さて、イネス公女様とプリメーラ公女様の帰還の報告、つまり公王陛下との謁見です。
ふたりからは不測の事態に備えて僕たちにも参加してほしいとお願いされていますし、断れません。
控え室に行くと鎧の類いは一切外すように指示を受けたので鎧は外させていただきました。
武器も預かるそうですが、預かりに来た方の心がどす黒い色をしていたのでサニとかいう女の手下でしょう。
そのまま保管庫にしまい、なくなったところを見せて終了です。
僕たちの手札を見誤ってくれれば戦いやすくもなりますからね。
時空魔法や神眼は、本来それらを覚えているだけでもスキル消費値を使い、一般的な人の限界であるスキル限界値100の半分は使っていると誤認してくれるでしょうから。
そう考えると、限界値を1万まで引き上げられた僕たちはなにを目指せばいいのでしょうか?
「シント様、リン様。謁見の準備が整いました。ご入場ください」
「わかりました」
「いま行くよ」
僕のことを案内してくださる方もサニの配下ですね。
明らかに謁見の間以外へと案内しようとしています。
勝手に行くとしましょうか。
「……! お客様、どちらへ!?」
「だって、謁見の間ってこっちじゃない」
「サニという女の入れ知恵でしょう。でも、甘く見ているならあの女と同じ結果を招きますよ?」
「ひっ!? も、申し訳ありません! こちらでございます!」
今度は正しい道を教えてくれるようです。
最初から無駄なあがきはしなければよいものを。
「おーい。よかった、間に合って!」
「あなたは、護衛隊の騎士団長さん」
「どうかしたの?」
「いや、君たちの元に出向いたメイドがサニ公女の一派だと聞き迎えに出たのだが……この様子だと正しい道程を案内してくれているようだな」
「最初は案内してくれませんでしたよ?」
「あの女と同じような結果を招きたくないならちゃんと案内してってお話しただけ」
「……ほとんど脅迫だな。そう言えば、君たちは神眼使いで邪心を見抜くことができ、穢れた心を持つ者は敵対者認定するのだったか。ところで、鎧は?」
「脱ぐように指示をされたので脱いでしまってきましたよ?」
「うん。それもまずかった?」
「……やられたな。君たちは護衛だ。鎧を脱ぐ必要はない。いまから装備しなおす時間はあるか?」
「武器を取り出すだけならともかく、鎧を着るのには時間がかかりますね」
「うん。ブレストアーマーとガントレットくらいならすぐつけられる構造になっているけど」
「ではそれだけでも頼む。本来ならば君たちの優美で勇壮な鎧を愚かな貴族どもにも見せつけてやりたいのだが……」
「うーん、時空魔法を使って一気に着てしまえばできますよ?」
「なに? 君たちは時空魔法まで?」
「はい。可能です。どうしましょう?」
「……わかった、全身の鎧を頼む」
「では、失礼して」
僕は保管庫よりすべての鎧を装着状態で取り出しました。
細かいずれはなおさなければなりませんが、全体はすぐに身につけられて便利です。
リンも終わったようですね。
「……君たちにはいろいろと秘密がありそうだ。だが、プリメーラ公女様とイネス公女様が信頼なさっているのだ。あえて聞くまい」
「申し訳ありません。いろいろと言えないことが多くて」
「ごめんなさいね?」
「いや、そろそろ行かねば入場時間になってしまう。急ごう」
僕たちは鎧姿になってから廊下をスタスタと歩いて行きます。
そして、大きな門の前で騎士団長が止まると門衛の方とお話されていました。
「本当にこのような少年少女が公太女様たちの護衛を?」
「その通りだ。途中、暗殺者の軍勢をほぼひとりで全滅させた立役者でもある」
「あなたのお言葉でしたら信用いたしますが……謁見者リストにも名前は載っていますし入場をどうぞ」
まあ、普通は信用できないでしょうし当然の結果を返されながら僕たちは入場。
騎士団長から教わった通りの場所でひざまずき、顔をうつむかせて始まりを待ちます。
「プリメーラ公女様、イネス公女様、ご入場!」
おふたりもいらっしゃったようですね。
僕たちの後ろからやってきて、僕たちより前の位置で立ち止まりひざまずきました。
「オリヴァー公王陛下、ディートマー公子様、ルーファス公子様、ご入場!」
僕たちからは見えませんが、最前列奥の方から気配が3つ出てきました。
あれがオリヴァー公王陛下とディートマー公子様、ルーファス公子様なのでしょうか。
「一同、面を上げよ」
オリヴァー公王陛下の命で僕たちは顔を上げます。
すると僕たちのことを見ている中で邪悪な心をしている者は……8名ですか。
多いですね。
今日は上級貴族と大臣だけの集まりと聞きましたが、これだけの数が集まるとは……。
それほどまでに〝権力〟とは人を狂わせるのでしょうか?
「よく帰ってきた、プリメーラ、イネス。話をする前に確認だ。イネス、お前の目はもう大丈夫だな?」
「はい、もちろんでございます、公王陛下」
「この場にいる者たちから不適格者を選べ」
「承知いたしました」
場内が喧噪に包まれますが、イネス公女様は穏やかに周囲を見つめてひとり、またひとりと不適格者を指名していきます。
人数も対象者も僕が見立てた相手とぴったり一致していますし、イネス公女様の神眼はもう十分に機能しているでしょう。
「イネス、ご苦労であった。イネスより指摘された者たち。全員この場より立ち去れ。これは公王命令である」
「なにをおっしゃいますか! 私は軍務大臣ですぞ!?」
「私は財務大臣! それを排除しようなどとはイネス公女に二心ありと……」
「くどい。すぐさまこの場を立ち去れ。さもなくば身分剥奪だ」
「くっ……」
「おのれ……」
それぞれ怨嗟の声をあげながら退場していく者ども。
やはり追い出して正解でしたか。
「……頭が痛いな。イネスの〝眼〟であっさりと見破れる者が軍務大臣と財務大臣とは」
「失礼ながら、国王陛下。早急に査察を入れ、不正を行っていないか調べる必要があるかと」
「そうすることにしよう。さて、本題だ。プリメーラ、イネス。よくぞ無事帰還してくれた」
「はい。暗殺者に襲われましたが欠員を出すことなく無事帰還することができました」
「300を越える暗殺部隊を王都までの森に潜ませるなんて大胆なことをする愚か者もいますわね」
今度の発言に場内は本当に沸き立ちました。
人数に驚いているのか欠員が出なかったことに驚いているのかは知りません。
「その……まことか? 300を越える暗殺部隊など?」
「事実です。森の中の道でしたので騎兵の数は少なかったですが歩兵や槍兵はたくさんいました」
「あとは森の中から奇襲をかけようとしていた暗殺者部隊がほとんどですね。弓兵や短剣兵は大量にいましたわよ? 最初に撃ち込まれた火矢の数も優に100を超えていた気がしていますし」
「イネスがいて嘘をつくとは考えられぬ。考えられぬが……どうやってそんな大部隊を始末した?」
「後ろにいるシント様とリン様のお力添えです。シント様は魔法で騎兵、歩兵、槍兵などの道を塞いでいた部隊を一網打尽に。リン様は森に潜んでいた弓兵や短剣兵を次々撃ち抜いていきました」
「そ、そうであったか。して、その証拠は?」
「はい。遺体は私たちの護衛隊の規模では到底持ち帰ることができません。なので、ほとんどを荼毘に伏してから地中へと埋めて参りました」
「一部の死体と装備品のほとんどは持ち帰っております。愚か者どもが手を回し、処分していなければまだ残っているのではないかと」
「近衛騎士! すぐさま娘ふたりを襲った者どもの死体と装備を確保せよ!」
「はっ!」
騎士のひとりが駆け出していきました。
持ち帰った証拠品には護衛騎士団の方々が付いてくれているはずですが万全とは言えないでしょうからね。
「……取り乱してすまなかった。シントとリンと言ったな。娘ふたりを守ってくれて礼を言おう。褒美を授けたいがなにか望みはあるか?」
「望み……ですか。リン、あなたは欲しいものがありますか?」
「特にないかな。プリメーラ公女様とイネス公女様だったから助けたわけだし」
「そうか。では、欲しいものができたとき誰かへ伝えてほしい。無理な要求でなければ応えるとしよう」
「ありがとうございます、公王陛下」
「ありがとうございます」
「さて、謁見はこれで終了したいところだが……ディートマー、ルーファス、なにかこの場で伝えることはあるか?」
「そうですね……お帰り、イネス」
「よく頑張ったな、イネス」
「ありがとうございます、お兄様」
「うむ。……ところで、そのドレス。デザインが我が国のものとはまったく違うのだが?」
「とある方からご紹介いただきました服飾師のドレスです」
「ええ。きついコルセットをはめなくとも元の体型が醜くなければ自然で優美な体のラインが強調されてとても気に入りましたの」
「そうか。その服飾師とやら、今回の旅に同行してはおらぬか?」
「付いてきてくださいました。こちらでもドレスを作ってくださるそうです」
「私たちふたりそれぞれに色違いやデザイン違いなど、既に100着ずつはご用意していただけたのですが……」
「それほどの服飾師、私も会ってみたい。後日紹介してくれ」
「では、そうさせていただきます」
「それでは、謁見を終了とする。皆のもの、大義であった」
これで帰還の報告も終わりましたね。
サニという女が出てこなかったのは……まだ出血が止まらず目が見えていないせいでしょうか?
平和に終わってなによりです。
ふたりからは不測の事態に備えて僕たちにも参加してほしいとお願いされていますし、断れません。
控え室に行くと鎧の類いは一切外すように指示を受けたので鎧は外させていただきました。
武器も預かるそうですが、預かりに来た方の心がどす黒い色をしていたのでサニとかいう女の手下でしょう。
そのまま保管庫にしまい、なくなったところを見せて終了です。
僕たちの手札を見誤ってくれれば戦いやすくもなりますからね。
時空魔法や神眼は、本来それらを覚えているだけでもスキル消費値を使い、一般的な人の限界であるスキル限界値100の半分は使っていると誤認してくれるでしょうから。
そう考えると、限界値を1万まで引き上げられた僕たちはなにを目指せばいいのでしょうか?
「シント様、リン様。謁見の準備が整いました。ご入場ください」
「わかりました」
「いま行くよ」
僕のことを案内してくださる方もサニの配下ですね。
明らかに謁見の間以外へと案内しようとしています。
勝手に行くとしましょうか。
「……! お客様、どちらへ!?」
「だって、謁見の間ってこっちじゃない」
「サニという女の入れ知恵でしょう。でも、甘く見ているならあの女と同じ結果を招きますよ?」
「ひっ!? も、申し訳ありません! こちらでございます!」
今度は正しい道を教えてくれるようです。
最初から無駄なあがきはしなければよいものを。
「おーい。よかった、間に合って!」
「あなたは、護衛隊の騎士団長さん」
「どうかしたの?」
「いや、君たちの元に出向いたメイドがサニ公女の一派だと聞き迎えに出たのだが……この様子だと正しい道程を案内してくれているようだな」
「最初は案内してくれませんでしたよ?」
「あの女と同じような結果を招きたくないならちゃんと案内してってお話しただけ」
「……ほとんど脅迫だな。そう言えば、君たちは神眼使いで邪心を見抜くことができ、穢れた心を持つ者は敵対者認定するのだったか。ところで、鎧は?」
「脱ぐように指示をされたので脱いでしまってきましたよ?」
「うん。それもまずかった?」
「……やられたな。君たちは護衛だ。鎧を脱ぐ必要はない。いまから装備しなおす時間はあるか?」
「武器を取り出すだけならともかく、鎧を着るのには時間がかかりますね」
「うん。ブレストアーマーとガントレットくらいならすぐつけられる構造になっているけど」
「ではそれだけでも頼む。本来ならば君たちの優美で勇壮な鎧を愚かな貴族どもにも見せつけてやりたいのだが……」
「うーん、時空魔法を使って一気に着てしまえばできますよ?」
「なに? 君たちは時空魔法まで?」
「はい。可能です。どうしましょう?」
「……わかった、全身の鎧を頼む」
「では、失礼して」
僕は保管庫よりすべての鎧を装着状態で取り出しました。
細かいずれはなおさなければなりませんが、全体はすぐに身につけられて便利です。
リンも終わったようですね。
「……君たちにはいろいろと秘密がありそうだ。だが、プリメーラ公女様とイネス公女様が信頼なさっているのだ。あえて聞くまい」
「申し訳ありません。いろいろと言えないことが多くて」
「ごめんなさいね?」
「いや、そろそろ行かねば入場時間になってしまう。急ごう」
僕たちは鎧姿になってから廊下をスタスタと歩いて行きます。
そして、大きな門の前で騎士団長が止まると門衛の方とお話されていました。
「本当にこのような少年少女が公太女様たちの護衛を?」
「その通りだ。途中、暗殺者の軍勢をほぼひとりで全滅させた立役者でもある」
「あなたのお言葉でしたら信用いたしますが……謁見者リストにも名前は載っていますし入場をどうぞ」
まあ、普通は信用できないでしょうし当然の結果を返されながら僕たちは入場。
騎士団長から教わった通りの場所でひざまずき、顔をうつむかせて始まりを待ちます。
「プリメーラ公女様、イネス公女様、ご入場!」
おふたりもいらっしゃったようですね。
僕たちの後ろからやってきて、僕たちより前の位置で立ち止まりひざまずきました。
「オリヴァー公王陛下、ディートマー公子様、ルーファス公子様、ご入場!」
僕たちからは見えませんが、最前列奥の方から気配が3つ出てきました。
あれがオリヴァー公王陛下とディートマー公子様、ルーファス公子様なのでしょうか。
「一同、面を上げよ」
オリヴァー公王陛下の命で僕たちは顔を上げます。
すると僕たちのことを見ている中で邪悪な心をしている者は……8名ですか。
多いですね。
今日は上級貴族と大臣だけの集まりと聞きましたが、これだけの数が集まるとは……。
それほどまでに〝権力〟とは人を狂わせるのでしょうか?
「よく帰ってきた、プリメーラ、イネス。話をする前に確認だ。イネス、お前の目はもう大丈夫だな?」
「はい、もちろんでございます、公王陛下」
「この場にいる者たちから不適格者を選べ」
「承知いたしました」
場内が喧噪に包まれますが、イネス公女様は穏やかに周囲を見つめてひとり、またひとりと不適格者を指名していきます。
人数も対象者も僕が見立てた相手とぴったり一致していますし、イネス公女様の神眼はもう十分に機能しているでしょう。
「イネス、ご苦労であった。イネスより指摘された者たち。全員この場より立ち去れ。これは公王命令である」
「なにをおっしゃいますか! 私は軍務大臣ですぞ!?」
「私は財務大臣! それを排除しようなどとはイネス公女に二心ありと……」
「くどい。すぐさまこの場を立ち去れ。さもなくば身分剥奪だ」
「くっ……」
「おのれ……」
それぞれ怨嗟の声をあげながら退場していく者ども。
やはり追い出して正解でしたか。
「……頭が痛いな。イネスの〝眼〟であっさりと見破れる者が軍務大臣と財務大臣とは」
「失礼ながら、国王陛下。早急に査察を入れ、不正を行っていないか調べる必要があるかと」
「そうすることにしよう。さて、本題だ。プリメーラ、イネス。よくぞ無事帰還してくれた」
「はい。暗殺者に襲われましたが欠員を出すことなく無事帰還することができました」
「300を越える暗殺部隊を王都までの森に潜ませるなんて大胆なことをする愚か者もいますわね」
今度の発言に場内は本当に沸き立ちました。
人数に驚いているのか欠員が出なかったことに驚いているのかは知りません。
「その……まことか? 300を越える暗殺部隊など?」
「事実です。森の中の道でしたので騎兵の数は少なかったですが歩兵や槍兵はたくさんいました」
「あとは森の中から奇襲をかけようとしていた暗殺者部隊がほとんどですね。弓兵や短剣兵は大量にいましたわよ? 最初に撃ち込まれた火矢の数も優に100を超えていた気がしていますし」
「イネスがいて嘘をつくとは考えられぬ。考えられぬが……どうやってそんな大部隊を始末した?」
「後ろにいるシント様とリン様のお力添えです。シント様は魔法で騎兵、歩兵、槍兵などの道を塞いでいた部隊を一網打尽に。リン様は森に潜んでいた弓兵や短剣兵を次々撃ち抜いていきました」
「そ、そうであったか。して、その証拠は?」
「はい。遺体は私たちの護衛隊の規模では到底持ち帰ることができません。なので、ほとんどを荼毘に伏してから地中へと埋めて参りました」
「一部の死体と装備品のほとんどは持ち帰っております。愚か者どもが手を回し、処分していなければまだ残っているのではないかと」
「近衛騎士! すぐさま娘ふたりを襲った者どもの死体と装備を確保せよ!」
「はっ!」
騎士のひとりが駆け出していきました。
持ち帰った証拠品には護衛騎士団の方々が付いてくれているはずですが万全とは言えないでしょうからね。
「……取り乱してすまなかった。シントとリンと言ったな。娘ふたりを守ってくれて礼を言おう。褒美を授けたいがなにか望みはあるか?」
「望み……ですか。リン、あなたは欲しいものがありますか?」
「特にないかな。プリメーラ公女様とイネス公女様だったから助けたわけだし」
「そうか。では、欲しいものができたとき誰かへ伝えてほしい。無理な要求でなければ応えるとしよう」
「ありがとうございます、公王陛下」
「ありがとうございます」
「さて、謁見はこれで終了したいところだが……ディートマー、ルーファス、なにかこの場で伝えることはあるか?」
「そうですね……お帰り、イネス」
「よく頑張ったな、イネス」
「ありがとうございます、お兄様」
「うむ。……ところで、そのドレス。デザインが我が国のものとはまったく違うのだが?」
「とある方からご紹介いただきました服飾師のドレスです」
「ええ。きついコルセットをはめなくとも元の体型が醜くなければ自然で優美な体のラインが強調されてとても気に入りましたの」
「そうか。その服飾師とやら、今回の旅に同行してはおらぬか?」
「付いてきてくださいました。こちらでもドレスを作ってくださるそうです」
「私たちふたりそれぞれに色違いやデザイン違いなど、既に100着ずつはご用意していただけたのですが……」
「それほどの服飾師、私も会ってみたい。後日紹介してくれ」
「では、そうさせていただきます」
「それでは、謁見を終了とする。皆のもの、大義であった」
これで帰還の報告も終わりましたね。
サニという女が出てこなかったのは……まだ出血が止まらず目が見えていないせいでしょうか?
平和に終わってなによりです。