草を踏みしめながら、私たちは森の中を進む。
「木漏れ日がきれいだね」
「そうだな」
「レオポルドと出会ったのも、こんな風に樹の生い茂ってる場所だったね」
「あぁ」
レオポルドは上を見上げ、眩しそうに目を細める。
そして、ふいに私の手を取った。
「へっ、何?」
「ここは獣道だ、足場が悪い。アリスが転ばぬようにな」
「転ばないよ、とぅわっ!?」
言った先から、石と石の間のくぼみに足を取られ躓く。レオポルドは私の手をぐいと引くと、吊り上げるようにして平らな場所へと下ろしてくれた。
「あ、ありがとう」
「構わない」
レオポルドは私の手を優しく握り直す。
「あはは、恥ずかしいな。転ばないって言ったばかりなのに」
「恥じる必要はない。自分が見てきた限り、人とはそう言うものだ」
(人……)