イネス公女様たちに連れられ僕たちもフロレンシオ行政庁へと向かいます。

 行政庁には既に連絡が行っていたようで、行政庁の長官という方が出迎えに出ていました。

「プリメーラ公女様、そちらにいらっしゃいますのは……?」

「妹のイネスです。今日の用件はイネスが行政府へ提案を行うと連絡していたはずですが?」

「い、いえ。確かにそう連絡は受けておりましたが、イネス公女様はご病気で床に伏せっていらっしゃったのでは……」

「それなら治りました。あなたの役目はイネスの案内です。イネス、ごあいさつを」

「クエスタ公国第三公女イネスです。今日は孤児院の運営について話があって参りました」

「……孤児院の運営ですか」

「やましいことがおありですか?」

「い、いえ! そのようなことは! ただ、やはり……」

「私にできる範囲の提案です。ただの第三公女の提案、あまり気にしないでください」

「は、はあ……」

「ともかく、孤児院の運営に携わっている部署へ案内を。詳しい話はそこで適切な人員を見いだしてから決めます」

「わかりました。ご期待に添えるかわかりませんが、どうぞこちらに」

「はい。では、参りましょう」

 公女様たちの後に続き僕たちもフロレンシオ行政庁へと入ります。

 そこで案内されたのは行政庁3階奥にある一室、かけられている看板にも〝孤児院運営部〟と書かれていました。

 目的地はここで間違いないでしょう。

 長官がその部屋に入っていくと、長官と一緒に中年のおじさんが出てきましたが……この方はだめですね。

 完全に醜い黒の気配を出しています。

「お待たせいたしました。私が孤児院運営部の部長……」

「あなたではだめです」

「は?」

「プリメーラお姉様。今回の旅には監査のできる文官などはいるでしょうか?」

「いますよ。イネス、なにがしたいの?」

「この部署の会計監査を。不正な会計が行われている気がします」

「そう。護衛兵、聞いたわね。文官たちをすぐに呼び集めてきなさい。そして、すぐにこの部署の会計監査を行うように。ああ、この部署の皆さんはイネスが認めた方以外仕事の手を止めて壁際に離れていてください。不正の証拠を消されては困りますからね」

「な!? プリメーラ公女様、イネス公女様のお言葉だけで不正があると!?」

「では伺いますが不正はないと?」

「当然です!」

「イネス?」

「嘘です。これで確信が持てました」

「は?」

「私は神眼持ち。嘘をつけばすぐにばれます。護衛兵、この男の身柄を押さえておきなさい」

 イネス公女様の命令で護衛兵が部長と名乗ろうとした男の身柄を取り押さえ、入れ替わるようにイネス公女様を初めとした僕たちが室内へと入っていきます。

 中にいた方々は突然起こった騒動に唖然としていますが……中には怯えている方もいますね?

 イネス公女様も目をつけているようですし、あの方も不正に関与しているのでしょう。

「イネス。不正者の処理は文官に任せなさい。お客人もいるのです、先に今回の依頼の担当者を決めましょう」

「はい、プリメーラお姉様。ええと……そこのあなたがいいですね」

 イネス公女様が指名したのは若い女性。

 僕たちの神眼でもかなり綺麗な色をしていますし問題ないでしょう。

「え!? 私、でございますか!?」

「はい、あなたです。問題ありませんよね?」

「え、ええと。私は入庁してまだ3年の……」

「今回の依頼はたいして難しいことではありません。少しお店の紹介と資材の確保をお手伝いいただくだけですので」

「で、ですが……」

「公女命令はあまり使いたくないのですが……公女命令です。従いなさい」

「は、はい!」

 イネス公女様とプリメーラ公女様はその職員を伴い、会議室を一部屋用意していただきました。

 入口には護衛兵を立たせて誰も入れないようにし、部屋の中にいるのはイネス公女様にプリメーラ公女様、僕たち3人とフロレンシオ行政庁長官、それから孤児院運営部の女性のみです。

 今回の話はイネス公女様のとりまとめですし、彼女の手腕に期待しましょう。

「さて、ご存じでしょうが私はクエスタ公国第三公女イネス。あなたの名は?」

「は、はい。シェーンと申します」

「では、シェーンさん。今回の話は私からの提案という形をとらせていただきますが、実際にはそちらにいるシント様たちからの提案になります」

「そちらにいる方々の?」

「はい。僕はシントと言います。今回の提案者になりますね。ただ、この街の……といいますか、この国の者ではないので縁のあったイネス公女様の名前を借りることになりました」

「あ、あの、それと孤児院運営部に何のつながりが?」

「孤児院の運営にはお金がかかるそうですね。国や行政庁から出ているお金でも足りないほどの」

「……はい。私は務め初めてまだ3年ですが孤児の多さに対して予算はまったく足りていません。特にこれから冬になっていくと寒さから風邪を引いたりする子供たちが増えてしまいます。そうなると治療費もかかってしまってどんどん悪循環に」

「この街の孤児院についてはプリメーラ公女様からおおよそ聞いてきました。その上で提案です。僕たちがお金を出しますのでその範囲で子供たちに冬服や毛布を買い与えてください。どうでしょうか?」

「その、ありがたいお話ですが……孤児の多さを考えると多少の金額では……」

「ベニャト、お金を出してもらえますか?」

「おうよ。シェーンって言ったな、嬢ちゃん。金貨やミスリル貨、大銀貨ってのも混じった金を出しちまうが構わないか?」

「え、あ、はい。構いません。3年間だけとはいえ行政庁の仕事をしてきました。お金の管理も多少はできます」

「そうか。とりあえずいま言った3種類だけ取り出す。ほかにも銀貨がかなりあるが、そっちも必要なら教えてくれ。ウォルクに聞いても細かい金になるそうだからな」

「あ、あの。銀貨でもそれなりのお金なんですが……」

「ん? そうなのか? まあ、数が多すぎるから後回しだ。いま言った3種類だけで俺たちの要望が通るかどうかだけ判断してくれや」

 ベニャトはマジックバッグから大量のミスリル貨や金貨、大銀貨を取り出しました。

 シェーンさんと長官さんはそれを見て顔が引きつってますね。

「あ、あの。これだけのお金、どこから……」

「ああ。ヒンメルって言うアクセサリーショップのオーナー、ウォルクへ定期的に俺たちの作ったアクセサリーを売ってるんだよ。最初は金や銀のアクセサリーしか取り扱えないだなんて想像してなかったから少量だった。でも、いまじゃかなりの数が売れているようでな。半月に一度売りに来ているんだが、それでも毎回品切れを起こしてるそうなんだよ」

「ヒンメルの金や銀のアクセサリー……あなたが作っていたんですか!?」

「おうよ。俺と里の仲間のドワーフで作ってるぜ。ただ、ウォルクに買ってもらうアクセサリーの金額に比べてこの街で買っていくものがなくなってきてなぁ。それだけの金が貯まっちまったんだよ。俺たちの里じゃ人里の金なんてほとんど使わないし、この国から巻き上げちまっている金だ。この国に返すのが筋だろう?」

「で、ですが、個人からこれほどの寄付を受け取るわけには……」

 ああ、やっぱりそうですか。

 ここから先はイネス公女様に頑張っていただきましょう。

「はい、私たちもそれが問題になると考えてシント様たちとともに参りました」

「イネス公女様?」

「実際の寄付者はシント様たち3名です。ですが、名目上は私から街への寄付としてください。これなら問題になりませんよね?」

「え、ええと……長官?」

「は、はい。イネス公女様からの寄付でしたら問題になりません。ですが、シント様……でしたか? あなた方はそれでよろしいのですかな?」

「問題ありませんよ。これでも僕たちが使う分は残してありますから」

「そういうことだ。それで、シェーン嬢ちゃん。これだけあれば孤児どもに冬服や毛布の配布はできるか?」

「は、はい! 可能です! ああ、でも、本当によろしいのですか?」

「構わないって言ってるだろう。こっから先はイネス公女様に任せる」

「ありがとうございます。それではこのお金、名目上は私からの寄付として取り扱ってください。それから、このあとの時間は空けられますか?」

「え、はい。可能です」

「では、服や毛布を確保して回ります。孤児の数を把握していますか?」

「ええと……申し訳ありません、孤児院運営部にある記録を見ないと」

「では、その記録だけ持ち出しを許可いたします。あなたは私たちとともに服や毛布の確保です」

「はい!」

 これで懸念点はなくなりましたね。

 監査が入った結果までは知りません。

 犯した罪は償ってもらいましょう。