立太子の儀式が終わったあと、宮殿内に戻ると再びメイヤがやってきてそれぞれのアクセサリーについて教えていきました。

 どれもこれも五大精霊の加護が宿ったアクセサリーばかりです。

 イヤリングは風の力によって小さな音も聞き逃さなかったり、声を遠くまで飛ばしたりする効果が。

 ネックレスには枯れた大地に栄養を与え豊穣を与える効果が。

 ブレスレットには水の流れをコントロールして、水をせき止めたり流れを変えたりする効果が。

 最後、指輪には火や熱の力をコントロールして邪魔なものだけを焼き払ったり、料理の恒久的な熱源として利用したり、寒いとき安全な熱源を広範囲にばらまいたり、一定範囲内の気温だけを変え続け野菜の収穫を手伝ったりすることが出きるそうです。

 ちなみに杖だけは破邪専用の効果しかないようですが普段は小さくできるようで、必ず持ち歩くように指導されていました。

 なお、これらの効果とは別に破呪や耐病などの効果が付いているのは当たり前で……本当にイネス公太女様はみんなのお気に入りとなったみたいです。

『……以上がそれらのアクセサリーの効果よ。万が一、落としたりなくしたりしてもアクセサリーに宿っている力であなたの手元に必ず帰ってくるわ。イネス、なにか質問はある?』

「メイヤ様、このアクセサリーのお力は私が自由に使ってもよろしいのでしょうか?」

『お好きに使いなさい。ただし、そのアクセサリーに頼りすぎて心が濁れば力を借りることができなくなるわ。使い放題ではあるけれど使うべきときは考えてね』

「ありがとうございます」

「イネス公太女様もこれで立派に務めを果たせますね」

「そうね。私たちの神域からも援助するって明言しちゃったし」

「その……シント様、リン様。〝公太女様〟というのはやめていただけないでしょうか?」

「おや、なぜです?」

「おふたりは神域の関係者だと明言されました。そうなれば私たち公王家の人間などよりも上位の存在。私たちが敬意を払うべきお方なのです」

 敬意を払うべきお方ですか……。

 そこまで考えていなかった。

「そうなりますな。シント様とリン様は公王以上の格を持っております」

「そうですね。知らぬこととはいえご無礼を」

「ああ、すまなかった。それにしても、プリメーラ姉さんにイネスはどこでこんなすごい方々とお知り合いになれたんだよ?」

 オリヴァー公王陛下、ディートマー公子、ルーファス公子からも頭を下げられてしまいました。

 僕はそんなに偉くないのですが……。

「イネスの命を助ける過程で少しばかり。たまたま会うことができなければイネスを救えていなかったかと考えると本当に幸運でしたわ」

 プリメーラ公女様にとっても幸運ですか、それはよかった。

 僕もこの国の皆さんのことを知ることができて本当に幸運でした。

 リンにとってもきっとそうでしょう。

「そういうわけですので私たちのことは呼び捨てに。公王家ともあろう者が格上の相手に対していつまで敬称をつけられ続けるわけには参りません」

「……メイヤ?」

『そうしてお上げなさいな。角も立たないみたいだし』

「わかりました。イネスちゃん、これでいいでしょうか?」

「ほかは……さすがに公王様は公王様って呼んじゃうけど、ディートマーさんにルーファスさん、プリメーラさんでいいよね?」

「本来ならさん付けもいらないのですが……ここは私たちが折れましょう」

「そうだな。関係をこじらせるよりはるかにいいぜ」

「私も親しく呼んでいただけて嬉しいですわ。……そういえば、お父様。サニお姉様は?」

「……あれは、公金横領の証拠が出てきた。既に独房に閉じ込めてある。ジェイクの騒動を裏で手引きしていた疑いも出てきた。ほかにも同様に反乱を起こそうとしていた貴族がいたことはつかんでいる。そやつらもまとめて捕縛済みだ。斬首刑……いや、さらし者にされた上での斬首刑は確定だな」

「そうですか。それならばこれ以上なにも言いません。サニお姉様の刺客はもう襲ってこないでしょうね?」

「襲ってくる理由を失っただろう。どうあがいてもサニに未来はない。いまから私やイネスを葬ったところで国が混乱するだけ。サニが公王になる道などないのだよ」

「なるほど。では、多少は安心ですね」

「そうだね。だからと言って気は抜けないけれど」

「ウォフ!」

 その日はこれで終了、ただ明日は公太女となったイネスちゃんともども一緒に来てほしいところがあるそうなのでそちらに向かうことになりました。

 あと、寝室が変更されてすごく豪華な部屋になったのですが……落ち着きません。

 元の部屋でも田舎者の僕には豪華だったのに。


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 公王様に連れられてやってきたのは公都から馬車で2時間ほどの距離にある海岸でした。

 メンバーは僕とリンのほか、公王様にプリメーラさん、イネスちゃんです。

 ただ、この海岸、普通の海とは違う……?

「馬車はここまでだ。シント様とリン様も申し訳ないが歩きで砂浜まで……」

『その必要はないぞ』

「え!?」

『シント、ここまで来たのだ。お前が神域の関係者だとばれている以上隠し立てする必要もないだろう』

『そうね。馭者もシントとリンの素性を知っているのだから私たちの本来の姿も見せましょう?』

 シエロとシエルはそう言うと擬態を解き、天翔る馬ペガサスの姿へと戻りました。

「……驚きました。神域の関係者が普通の馬に乗っているのはおかしいと考えていましたが」

『すまぬな。驚かすつもりまではなかった』

『ええ。正体もばれているのならいいかなと思って』

「シエロ、シエル。いきなり過ぎます」

「もう少しちゃんと教えてからにしよう?」

『ともかく我らはここで休ませてもらう。気にせず行ってこい』

『そうね。あなた方の勉強にもなると思うわ』

「……勉強? よくわかりませんが行ってきます」

「お留守番、お願いね」

 ともかく、一波乱ありましたが砂浜へと降ります。

すると海の中から女性がふたり出てきました。

 海の中からどうやって?

「来たか、オリヴァー、プリメーラ」

「そちらの女の子が次代なのね? プリメーラ、私たちと一緒に過ごすつもりはない?」

「申し訳ありません、アーリー様、コロマ様。私の生涯は公太女となった妹のイネスのために使うと決めました」

「そう、残念。それで、そちらの男の子と女の子はほかの神域の関係者よね?」

「ああ、やっぱり神域の関係者なんですね」

「なんとなく雰囲気が似ていると思ってた」

「そうだな。私から名乗ろう。〝海王の里〟契約者、アーリーだ」

「私は〝海王の里〟守護者、コロマよ」

「僕は〝神樹の里〟契約者、シントと言います」

「私は〝神樹の里〟守護者、リン。よろしくね、アーリーさん、コロマさん」

 以前プリメーラさんの話にあった、この国の神域は〝海王の里〟と言うんですね。

 この先もどこかでお付き合いがあるかもしれませんし覚えておきましょう。

「さて、神域の関係者の名乗りは終わったな。クエスタ公国の次代よ、名前はなんという?」

「は、はい! イネス = クエスタと申します! ですが、なぜ神域の関係者がここに?」

「この海には神域がある。クエスタには国ができる前からその加護を与え続けてきた」

「国ができて少し経った頃かしら? 私たちの神域に気付かれちゃってね。そのときの公王があいさつに来たことが関係を持つに至った始まりよ」

「それ以来、代々の公王のみこの神域のことを教えてきた。プリメーラは私たちが神域に案内したことがあるので別枠だがな」

「そういうわけ。あなたが次の公王に決まったのなら私たちのことも知っておかなくちゃいけないの。そしてほかの誰にも教えちゃだめ。理解できた?」

「はい。お約束いたします」

「よろしい。では〝海王の里〟に向かおうか。〝神樹の里〟のふたりも来るか?」

「お邪魔でないのでしたら是非」

「私たち、田舎者だからほかの国のことも神域のことも知らないのよ」

「わかった。では、行こう。《アクアブリーズ》と《アクアウィング》の魔法をかける。……よし。水中でも息ができるし空を舞うように移動ができるぞ」

「イネスは私が手を引いていってあげる。〝神樹の里〟のおふたりは?」

「魔法の鎧を使って飛んだ経験は豊富なので多分大丈夫でしょう」

「遅れそうになったらお願い」

「そうか。では参ろう」

 そのまま僕たちは海の中へと入っていき……確かに水中なのに息ができます。

 アーリーさんとコロマさんのあとをついていくように飛んでいくと魚たちの群れを抜けて一路海底の方へ。

 そして、1時間ほど飛ぶと海底には光り輝く空間がありました。

 あれが〝海王の里〟ですね。

 ほかのみんなも次々入って行きましたし僕たちも続きましょう。