「やっぱり俺は雪穂ちゃんが勝つと思うね。1番可愛いし。去年のミス予想を的中させた俺の超直観がそう告げている」
「いや、去年のは予想じゃなくて、推しに勝ってほしいっていう願望だろ」
スタッフルームに俺たちミスコン実行委員会の幹部の笑い声が響く。
「バレましたか」
「でも、本当に推しに猛アタックして付き合えちゃうなんて鈴木、お前いったい前世でどんな徳積んだんだよ」
「お前らもせいぜい徳積めよ、というわけで俺はデートなのでバックレまーす」
「はいはい、俺が委員長として責任持って控室の忘れ物チェックしてきまーす」
軽口を叩き、ミスコン最終候補者たちの控室に向かう。美好は先ほどスタッフルームに挨拶に来たし、廊下からは二年生たちの声がしたので帰ったのだと思うが、雪穂も帰ったのだろうか?
ミスコンに雪穂がエントリーした時は驚いた。雪穂はそういうキャラじゃない。雪穂は自分が可愛いことになんて無自覚だと思っていた。人前に出るのだって苦手そうなのに大丈夫かと心配になる。
控室にまだ雪穂がいたら一緒に帰ろう。もしいなかったら、今度話をしてみよう。実行委員長でよかった。ミスコンと無関係の人間がミスコンのことをごたごた言うのは明らかな過干渉だが、実行委員長としてなら自然に話ができる。
鈴木に誘われて入ったミスコン実行委員会、綺麗な女性とお近づきになることばかり考えている仲間のせいで、俺ばかり仕事をしているような気がするが雪穂と過ごす時間が増えたので案外役得なのかもしれない。
そんなことを考えると控室のドアを開けると、雪穂がお腹を押さえて倒れていた。血の気が引いた。
「雪穂? おい、雪穂! 大丈夫か?」
雪穂からの返事はない。苦しそうに息をしていて、声も出せずにいる。頭が真っ白になった。助けないといけない。
幸いにもキャンパスのすぐ隣には大学病院があるので、俺は雪穂を背負うと全速力で病院に駆け込んだ。
医師に雪穂を託した後、わざわざ救急車を呼べばよかったと気付いた。そんなことにも気づかないほどに気が動転していた。幸いにも感染症や腫瘍の類ではなかった。
おそらくストレス性の胃炎だと診断され、雪穂は一日検査入院をすることになった。俺の懸念は的中したらしい。
ミスコンを盛り上げるべき立場上「出るな」とは言えないが、雪穂がミスコンに出るのは反対だった。人前に出て緊張しないかとか、ミスコンに出るような気の強い女子と雪穂がうまくやっていけるかとか、雪穂の美しさに俺以外の誰かが気づいてしまわないかとか。
病室を訪れる。小声で雪穂を呼んでも反応はない。静かに眠っている。当然のように顔色はあまりよくない。
「なあ、雪穂。なんで倒れるまで無理したんだよ。なんで俺のこと頼ってくれないんだよ」
枕元の椅子に腰かけてぼやく。起きる様子はない。こんなことを言う筋合いがないことは分かっている。俺は雪穂の彼氏ではなく、ただの友達なのだから。
「好きだよ、雪穂」
雪穂が眠っている今だから言える告白。俺の声に雪穂は反応しない。長い睫毛はピクリとも動く様子がない。雪穂は体調が悪い時の寝顔でさえも美しく、心臓が高鳴った。
いけないことだとは分かっていたが、その赤い唇に俺の唇が吸い寄せられていく。どうか気づかれませんようにと願いながら、眠っている雪穂にそっとキスをした。雪穂の唇は柔らかかった。
唇を離した後、心なしか雪穂の張りつめた寝顔が緩んだように見えた。顔色も少し良く見える。
「んん……」
それからほんの少しして、目をこすりながら雪穂が目覚めた。
「あれ、ここは? ……って拓海君?」
雪穂が驚いている。
「雪穂が控室で倒れてたから病院に運んだんだよ。腹、まだ痛い?」
「えっ、拓海君が? ありがとう。迷惑かけてごめんね。体調は良くなったよ。なんか、すごくいい夢を見てた気がするの」
雪穂はそう言った後、顔を赤らめた。体調が良くなったことにはひとまずほっとしたが、根本的には何も解決していない。
「誰かに何かされたのかよ」
単刀直入に聞くと、雪穂は黙り込んでしまう。おそらく、肯定の意だろう。
「誰? 美好? それか2年の子? 誰か教えてくれれば俺の方からやめるように言うけど」
「違うの、大丈夫だから!」
「大丈夫じゃないから倒れたんだろ?」
雪穂は慌てていたが、俺に図星をつかれまた黙り込む。
「雪穂が辛そうにしてるの見るの、俺も辛いんだよね。実行委員長云々じゃなくて、雪穂の友達としてさ」
友達と言う言葉を口にするとズキリと胸が痛んだ。
「あんまり大事にはしたくない……迷惑かけたくない」
雪穂はこういう性格だ。自分のことよりも他人のことばかり考えて損をする。しかし、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「辛かったらさ、無理しなくてもいいよ。本当は降りたいんだろ?」
「でも、今更辞退なんてしたら拓海君にも実行委員会の人にも迷惑でしょ?」
この一言だけで分かる。雪穂はミスコンを続けたいと本心では思っていないし、穏便にやめられるのならやめたいのだろう。薄々感づいてはいたが、雪穂には目立ちたいだとか自分の美しさを他人に見せつけたいだとかそういう感情がないのだ。
「それくらいどうとでもなるっつーの。ちょっとは俺のこと信頼しろよ。そもそも、なんで雪穂はミスコン立候補したんだよ? いや、責めてるわけじゃないんだけど」
少しきつい言い方になってしまったかもと思い、フォローしながら聞いてみた。雪穂は俯いてしまった。
「だって、拓海君がミスキャンパスと付き合いたいって言うから……」
そう言うなり雪穂が泣きだす。そんなことを雪穂に言った覚えはない。
「は?」
「去年、鈴木君とそう話してるの聞いちゃったの」
去年というと、鈴木が去年のミスキャンパスと付き合い始めた頃だ。必修授業の教室で実行委員メンバーで集まってギャーギャー騒いだ記憶がある。
――は? お前ミスキャンパス落としたの? うらやましいな、おい。
そんな感じのことを言った気がする。周りもみんなそう言っていたし、「俺はうらやましくない」なんて言ったら逆にダサいと思ったから。たまたま叩いた軽口を偶然雪穂に聞かれていたようだ。
最悪だ。つまり、雪穂は俺のせいで勘違いをしてミスコンに出て傷つけられた。全部俺が悪い。情けなさと申し訳なさで溜息が出る。同時に雪穂の素直さがますます心配になる。
「あんな男同士の冗談、真に受けるんじゃねーよ。友達がミスキャンパスと付き合ってたら、羨ましい俺もミスキャンパスの彼女欲しいくらいリップサービスで言うだろ」
「でも、ミスキャンパスと付き合いたいから主催団体に入って実行委員長にまでなったんじゃないの?」
「それも、1年の時に鈴木が誘って来たんだよ。鈴木のほかにも仲いいやつみんな入るっていうから俺も入った。みんなどうやったら美人と付き合えるかしか考えてなくてロクに仕事しないから消去法で俺が実行委員長」
大慌てで弁解した後、ふと冷静になる。もしかして俺は自分に都合のいい夢を見ているのかもしれないと思ったが、確認せずにはいられない。
「あのさあ、俺の勘違いじゃなければ、雪穂は俺と付き合いたいからミスコンに出たってことでいい?」
雪穂の目をじっと見つめると、雪穂は顔を真っ赤にして頷いた。
「ごめんなさい。ストーカーみたいなことして。友達もいい線行くから出なよって言ってくれたし、もし何かの間違いでミスキャンパスになれたら拓海君と付き合えるかもって思って……」
雪穂が言い終わらないうちに雪穂を強く抱きしめる。俺だってかなり際どいことを言ったし、寝ている時にキスまでしたのに、雪穂は鈍感すぎる。
「好きだよ、雪穂」
やっと雪穂を堂々と守れる。雪穂を俺だけのものにできる。
「ミスコン、辞退しろよ。他の奴の前で可愛い格好なんてするなよ。俺だけの雪穂でいろよ」
「えっ、そんなことしたら拓海君の立場が悪くなっちゃうよ。それに、今更ミスコン辞退してもいろいろ言われそうだし……」
俺としてはかなり攻めた告白をしたつもりなのに、雪穂は俺や周囲への迷惑ばかり心配している。いや、それとも迷惑をかけることで美好たちに責められることを恐れているのだろうか。それならば、俺のすることは決まっている。
「だったら、今年のミスコンは中止だ! 実行委員長もやめる。俺1人が矢面に立つよ。俺は雪穂が隣で笑ってくれてればそれでいいからさ」
雪穂の体を離す。カバンの中からミスコン当日のステージ使用許可証や重要書類の数々を取り出した。こんなものクソくらえだ。雪穂を地獄に縛り付けている呪いの紙を全部ビリビリに破いてやった。それらを紙吹雪のように天井めがけてばらまいた。白い紙屑が雪のように舞う。
「なあ、一緒に逃げようぜ。プチ駆け落ちみたいでロマンチックじゃね?」
そっと右手を差し出す。内気な雪穂が俺の手をとる。その手を強く握りしめる。二度とこの手を離さない。
「うん、拓海君と一緒なら」
やっと手に入れた世界で1番美しい宝石。でも、この宝石は人に見せびらかすためのものじゃない。この輝きも手の温もりも全部俺だけが知っていればいい。
今度こそ誰にも傷つけさせない。全てを捨ててでも、命に代えてでも雪穂を一生守ると固く心に誓った。
「いや、去年のは予想じゃなくて、推しに勝ってほしいっていう願望だろ」
スタッフルームに俺たちミスコン実行委員会の幹部の笑い声が響く。
「バレましたか」
「でも、本当に推しに猛アタックして付き合えちゃうなんて鈴木、お前いったい前世でどんな徳積んだんだよ」
「お前らもせいぜい徳積めよ、というわけで俺はデートなのでバックレまーす」
「はいはい、俺が委員長として責任持って控室の忘れ物チェックしてきまーす」
軽口を叩き、ミスコン最終候補者たちの控室に向かう。美好は先ほどスタッフルームに挨拶に来たし、廊下からは二年生たちの声がしたので帰ったのだと思うが、雪穂も帰ったのだろうか?
ミスコンに雪穂がエントリーした時は驚いた。雪穂はそういうキャラじゃない。雪穂は自分が可愛いことになんて無自覚だと思っていた。人前に出るのだって苦手そうなのに大丈夫かと心配になる。
控室にまだ雪穂がいたら一緒に帰ろう。もしいなかったら、今度話をしてみよう。実行委員長でよかった。ミスコンと無関係の人間がミスコンのことをごたごた言うのは明らかな過干渉だが、実行委員長としてなら自然に話ができる。
鈴木に誘われて入ったミスコン実行委員会、綺麗な女性とお近づきになることばかり考えている仲間のせいで、俺ばかり仕事をしているような気がするが雪穂と過ごす時間が増えたので案外役得なのかもしれない。
そんなことを考えると控室のドアを開けると、雪穂がお腹を押さえて倒れていた。血の気が引いた。
「雪穂? おい、雪穂! 大丈夫か?」
雪穂からの返事はない。苦しそうに息をしていて、声も出せずにいる。頭が真っ白になった。助けないといけない。
幸いにもキャンパスのすぐ隣には大学病院があるので、俺は雪穂を背負うと全速力で病院に駆け込んだ。
医師に雪穂を託した後、わざわざ救急車を呼べばよかったと気付いた。そんなことにも気づかないほどに気が動転していた。幸いにも感染症や腫瘍の類ではなかった。
おそらくストレス性の胃炎だと診断され、雪穂は一日検査入院をすることになった。俺の懸念は的中したらしい。
ミスコンを盛り上げるべき立場上「出るな」とは言えないが、雪穂がミスコンに出るのは反対だった。人前に出て緊張しないかとか、ミスコンに出るような気の強い女子と雪穂がうまくやっていけるかとか、雪穂の美しさに俺以外の誰かが気づいてしまわないかとか。
病室を訪れる。小声で雪穂を呼んでも反応はない。静かに眠っている。当然のように顔色はあまりよくない。
「なあ、雪穂。なんで倒れるまで無理したんだよ。なんで俺のこと頼ってくれないんだよ」
枕元の椅子に腰かけてぼやく。起きる様子はない。こんなことを言う筋合いがないことは分かっている。俺は雪穂の彼氏ではなく、ただの友達なのだから。
「好きだよ、雪穂」
雪穂が眠っている今だから言える告白。俺の声に雪穂は反応しない。長い睫毛はピクリとも動く様子がない。雪穂は体調が悪い時の寝顔でさえも美しく、心臓が高鳴った。
いけないことだとは分かっていたが、その赤い唇に俺の唇が吸い寄せられていく。どうか気づかれませんようにと願いながら、眠っている雪穂にそっとキスをした。雪穂の唇は柔らかかった。
唇を離した後、心なしか雪穂の張りつめた寝顔が緩んだように見えた。顔色も少し良く見える。
「んん……」
それからほんの少しして、目をこすりながら雪穂が目覚めた。
「あれ、ここは? ……って拓海君?」
雪穂が驚いている。
「雪穂が控室で倒れてたから病院に運んだんだよ。腹、まだ痛い?」
「えっ、拓海君が? ありがとう。迷惑かけてごめんね。体調は良くなったよ。なんか、すごくいい夢を見てた気がするの」
雪穂はそう言った後、顔を赤らめた。体調が良くなったことにはひとまずほっとしたが、根本的には何も解決していない。
「誰かに何かされたのかよ」
単刀直入に聞くと、雪穂は黙り込んでしまう。おそらく、肯定の意だろう。
「誰? 美好? それか2年の子? 誰か教えてくれれば俺の方からやめるように言うけど」
「違うの、大丈夫だから!」
「大丈夫じゃないから倒れたんだろ?」
雪穂は慌てていたが、俺に図星をつかれまた黙り込む。
「雪穂が辛そうにしてるの見るの、俺も辛いんだよね。実行委員長云々じゃなくて、雪穂の友達としてさ」
友達と言う言葉を口にするとズキリと胸が痛んだ。
「あんまり大事にはしたくない……迷惑かけたくない」
雪穂はこういう性格だ。自分のことよりも他人のことばかり考えて損をする。しかし、今にも泣きだしそうな顔をしている。
「辛かったらさ、無理しなくてもいいよ。本当は降りたいんだろ?」
「でも、今更辞退なんてしたら拓海君にも実行委員会の人にも迷惑でしょ?」
この一言だけで分かる。雪穂はミスコンを続けたいと本心では思っていないし、穏便にやめられるのならやめたいのだろう。薄々感づいてはいたが、雪穂には目立ちたいだとか自分の美しさを他人に見せつけたいだとかそういう感情がないのだ。
「それくらいどうとでもなるっつーの。ちょっとは俺のこと信頼しろよ。そもそも、なんで雪穂はミスコン立候補したんだよ? いや、責めてるわけじゃないんだけど」
少しきつい言い方になってしまったかもと思い、フォローしながら聞いてみた。雪穂は俯いてしまった。
「だって、拓海君がミスキャンパスと付き合いたいって言うから……」
そう言うなり雪穂が泣きだす。そんなことを雪穂に言った覚えはない。
「は?」
「去年、鈴木君とそう話してるの聞いちゃったの」
去年というと、鈴木が去年のミスキャンパスと付き合い始めた頃だ。必修授業の教室で実行委員メンバーで集まってギャーギャー騒いだ記憶がある。
――は? お前ミスキャンパス落としたの? うらやましいな、おい。
そんな感じのことを言った気がする。周りもみんなそう言っていたし、「俺はうらやましくない」なんて言ったら逆にダサいと思ったから。たまたま叩いた軽口を偶然雪穂に聞かれていたようだ。
最悪だ。つまり、雪穂は俺のせいで勘違いをしてミスコンに出て傷つけられた。全部俺が悪い。情けなさと申し訳なさで溜息が出る。同時に雪穂の素直さがますます心配になる。
「あんな男同士の冗談、真に受けるんじゃねーよ。友達がミスキャンパスと付き合ってたら、羨ましい俺もミスキャンパスの彼女欲しいくらいリップサービスで言うだろ」
「でも、ミスキャンパスと付き合いたいから主催団体に入って実行委員長にまでなったんじゃないの?」
「それも、1年の時に鈴木が誘って来たんだよ。鈴木のほかにも仲いいやつみんな入るっていうから俺も入った。みんなどうやったら美人と付き合えるかしか考えてなくてロクに仕事しないから消去法で俺が実行委員長」
大慌てで弁解した後、ふと冷静になる。もしかして俺は自分に都合のいい夢を見ているのかもしれないと思ったが、確認せずにはいられない。
「あのさあ、俺の勘違いじゃなければ、雪穂は俺と付き合いたいからミスコンに出たってことでいい?」
雪穂の目をじっと見つめると、雪穂は顔を真っ赤にして頷いた。
「ごめんなさい。ストーカーみたいなことして。友達もいい線行くから出なよって言ってくれたし、もし何かの間違いでミスキャンパスになれたら拓海君と付き合えるかもって思って……」
雪穂が言い終わらないうちに雪穂を強く抱きしめる。俺だってかなり際どいことを言ったし、寝ている時にキスまでしたのに、雪穂は鈍感すぎる。
「好きだよ、雪穂」
やっと雪穂を堂々と守れる。雪穂を俺だけのものにできる。
「ミスコン、辞退しろよ。他の奴の前で可愛い格好なんてするなよ。俺だけの雪穂でいろよ」
「えっ、そんなことしたら拓海君の立場が悪くなっちゃうよ。それに、今更ミスコン辞退してもいろいろ言われそうだし……」
俺としてはかなり攻めた告白をしたつもりなのに、雪穂は俺や周囲への迷惑ばかり心配している。いや、それとも迷惑をかけることで美好たちに責められることを恐れているのだろうか。それならば、俺のすることは決まっている。
「だったら、今年のミスコンは中止だ! 実行委員長もやめる。俺1人が矢面に立つよ。俺は雪穂が隣で笑ってくれてればそれでいいからさ」
雪穂の体を離す。カバンの中からミスコン当日のステージ使用許可証や重要書類の数々を取り出した。こんなものクソくらえだ。雪穂を地獄に縛り付けている呪いの紙を全部ビリビリに破いてやった。それらを紙吹雪のように天井めがけてばらまいた。白い紙屑が雪のように舞う。
「なあ、一緒に逃げようぜ。プチ駆け落ちみたいでロマンチックじゃね?」
そっと右手を差し出す。内気な雪穂が俺の手をとる。その手を強く握りしめる。二度とこの手を離さない。
「うん、拓海君と一緒なら」
やっと手に入れた世界で1番美しい宝石。でも、この宝石は人に見せびらかすためのものじゃない。この輝きも手の温もりも全部俺だけが知っていればいい。
今度こそ誰にも傷つけさせない。全てを捨ててでも、命に代えてでも雪穂を一生守ると固く心に誓った。