お風呂から現れたのは、




「あおいーー!お風呂入っちゃいなさい!」



リビングから私を呼んだのは...............



私、日波あおい(ひなみあおい)のお母さん。



返事をするのが、
ほんの少しめんどくさいなぁ。



..................なんて思う年頃。




「............はーい!もうちょいしたら行く!」



でも、ちゃんと、
返事をしてあげる私は偉いでしょ?



お母さんに、上から目線のようなこと。



思っちゃうのは、悪いとは思う............



だけど、これが現実で。



まぁ、私が、
こんな捻くれた性格になった。



なんて知ったら、
あいつは、スイはどう思うのかな...............?





辛くなるから、
思い出さないようにしていたのは。



私が物心ついた頃からの幼なじみ。



谷坂スイ(たにさかすい)のこと。



私と同い年なのに、
昔から、めちゃくちゃ頭が良くて。



同じ高校に入ったけど、
アイツは、〝新入生代表挨拶〟



それを務めるほど頭が良かった。



だから、今。



私が、春から大学生になれたのもスイのおかげ。



昔から、
スイには感謝しても仕切れないんだよ。



スイがいたら、
私は今でも水に頼りまくってたと思う。



だけど..............................



──────もう、スイは私の傍にはいない。





スイは、
大学進学を控えた2月。



アルバイトをしていた市民プールで............



溺れた子供を助けたのと引き替えに。



──────スイは帰らぬ人となった。



スイは昔から、
勉強だけじゃなくって。



運動神経も抜群で。



溺れた子供を助けるぐらい朝飯前って感じで。



そんなことで、
溺れるようなやつじゃなかったのに。



スイがそんなへまするなんて信じられなくて。



ずっと、ずっと、泣き続けた。



それでも毎日、涙は止まってくれなくて。



泣きながら学校に行っては、
周りに心配をかけるぐらいだった。



でも.................................



ある日を境に、
私は泣けなくなってしまった。





キッカケは...............大学に入学する前日。



お風呂に入っているときに。



いつものように、ものすごく泣いた。



泣いて、泣いて、泣きまくってしまった。



その日、いつもと違ったのは..................



私の涙がお風呂場の水に、
吸い込まれるように消えていって。



その日。



──────私の涙は枯れた。



スイのこと、思い出さないわけじゃないし。



もちろん、悲しくもなるけど。



でも、涙が出なくなった..................



毎日、毎日泣き過ぎて、
単純に、涙が枯れただけなのか?



はたまた、
スイが『泣くなよ』って言っているのか?



私から涙がなくなった理由は不明だ。





「............お風呂、入ろう、」



お風呂が、
危険な場所ではないことぐらい分かる。



でも、どうしても........................



スイのこと以来、
ほんの少し怖いと思っている私がいて。



長風呂なんて避けていたのに...............



「あ、あおい。
最近、風邪流行ってるみたいだから、
ちゃんと湯船につかって温まるのよ」



大学生になって半年。



お母さんも、
私が怖がっていることは知っているのに。



言われたのはまさかの言葉で。



「.....................、」



返事をする気にもなれなくて。



お母さんを無視するように、
お風呂がある部屋へと向かった。





「..................、」



いつものように、
服を脱いで、お風呂に入ると。



慣れた手つきで水道を回した。



今でも、常に思う。



何をしてても、常に思う。



スイは、
どうして私を置いて行ってしまったの?



私はスイがいないと、
スイが見守っててくれないと何も出来ないのに。



どうして...........................っ?



そればかり考えて、
ぐるぐる、もやもやしてしまう。



スイのことは、
〝事故〟だったって。



頭では分かっているハズなのに。



どうしても、
心と体が一致しなくて。



泣きたいのに、
涙が出なくて苦しくなったとき..................