『ウィンディ様~! 取り付ける布はこんな感じでよろしいですか~!』

『はい、十分です! ありがとうございます、テイラーメイド!』

『いえいえ! 私の布がお役に立つのであれば!』

 ウィンディがヒト族の風車を見て学んできた風車の羽根の造り方。

 それは、〝羽根の部分を細かい十字状の支えだけにしてそこに布をかける〟というものでした。

 確かに、これなら全面クリスタルでできていた風車に比べてはるかに軽くできますし、テイラーメイドの布なら強靱性も抜群。

 あとから僕も魔法で強化しますが、テイラーメイドに言わせると「破れたら何度でも作り直します!」だそうです。

 テイラーメイドも自分の作った布を有効活用してもらえるとわかり、はりきっているんですよねえ。

「しかし、ウィンディ。いきなり巨大サイズの風車小屋を造ってよかったんですか? 窓の位置とかはマインにも指導してもらってあけてありますが」

『十分です! あの作りなら確実に回ります! ヒト族の風車だって自然の風で回っていたのですから精霊や妖精の起こす風で回らないはずがありません!』

「それならいいのですが。とりあえず、テイラーメイドの作業が終わるまで風車が間違っても動かないようにロープなどで固定していますけど……風の者たちはまだかまだかとうずうずしていますね……」

『自分たちの要望が通った証ですから。早く遊びたいのでしょう』

「怪我をしなければなんだって構いません。テイラーメイドが布を貼り終わって僕が強化の魔法をかけたら固定を解除します。さて、本当にうまく回りますでしょうか?」

「うん。私もちょっと心配」

『大丈夫ですよ! 絶対にうまくいきますから!』

 ウィンディまでものすごく乗り気ですが本当に大丈夫なんですよね、これ?

 しばらくしてテイラーメイドが布の貼り付けが終わったため、僕が強化魔法を施します。

 ドラゴンたちから習ったこの魔法、いろいろな場面で使えて便利です。

 それを自在に扱える創造魔法も大概ですけどね。

「それじゃあロープを消します。風の皆さんも怪我をしない範囲で試してみてください」

 僕の声に思い思いの声で応える風の精霊や妖精たち。

 そんなに待ちきれませんか。

 では、ロープを解除して……ああ、もう回り始めました。

『すごいです! まだ風の妖精たちが風を送っているだけなのに回り始めるだなんて!』

「それはよかった。ウィンディも遊んできたいんでしょう? 壊さない程度でしたらどうぞ遊んできてください」

『私、そんなにわかりやすかったですか?』

「物欲しげな目はしていました。早く行ってきなさい」

『はい! 契約者、守護者! また後ほど!』

 ウィンディも風車を回して遊んでいる精霊や妖精たちの輪に加わると、風を送って風車の回り具合を楽しみ始めました。

 まったく、彼女も気ままです。

『風車、できたようじゃな』

「マイン」

 ここでやってきたのはマイン。

 普段は炭鉱にいるはずなのになぜ?

『わりと弱めな風でも動くようで安心した。それにしても風車の羽根は格子状にして布で覆うか。ヒト族の知恵も見倣うべきところは見倣わなければ』

「〝格子状〟とは?」

『あのように縦と横の線が幾本も交わるもののことだ。ああすることで羽根の重さ自体を減らし、布を貼って風を受け止めるか。あとは頑丈な木の棒などで羽根部分を作ってやればなかなか壊れにくくもなるじゃろう。契約者は絶対に壊れない中空クリスタルという秘密兵器を持っているからメンテナンスの必要もない。布だって幻獣シルクアラクネの手作り。幻獣が突撃するような真似でもしなければ破けないだろう。風関係者にはよき遊び場じゃ』

「そうなってくれるなら嬉しいです。ウィンディは頑張っていましたから」

『しかしそうなってくると、次も考えねばな』

「次? 風車小屋の増設ですか?」

『それもあるがもっと手の込んだものを要求してくるかもしれぬ。アイディアは既にあるから困ったら儂の元に来い』

「ありがとうございます。僕もリンもまだまだ知恵不足、知識不足で」

『気にするな。物作りは儂らの趣味じゃ。風車小屋の様子も確認したしもう行く。ではな』

 それだけ言い残すと、マインは帰っていきました。

 ウィンディも含め、風関係の者たちは風車を回すことに夢中ですし……もうしばらくこの様子を眺めていましょう。

 マインの言っていた〝次〟が気になりますが……。


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 巨大風車を作ったあと、もう少し小さい風車もほしいということで近くに二基ほど増設いたしました。

 そちらも羽根は格子状、そこにテイラーメイドの布を貼り付けてもらって僕が強化するというやり方です。

 巨大風車も面白いようですが中型風車ももっと簡単に回せて面白いようですね。

 ちなみに、僕たちが実験で作っていた家サイズの風車も残っています。

 そちらは小型風車となっており、特に力の弱い妖精たちの遊び場になっていました。

 とりあえず平穏な日々が数日続いたあと朝食を食べに行くとウィンディとマインが。

 ……やっぱり〝次〟が出ましたか。

『申し訳ありません、契約者、守護者』

「次の要望が出たんですね?」

『はい。今度は別の方向から風を当てると風車の方向も変わる仕組みがほしいと……』

「マインも一緒ということは解決策もあると」

『あるな。屋根も軽量化できれば問題ない』

「では、朝食を食べたらすぐに初めてみましょうか」

『よろしくお願いいたします……』

『本当に風関係の者たちは気まぐれじゃ』

 メイヤの朝食を食べたら早速、ウィンディとマインを伴って実験用の小屋を建てます。

 その際、小屋の部分と屋根の部分の間に完全な丸形のよく回るクリスタルを挟むように言われましたが、その程度でしたら楽勝ですね。

 創造魔法って本当に便利です。

 そして、屋根も軽量化し風車も取り付けて完成しました。

 完成しましたが……これだけでいいのでしょうか?

『ウィンディ、風を風車の真正面ではなく少し横方向から当ててみよ。さすがに真横などからでは対応できない』

『わかりました……あら? 屋根の向きが変わった?』

『詳しい原理は省くが契約者に球状のクリスタルを挟んでもらった結果じゃ。あれのおかげで屋根が回転するようになり、風車自身がもっとも風を受けやすい方向に曲がっていくのだよ』

「……要望を受けてその日で解決ですか」

「すごいね、マイン様って」

『次の要望など想像できていたからな。ただ、さすがに巨大風車でもうまくいくかまでは自信が持てん。だめだったら諦めよ』

『わかりました、マイン。ありがとうございます』

『うむ。ではさらばだ』

 マインは帰って行ってしまったので、早速テイラーメイドと話をつけてもう一基巨大風車を用意します。

 結果としては〝それなり以上の強風なら角度が変わっていく〟となりました。

 それでも風関係の者たちは満足だったようですね。

 同じ仕掛けで中型や小型の風車もいくつか作ってあげましたし、しばらくは大丈夫でしょう。

 ウィンディからも〝これ以上のわがままは言わせません〟と聞かされましたし、今回の依頼も解決ですね。