最初に孤児院へと食料を配布してから半月が過ぎました。
シルキーやニンフたちもこの半月で様々なバリエーションの料理を教えることができ、各孤児院でもいろいろな料理が楽しめるようになったらしく毎日の食事が楽しみだそうです。
僕たちを通して様子を聞いているメイヤも喜んでいるでしょう。
さて、また半月分の野菜と今日の果物を配って歩いていたのですが途中の孤児院でイネス公女様とプリメーラ公女様の護衛をしている方々の鎧を着た……ええと騎士の方でいいのでしょうか、ともかくその方と出会いました。
「ああ、よかった。やはり本日がおふたりのいらっしゃる日だったんですね」
「はい。そうですが……なにかご用が?」
「プリメーラ公女様とイネス公女様がお会いになりたいと。場所は公王邸別館になります。すべての孤児院に食材を配布し終わってからで構いません。申し訳ありませんがお越しください」
「わかりました。おふたりがお呼びとあれば」
「うん。行くしかないよね」
「では、確かに伝えました。私はこれにて」
騎士の方は馬に乗り帰って行かれました。
ふたりにまたなにかあったのでしょうか?
僕たちは急いで残りの孤児院を回り、食料を渡してシルキーやニンフたちを回収、ベニャトと一度合流してプリメーラ公女様とイネス公女様から呼び出されていることを教えて先に帰ってもらうことにしました。
シルキーやニンフたちは途中で透明化して僕たちが里に戻ったあと召喚するのを待っていてもらいましょう。
さすがにクエスタ公国から神樹の里まで彼女たちの足で帰るのは厳しいでしょうし。
公王邸別館まで行くと門を守っていた騎士の方に通されて敷地内に。
更にその中を女性の方に案内されて応接室と呼ばれる部屋へと案内されました。
そこでお茶を出していただきながら少し経つとプリメーラ公女様とイネス公女様がやってきたのですが……少し顔が暗いです。
一体なにがあったのでしょう。
「お待たせいたしました。呼び出しておきながら待たせてしまい申し訳ありません」
「いえ、気にしていないですよ。それで、なにかありましたか?」
「……はい。その前に。皆のもの、部屋から出て行きなさい」
プリメーラ公女様の言葉に従い、部屋の中にいた方々が全員出ていきました。
これは相当よくない話なんでしょうね……。
「……まずは私からお詫びします。シント様、リン様」
「イネス公女様?」
「お預かりしていたこの街以外の孤児たちへ送る食料の一部、奪われてしまいました」
「事情を話してもらえますか?」
「はい。お預かりした食料はお父様直属の騎士団が確実に各街にある孤児院へと配布いたしました。ですがそのあと……」
「そのあと、どうしたの?」
「……一部の街で横暴な貴族の手によって食料がマジックバッグごと奪われました。申し訳ありません」
なるほど。
邪な心を持つ愚か者の支配者というものはどこの国にでもいるようです。
さて、どうしたものか。
「それで、僕たちにどうしてほしいのですか?」
「……これ以上多くは望みません。せめてこの街の子供たちへの支援だけでも続けていただけませんか? この街の孤児院には私の護衛騎士団を配置するように命令を出してあります」
「なるほど。ほかの街は見捨てると?」
「いえ! 見捨てません! 私の予算を使ってでも支援は続けます! でも、それも毎日美味しい食事を食べさせてあげられるだけの量にはほど遠い。だから、せめてこの街だけは……」
ふむ、ほかの街は自分たちでどうにかするからこの街だけでも助け続けてほしいと。
どうしましょうか?
『お困りのようね、シント』
急に背後から声が聞こえてきたので振り向くとメイヤの姿が。
一体いつから?
「メイヤ様……」
『泣きそうな顔をしないで顔をお上げなさいな、イネス。この程度、予測済みだから』
「え?」
『シント、このふたりには私たちの素性もばれているのだし気にすることもないわ。マインを召喚なさい』
「わかりました。マイン、来てくれますか?」
メイヤの助言に従いマインを呼ぶとすぐにマインが現れました。
その様子も怒った様子はなく平然としています。
『初めましてじゃな、嬢ちゃんたち。儂は土の五大精霊ノーム。いまはシントと契約し〝マイン〟を名乗っている。よろしくな』
「土の五大精霊様……」
『うむ。ついでに言うなら、お主らに渡しているマジックバッグの作製もすべて儂の作品じゃ』
「申し訳ありません! どうかお許しを! この国は農業国、大地の恵みが失われれば……」
イネス公女様がテーブルに額を打ち付けながら大声で謝り始めましたが、マインはまったく気にした様子……というか、謝らせてしまったことに困っている様子ですね。
『あー、勘違いされてしまったか。嬢ちゃんたちが悪いとは言わぬし、この国から豊穣を奪うつもりもない。一部の愚か者に罰を与える許可をもらいに来ただけじゃ』
「罰、でございますか?」
「マイン、罰とは?」
『ああ、シントにも伝えておらぬか。儂のマジックバッグはすべて儂が監視できるように細工を施してある。本来の使われ方以外をされていればいつでも破壊できるようにな』
「そんな仕掛けしていたんですね」
『しておったぞ? それにしてもどこの国でも愚か者はいるか、嘆かわしい』
「……申し訳ありません」
イネス公女様が更に落ち込んでしまいました。
マインも悪気はないのでしょうが……かわいそうだからやめてあげてください。
『ああ、儂の愚痴じゃ。嬢ちゃんを責めてはいない。さて、メイヤ様。儂がこの場に来たと言うことは本来あるべき場所にないものは破壊しても構わないと?』
『そうなるわ。あなたならどのバッグが適切な子供たちの手に渡っていて、どのバッグが適切に保管されていて、どのバッグが不正に奪われたか見分けがつくわよね?』
『無論じゃ。……だが、奪われたものの数もそれなりにあるな。ヒト族は金目のものが目の前にあるとそこまで欲にかられるか』
『では、奪われたものの配置を私にもイメージで教えて。愚か者には処罰を。聖霊の基本よ』
『なるほど、それでメイヤ様もマジックバッグ作りを手伝ってくださったと』
『想定していたことだもの。……場所と数はつかめたわ。マインがマジックバッグを潰せば私の呪いも発動するように細工をしておいたから存分にやってしまって』
『わかりました。……終わったぞい。しかし、呪いとはなんだったのですかな?』
『ちょっとした疫病よ。それを奪うように命じたものとその親族に猛毒の果実を食べた時と同じ症状を発生するように仕向けただけ。今頃は苦しみのたうち回っているんじゃないかしら?』
『聖霊様の毒果実ですか。助からないでしょうな』
『助かるわけがないでしょう? 一週間ほど猛毒にむしばまれ、苦しみ続けて死ぬわ。愚か者の末期、相応しい結果よ』
『確かに。さて、この場での儂の出番は終わりでしょうか?』
『ええ。ありがとう、マイン』
『愚か者に大地の恵みを与えたくない気持ちは同じですからな。それではお先に失礼を』
マインが姿を消し、メイヤが残りました。
さて、このあとはどうするのでしょうか。
『それで、イネス。この不始末はどうするのかしら?』
「はい、メイヤ様。この街の支援だけは続けていただきたく存じ上げます。ほかの街には私が……」
『本当にそれができるの?』
「そ、それは……」
『神眼持ちができないことを言うものではないわ。そのようなことを続ければあなたの心が淀むわよ』
「……申し訳ありません。メイヤ様の里からの支援がなくなればすべての街の孤児院に対する食料を配るなど到底不可能でございます」
『よろしい。今度は本音のようね』
「はい。私のお金も有限です。それ以上に、食料も足りるかどうか……」
『わかったわ。食料は今後も支援してあげる』
「え?」
『あなたやプリメーラのことは気に入っているの。あなたは心の底から謝罪をしてくれたようだし、それを受け入れてあげないようではちょっとね』
「本当でございますか!?」
『ただ、また配布しても同じ結果になるのではないの? そこは大丈夫?』
「それは……申し訳ありません、大丈夫と言えません」
『ふむ、困ったわね。あなたのことは里のみんなも気に入ったようだし、番人代わりを務める気の子もいるようだけれど幻獣や精霊が人の問題にこれ以上関わるのもよくないわ。どうしたものか』
確かに困った問題ですよね。
普通に配布しては奪われる恐れがある。
奪われたところで潰せるがそれを行ったとしてもすべての芽は潰せない。
どうにもできません。
「申し訳ありません。僭越ながらメイヤ様、ひとつだけ解決できる提案がございます」
『なに、プリメーラ?』
「イネスを立太子させるのです。そうすればイネスの意思ひとつで公国騎士団を動かせるようになります。食料の輸送と護衛を公国騎士団に任せれば奪い取ろうとすることは公国への反逆の意思ありということ。その貴族をお取り潰しにする名目もたちます」
『なるほど。イネスの立太子には……なんと言ったかしら? あなたの国の長女しか反対していないのだったわね。それがかなえば問題なくなると』
「はい、その通りでございます。ただ、そうなると問題なのが……」
『なにかしら? この際だから貸せる手はできる範囲で貸すわ』
「姉のサニによるイネスの暗殺です」
……邪魔者はあくまでも殺そうとしますか。
本当に邪悪な方のようです。
シルキーやニンフたちもこの半月で様々なバリエーションの料理を教えることができ、各孤児院でもいろいろな料理が楽しめるようになったらしく毎日の食事が楽しみだそうです。
僕たちを通して様子を聞いているメイヤも喜んでいるでしょう。
さて、また半月分の野菜と今日の果物を配って歩いていたのですが途中の孤児院でイネス公女様とプリメーラ公女様の護衛をしている方々の鎧を着た……ええと騎士の方でいいのでしょうか、ともかくその方と出会いました。
「ああ、よかった。やはり本日がおふたりのいらっしゃる日だったんですね」
「はい。そうですが……なにかご用が?」
「プリメーラ公女様とイネス公女様がお会いになりたいと。場所は公王邸別館になります。すべての孤児院に食材を配布し終わってからで構いません。申し訳ありませんがお越しください」
「わかりました。おふたりがお呼びとあれば」
「うん。行くしかないよね」
「では、確かに伝えました。私はこれにて」
騎士の方は馬に乗り帰って行かれました。
ふたりにまたなにかあったのでしょうか?
僕たちは急いで残りの孤児院を回り、食料を渡してシルキーやニンフたちを回収、ベニャトと一度合流してプリメーラ公女様とイネス公女様から呼び出されていることを教えて先に帰ってもらうことにしました。
シルキーやニンフたちは途中で透明化して僕たちが里に戻ったあと召喚するのを待っていてもらいましょう。
さすがにクエスタ公国から神樹の里まで彼女たちの足で帰るのは厳しいでしょうし。
公王邸別館まで行くと門を守っていた騎士の方に通されて敷地内に。
更にその中を女性の方に案内されて応接室と呼ばれる部屋へと案内されました。
そこでお茶を出していただきながら少し経つとプリメーラ公女様とイネス公女様がやってきたのですが……少し顔が暗いです。
一体なにがあったのでしょう。
「お待たせいたしました。呼び出しておきながら待たせてしまい申し訳ありません」
「いえ、気にしていないですよ。それで、なにかありましたか?」
「……はい。その前に。皆のもの、部屋から出て行きなさい」
プリメーラ公女様の言葉に従い、部屋の中にいた方々が全員出ていきました。
これは相当よくない話なんでしょうね……。
「……まずは私からお詫びします。シント様、リン様」
「イネス公女様?」
「お預かりしていたこの街以外の孤児たちへ送る食料の一部、奪われてしまいました」
「事情を話してもらえますか?」
「はい。お預かりした食料はお父様直属の騎士団が確実に各街にある孤児院へと配布いたしました。ですがそのあと……」
「そのあと、どうしたの?」
「……一部の街で横暴な貴族の手によって食料がマジックバッグごと奪われました。申し訳ありません」
なるほど。
邪な心を持つ愚か者の支配者というものはどこの国にでもいるようです。
さて、どうしたものか。
「それで、僕たちにどうしてほしいのですか?」
「……これ以上多くは望みません。せめてこの街の子供たちへの支援だけでも続けていただけませんか? この街の孤児院には私の護衛騎士団を配置するように命令を出してあります」
「なるほど。ほかの街は見捨てると?」
「いえ! 見捨てません! 私の予算を使ってでも支援は続けます! でも、それも毎日美味しい食事を食べさせてあげられるだけの量にはほど遠い。だから、せめてこの街だけは……」
ふむ、ほかの街は自分たちでどうにかするからこの街だけでも助け続けてほしいと。
どうしましょうか?
『お困りのようね、シント』
急に背後から声が聞こえてきたので振り向くとメイヤの姿が。
一体いつから?
「メイヤ様……」
『泣きそうな顔をしないで顔をお上げなさいな、イネス。この程度、予測済みだから』
「え?」
『シント、このふたりには私たちの素性もばれているのだし気にすることもないわ。マインを召喚なさい』
「わかりました。マイン、来てくれますか?」
メイヤの助言に従いマインを呼ぶとすぐにマインが現れました。
その様子も怒った様子はなく平然としています。
『初めましてじゃな、嬢ちゃんたち。儂は土の五大精霊ノーム。いまはシントと契約し〝マイン〟を名乗っている。よろしくな』
「土の五大精霊様……」
『うむ。ついでに言うなら、お主らに渡しているマジックバッグの作製もすべて儂の作品じゃ』
「申し訳ありません! どうかお許しを! この国は農業国、大地の恵みが失われれば……」
イネス公女様がテーブルに額を打ち付けながら大声で謝り始めましたが、マインはまったく気にした様子……というか、謝らせてしまったことに困っている様子ですね。
『あー、勘違いされてしまったか。嬢ちゃんたちが悪いとは言わぬし、この国から豊穣を奪うつもりもない。一部の愚か者に罰を与える許可をもらいに来ただけじゃ』
「罰、でございますか?」
「マイン、罰とは?」
『ああ、シントにも伝えておらぬか。儂のマジックバッグはすべて儂が監視できるように細工を施してある。本来の使われ方以外をされていればいつでも破壊できるようにな』
「そんな仕掛けしていたんですね」
『しておったぞ? それにしてもどこの国でも愚か者はいるか、嘆かわしい』
「……申し訳ありません」
イネス公女様が更に落ち込んでしまいました。
マインも悪気はないのでしょうが……かわいそうだからやめてあげてください。
『ああ、儂の愚痴じゃ。嬢ちゃんを責めてはいない。さて、メイヤ様。儂がこの場に来たと言うことは本来あるべき場所にないものは破壊しても構わないと?』
『そうなるわ。あなたならどのバッグが適切な子供たちの手に渡っていて、どのバッグが適切に保管されていて、どのバッグが不正に奪われたか見分けがつくわよね?』
『無論じゃ。……だが、奪われたものの数もそれなりにあるな。ヒト族は金目のものが目の前にあるとそこまで欲にかられるか』
『では、奪われたものの配置を私にもイメージで教えて。愚か者には処罰を。聖霊の基本よ』
『なるほど、それでメイヤ様もマジックバッグ作りを手伝ってくださったと』
『想定していたことだもの。……場所と数はつかめたわ。マインがマジックバッグを潰せば私の呪いも発動するように細工をしておいたから存分にやってしまって』
『わかりました。……終わったぞい。しかし、呪いとはなんだったのですかな?』
『ちょっとした疫病よ。それを奪うように命じたものとその親族に猛毒の果実を食べた時と同じ症状を発生するように仕向けただけ。今頃は苦しみのたうち回っているんじゃないかしら?』
『聖霊様の毒果実ですか。助からないでしょうな』
『助かるわけがないでしょう? 一週間ほど猛毒にむしばまれ、苦しみ続けて死ぬわ。愚か者の末期、相応しい結果よ』
『確かに。さて、この場での儂の出番は終わりでしょうか?』
『ええ。ありがとう、マイン』
『愚か者に大地の恵みを与えたくない気持ちは同じですからな。それではお先に失礼を』
マインが姿を消し、メイヤが残りました。
さて、このあとはどうするのでしょうか。
『それで、イネス。この不始末はどうするのかしら?』
「はい、メイヤ様。この街の支援だけは続けていただきたく存じ上げます。ほかの街には私が……」
『本当にそれができるの?』
「そ、それは……」
『神眼持ちができないことを言うものではないわ。そのようなことを続ければあなたの心が淀むわよ』
「……申し訳ありません。メイヤ様の里からの支援がなくなればすべての街の孤児院に対する食料を配るなど到底不可能でございます」
『よろしい。今度は本音のようね』
「はい。私のお金も有限です。それ以上に、食料も足りるかどうか……」
『わかったわ。食料は今後も支援してあげる』
「え?」
『あなたやプリメーラのことは気に入っているの。あなたは心の底から謝罪をしてくれたようだし、それを受け入れてあげないようではちょっとね』
「本当でございますか!?」
『ただ、また配布しても同じ結果になるのではないの? そこは大丈夫?』
「それは……申し訳ありません、大丈夫と言えません」
『ふむ、困ったわね。あなたのことは里のみんなも気に入ったようだし、番人代わりを務める気の子もいるようだけれど幻獣や精霊が人の問題にこれ以上関わるのもよくないわ。どうしたものか』
確かに困った問題ですよね。
普通に配布しては奪われる恐れがある。
奪われたところで潰せるがそれを行ったとしてもすべての芽は潰せない。
どうにもできません。
「申し訳ありません。僭越ながらメイヤ様、ひとつだけ解決できる提案がございます」
『なに、プリメーラ?』
「イネスを立太子させるのです。そうすればイネスの意思ひとつで公国騎士団を動かせるようになります。食料の輸送と護衛を公国騎士団に任せれば奪い取ろうとすることは公国への反逆の意思ありということ。その貴族をお取り潰しにする名目もたちます」
『なるほど。イネスの立太子には……なんと言ったかしら? あなたの国の長女しか反対していないのだったわね。それがかなえば問題なくなると』
「はい、その通りでございます。ただ、そうなると問題なのが……」
『なにかしら? この際だから貸せる手はできる範囲で貸すわ』
「姉のサニによるイネスの暗殺です」
……邪魔者はあくまでも殺そうとしますか。
本当に邪悪な方のようです。