公王陛下たちの呪いも解呪できたことですし、あとはあちらで責任を持って対処していただきましょう。

 僕たちは僕たちのやるべきことをやるだけです。

『それで、〝管理者〟への要請はこれで終わりかしら?』

「はい。願いを聞きとどけていただきありがとうございます」

『では、私は人としてきた目的を果たすことにいたしましょう。そちらの交渉役は誰が?』

「基本的にはイネスが。補佐としてプリメーラも就きます。今日は初回と言うことで私も食料を出すところまでは立ち会いましょう」

『わかったわ。食料を渡しに来るのも今後はシントたちに任せるからそのつもりでいて』

「かしこまりました。それでは参りましょう」

「そうしましょうか。案内していただける?」

「イネス、先導を」

「はい、お父様。こちらです」

「ありがとう、イネス公女様」

 部屋の前で待っていた近衛騎士たちはイネス公女様が先頭で出てきたことに驚いていましたが、この先についても交渉があるため丁重にあつかうためとして言い含めたようです。

 そして、僕たちはイネス公女様に案内されて資材保管庫へ着きました。

 彼女によればこの街の孤児院で配布する食料以外はすべてここに出してほしいそうです。

「さて、それでは並べていきましょうか」

「メイヤ、お手伝いしますよ」

「はい。メイヤ様ばかりを働かせられません」

「そうだな。メイヤ様は袋からマジックバッグを取り出すだけにしてくれ」

「あら、ありがとう。じゃあ、そうさせてもらうわ」

 メイヤの持っていたカバンから次々と肩に背負って運べるサイズの袋が取り出されていき、僕らは保管庫の中にそれらを並べていきます。

 それも50袋ちょっとで終了し……保管庫は袋だらけになりました。

 イネス公女様もプリメーラ公女様も遅れてやってきた公王様もこの光景には驚いていますね。

「し、失礼だが、メイヤ嬢。このすべてがマジックバッグか?」

「そうよ。1袋に100人の1カ月分のお野菜を詰め込んできているわ。中身を確認してもらってもいいわよ? 時間停止も組み込んであるマジックバッグだから中に入れている限り傷まないし」

「……おい、袋をひとつ開けて中身を確認せよ」

「は、はい!」

 騎士の方々が袋をひとつ開けて中身を確認し始めましたが、野菜が山のように出てきて……それぞれの周りに小さな山ができてきた時点で公王様が止めに入りました。

「……もうよい。疑うような真似をして済まなかった、メイヤ嬢」

「いえいえ。確認って大事よ? できれば全部の袋で確認していただきたいけれど……無理ですよね?」

「さすがに100人分の食料が1カ月分も入っている袋を50袋以上確認するのは……」

「まあ、少しでいいから中身が詰まっていることだけは確認してくださいませ」

「いや、野菜類だけでもこれだけあれば多くの子供たちがひもじい思いをせずに済む。この支援、我が国が責任を持って各街へと配布して回ろう」

「よろしくお願いいたします、公王陛下。それでは、私たちはこの街の孤児院へと参りたいのですがよろしいでしょうか?」

「構わないとも。イネス、プリメーラ。お前たちも同行し食材が適切に使われているのか確認してこい」

「わかりました」

「かしこまりました、お父様」

 今回はイネス公女様とプリメーラ公女様もご一緒のようですね。

 僕たちも行く予定ですし、そこへ着いてきてもらいましょう。

「うふふ。次回、各街への食料を持ってくるのは1カ月後予定だけれど大丈夫かしら、イネス公女様?」

「大丈夫です。このフロレンシオでしたら各地へと食料を配布することも楽ですので。公都は国の端の方にあるため遠い街があります」

「じゃあ、支援の基地はフロレンシオにするわ。でも、いつまでもイネス公女様が受け取りをするわけにもいかないわよね? そこはどのようにお考えでしょう?」

「信頼できる者たちを受け取り役として配置いたします。私の目で選ばせていただきますので信用してください」

「わかりました。イネス公女様を信用いたしましょう。シントとリンも構いませんね?」

「もちろんです」

「イネス公女様の推薦なら安心できるわ」

「では2回目からはそういたしましょう。では、外で私たちの仲間が各孤児院へと配布するための食料を待ちわびているはずです。ご一緒に参りましょうか」

「そうさせていただきます。今回は自分たちの目で結果を見届けさせていきたいので」

「失礼ですが念のため」

「先ほども言いましたが確認は大事ですよ? では、参りましょう」

 僕たち4人は公女様たちに先導されてお屋敷の外へ。

 このお屋敷は〝公王邸別館〟と呼ばれているそうで、公王陛下とその家族しか使えないのだとか。

 ただ、食料の持ち込みは必ずここにしてほしいという要望のため、そうさせていただきましょう。

 僕たちは公女様たちとは別の馬車に乗り孤児院のひとつへ。

 最初に向かったのは前回来たときも最初に訪れた孤児院ですね。

「ああ、プリメーラ公女様、イネス公女様。お待ちしておりました」

「ミケ院長、今日はお世話になります」

「いえ、こちらこそ。この度は毛布や冬服までいただいたのに食料までご支援くださるのだとか」

「野菜類だけですが半月分はあるそうです。今回も実際の提供者はシント様たちになります。それから、今回もシント様たちの里長、メイヤ様に来ていただきました。孤児院で失礼な振る舞いがない限り今後も継続して食糧支援を続けてくれるそうです。ごあいさつを」

「まあ! ありがとうございます! 前回はあいさつもせず申し訳ありません! 私が当孤児院の院長ミケでございます」

「そう緊張なさらずとも大丈夫ですよ? 今回の支援はシントたちが持ちかけてきたからこそ里のみんなが動いただけですから」

「しかし、孤児院の規模は……」

「この街の孤児院にいるのは600名程度と聞きました。その人数が毎日食べても困らない程度の食料生産能力があるのです、私たちの里には」

「そうなのですか!?」

「はい。だからこその隠れ里、私たちのことは秘密にしておいてください。それから、この街だけになりますが食料を渡す際に果物も差し上げましょう。さすがに果物は採れる時期が異なるため毎回とは限りませんが、できる範囲でご提供いたします」

「そこまでしていただけるだなんて……まことに感謝いたします」

「いえいえ。今回は料理の仕方を教えるために里の者も連れてきました。普段食事はどなたがお作りに?」

「院の者と年長者で作っております。料理のご指導までいただけるなんて」

「そういうことでしたら、何回かは連れてきた方がよさそうですね。あとでみんなと調整します。とりあえず、ほかのみんなに別の孤児院に配る食料を渡してきますので少々お待ちを」

 馬車に乗っていたシルキーとニンフが何人か降り、残った者たちにメイヤがマジックバッグを渡していきます。

 あれがほかの孤児院用の食料なんでしょう。

 食料を受け渡し終わったあとは馬車も出発していきましたし、ここの孤児院でもそろそろ昼食の準備を始める時間ですよね。

 僕やリンは手を出させてもらえないので眺めるだけになってしまいますが、様子だけはしっかり見せていただきましょう。